3.そして物語は始まる
ここはどこかの森の中。
見上げる程高く聳え立つ木々が生い茂って、動物や虫の鳴き声が響き渡っている。
その中に不釣り合いな少年少女の言い合いが聞こえていた。
「あんた! 何回言ったら分かるのよ!」
「うるせぇな、問題なかったから別にいいだろ」
「っ! 偶々上手くいっただけじゃない!」
その声に驚いたのか、周囲の鳥が羽ばたいてその場から離れていく。
「全く、そんな短気だと嫁の貰い手がいなくなるぞ」
「あんたに心配されることじゃないわよ!!」
さて、この二人が何を言い合っているのかというと……、傍で息絶えている動物がいて、彼等が武器を持っているのを見る限り狩りをしているところだったのだろう。
そこで、少女の言うことを聞かずに少年が勝手をしたために少女の怒りが浸透し、少年は結果として目的を達成したのだから問題ないと反論しているといったところか。
この光景を見る限り彼らにとってこれが日常なのだろう。
しかし、二人はここが森の中と言うことを忘れてはいないだろうか。
野生の、それも狂暴な生物がいてもおかしくはないことを。
「グルァ!!」
突然響く獣の鳴き声。
「な、なに?」
「馬鹿! お前が騒ぎすぎたから何か来たんだろ!」
突然の事態に流石に言い合いをやめ、鳴き声の聞こえた方へと振り返る二人。
そこには鋭い牙を見せ、涎を垂らした狼が一匹いた。
「……良かった、ただの狼か」
現れたのが一匹の狼なら対処するなら容易いと考えた少女は安堵するが、少年の方は警戒を緩めてはいない。
「安心するのはまだ早いぞ。まだ他にもいるか……も……」
その判断は正しかった。何故ならば木々の陰から一匹二匹と新手が来たのだから。
いや一匹二匹どころではなく、次々と現れてくる。その数が数十匹を超えたあたりから二人は数えるのをやめた。
「……これのどこが良かったんだ?」
「……どこなんだろうね?」
予想以上の数に二人が冷や汗を流しながら後ずさる。
一歩、二歩と下がるのに合わせて狼の群れも同じだけ距離を詰める。
威嚇のための唸り声が不穏な曲を奏でる中、二人はゆっくりと顔を見合わせて言葉を交わさず同時に頷く。
二人の考えは先程と違い、同じだ。
「「逃げろーーー!!」」
二人は合図もなしで同時に振り返りながら脱兎のごとく駆け出した。
『ウォーーーーーン』
二人が駆け出したと同時に、獲物を逃がすかと言わんばかりに狼の群れが彼等を追いかける。
「うぉおおお! 何でこんなにいっぱいいるんだよ!」
「知らないわよ! あんた男でしょ! 何とかしなさいよ!」
「無茶言うな! つかまだ増えてきてんだけど!」
「いやあああ! こんなので死にたくなーーい!」
群れに追われながらも言い合う二人、意外と余裕だ。
実際問題、狼が出る森の中で狩りをしている事を考えると、数匹程度なら対処可能だったのかもしれないが。数が数だけに対処不可能と判断したのだろう。
何せその数はもう三十匹は超えている。
「はぁっ、はぁっ、もう、無理! 限界よ!」
「はぁっ、頑張れ! はぁっ、もう少しで村だ!」
「無理! はぁっ、足が限界よ!」
「くそ! はぁっ、はぁ……、あっ! あそこの木だ! 木に登れば追ってこれないだろ!」
限界を超えそうな中、少年が少し先の木を指を差す。
「それは、名案ね!」
それに同調した少女が少年の指さす方へと方向を修正し、目的の木の方へと二人で走る。
先に着いた少年が木の方へ背中をつけ、両手を拝むように合わせて下へ向ける。その両手へと直ぐ後を走っていた少女の方がその勢いのまま片足を乗せたのと同時に、少年が力いっぱい少女を上方へと投げ飛ばした。
「うらぁっ!!」
気合の掛け声と一緒に少年の身長の3倍ほど高く飛んだ少女が器用に木の枝に着地、間髪入れずに振り返りながら片手は木をつかみ、もう一方の手は少年のいる方へと差し出す。
「早く捕まって!!」
少女を投げ飛ばして直ぐに振り返っていた少年は、差し出された手に向かい、木を駆け上がるようにして飛びついた。
「んん! 重いぃ!」
「うるせぇ! いいから早く引き上げろ! うわっ! 足元にもう来てる!」
ドタバタとしながらも無事に二人は木の上へと避難を完了する。
眼下には狼の群れが唸りながら見上げてくるが、流石に登ってはこれないようだ。
「はぁ、助かった。ここならこいつらも来れないでしょ」
「ああ、後は諦めてくれるまで待つか」
狼が登ってこないのを確認した二人は安堵の息を吐き狼の群れが去っていくのを待ち続けることにした。
「……いなくなったわよね……」
「とりあえず見える範囲にはいないな」
一時間程待ち続けただろうか、二人の事を諦めた狼たちが視界からいなくなったのを確認しあった彼等は、周囲を警戒しつつも木の上から降りる。
「あ~あ、折角獲物仕留めたのに無駄足になっちゃったな~」
「仕方ないだろ、流石にあの数の狼を相手にしてたら危なかったんだから。とりあえず、もう一回行くのも危険だから村に戻るぞ」
「はあ、父さんに叱られるかも……」
仕留めた獲物をそのままにして逃げたことを嘆く少女を少年が窘めながら、村へと戻ることを促して歩き出す。
狼の群れがまだ近くにいることも考えての判断とわかっている少女は、その事に肩を落としながらも文句を言わずについていく。
「……帰り道にいないかな……」
未練たらたらだったが。
―――――――――
彼らはその後何もともなく村へと到着した。
相変わらず仕留めた獲物を持ち帰れなかった事を悔やむ少女と、それよりも狼の群れに対処できなかったことを悔やむ少年が、村の中でも一際大きな家に向かって歩いていく。
「……ただいま~……」
その家は少女の家なのだろう、少女が帰ってきたことを知らせる挨拶を控えめな声で発した。少年もどことなく元気がなく、無言で後をついていく。
すると、家の奥から人の歩く音が響いてきた。
その音に少女は溜息をつき、少年は背筋を伸ばし身を固くした。
「おう、帰ったか」
奥から出てきたのは、身長が2メートルは超え、来ている服を押し上げるような筋肉で、顔を斜めに切りつけたような傷跡がある強面の人物がいた。
控えめに言っても子供が見たら泣きだしそうな人相である。
その人物の声に二人ともビクッと肩を震わせ、声も若干震わせながら返事をする。
「…た、ただいま。父さん」
「…今帰ったよ、ヴェルノさん」
どうやら、この強面の人物は少女の父親らしい。少年も親しみをこめた呼び方をしているところを見ると、それなりに親しい関係だと思われる。
二人の様子から何かを察した少女の父親ヴェルノは、眉間に皺をよせて二人の事を見つめる。
そして、二人の出かけた目的を知っている彼は、見つめたその手に目的の物がない事を確認して溜息を吐く。
「はぁ、さてはお前ら……失敗したな」
「……はい」
「……面目ない」
一発で見抜かれた二人は肩を落としながら肯定する。と言っても言い逃れができるとは思っていなかった様子だが。
「えっとね、え、獲物が見つからなかったのよ」
しかし、少女は諦めない。獲物がいなかったから取ってこれなかったのだと言い訳をした。
その言葉を聞いたヴェルノは、視線を少年の方へ向け口を開いた。
「で、本当は?」
「……はぁ、仕留めた後に騒いだせいで狼の群れに襲われて逃げてきた。すまなかった」
「あ! 裏切者!」
ヴェルノの視線を受けた少年は観念し、事実を正直に話し頭を下げた。
一応、少女が騒いだと言わない辺りに少年の優しさが見える。
少女の方は裏切られたと思ったので、気持ちは伝わってはいないが。
「……で、何か弁明はあるか?」
「……すいませんでした」
しかし、流石は父親と言ったところか、少年の証言を聞いて直ぐに少女を睨んだところを見ると、誰が原因かがわかっているようだ。
少女の方は真実を話されたおかげで、言い訳を言うこともなく素直に謝った。睨まれた瞬間、直ぐに膝をつき頭と手を下げて土下座をしたのでよくある光景なのだろう。
少年がその姿を呆れた目で見ているが、驚いた様子はない事からも察することが出来る。
「はあ、最初から素直に言っておけば別にそんなに怒らんのに、何でお前はいつも無駄に言い訳をするんだ?」
少年と同じく呆れた様子で少女を見下ろすヴェルノ。どうやら彼は理由はともかくとして、素直に話さないことに怒っているようだ。まあ、当たり前だ。
「……何とかなるかと思って」
頭を床につけながらも、火に油を注ぐような発言をする少女。多分この子は少し頭が足りないのだろう。
「馬鹿野郎! お前の嘘なんか簡単に見破れんだから、何とかなるわけないだろ!!」
「ひぃっ! ごめんなさい!」
当然のように怒鳴られる少女。
少年は我関せずと少女から距離を取る。少年の方は少女と違い頭が回るようで、さりげなく自分が怒られるのを避けた。
それから、土下座はやめたものの正座の姿勢はやめさせられない少女が父親から説教を受けて、それを横から見る少年という構図が暫く続いたのであった。
「あ~、足痛い~」
「自業自得だろ」
説教から解放された少女と見物人だった少年は今現在、夕飯の買い出しに行かされていた。
「うるさい、裏切者」
「別に裏切ってねぇよ、正直に話しただけだ。つーか、買い出しくらい俺も一緒に行く必要ねぇだろ」
愚痴を言いながら歩みを進める少女の一歩後ろをついていく少年。
少年が言うように、夕飯の食材を買うだけであれば付き添いなどはいらないはずだ。
というか、少年はさっさと自分の家に帰ってしまいたいと思っている。
「いいじゃない、付き合いなさいよ。何だったら家で一緒に食べればいいじゃない。どうせ、適当な料理作ってんでしょ」
「今日は別にいい。早く帰って休みたい、何か今日は疲れた。あと適当は余計だ」
「何よ情けないわね。……まあいいわ。それじゃさっさと帰りなさい」
「言われなくたって帰るよ」
傍から見たら険悪にも見える、二人にとってのいつもの言い合いが終わり、宣言通り少年が自分の家に帰っていく。少女も自分の買い物を済ませるために歩き出す。
この村ではよくみられるいつもの平和な日常。
しかし、日常というものはいつ何処の世界でも突然に、しかも簡単に崩れさるものだ。
この村に住む彼等も例外ではない。
―――――――――
その日彼らはいつものように二人で狩りに出かけていた。
「——今よ!」
「おらっ!」
ザシュっと、少女が誘導した獲物を少年が愛用の剣で仕留める。二人で狩りをしている時はいつもこの連携だ。実は前回のように変な言い争いなどを行わなければ、彼等は村の中でも上位の腕前である。それは、彼らが仕留めた獲物が積み込み用の台車の荷台に山になっていることからも明らかである。
「ふぅ、今日は大量だな」
「そうね、これなら父さんに何も言われないで済むわ」
「……ヴェルノさんの事怖がりすぎだろ」
「しょうがないじゃない。怒ると怖いし、説教が長いんだから」
それはお前が悪いんだろと、少年が口には出さずに仕留めた獲物を荷台に乗せていく、そしてこれ以上荷台に乗りきらないのを確認し、少女に変える旨を伝えようと声を掛ける。
「おい、これ以上積めねぇから帰るぞ」
「……ん? うん、わかったわ」
しかし、少女の方は何かを考え込むようにして、一拍反応が遅れた。少年はその様子が気になり、疑問をぶつける。
「? どうした、何かあったのか?」
「ん~、気のせいならいいんだけど……」
「何だよ気持ちわりぃな、言ってみろよ」
少年の疑問に対し、少女は歯切れの悪い返事をした。その様子がいつもと違うので、少年はからかいながら再度問いかけた。とても、見た目十代の少女に掛ける言葉ではないが。
「気持ち悪いって何よ! ……ちょっといつもと森の様子が違うなって思ってたのよ」
「そうか? 何か違ってたか?」
「……あんたって、こういう事はホント鈍感よね。まあいいわ、それよりも普段こんな森の浅いところで、こんなに獲物を狩ることができた?」
少女の問いかけに少年は頭をひねる。
「ん~、そういえば今日はやけに森の浅いところでしか狩りをしていないな」
「でしょ、何かやっぱりおかしいよ。帰ってから父さんに聞いてみよう?」
少年が少女の問いかけに同意し、少女が父親に報告することを伝える。しかし、少年の方は納得していないのか、捻ったままの頭を縦には振らなかった。
「いや、報告するにしてももう少し調べた方がいいんじゃないか? ただいつもより、獲物が多かったって言っても偶々だって言われるだけじゃないか?」
「それはそうかもしれないけど……」
少年の言うことにも一理あると、少女は考えるが気が進まないのか歯切れが悪い。
「何だ怖いのか? だったら俺だけで調べて、お前はヴェルノさんに報告してきてもいいぞ」
その様子を見て気を使ったのか少年が二手に分かれるという提案をする。しかし、実質その提案は意味がない。なぜならば、少女が一人で報告をしたところで、先程少年が言った通りのことになるだけの可能性があるからだ。少女もその事に気付き、提案に対して難色を示す。
「ねぇ、それじゃ意味ないじゃない。……もう、仕方ないわね、気は進まないけど一緒に行くわよ。あんた一人にしとくと迷子になるしね」
「うるせぇ、誰が迷子になるか」
結局、少女の方が折れ二人で調査を行うことになった。
しかし、この決断により二人の運命が大きく変わることになるのだった。
―――――――――
「何にもねぇな」
「何もないわね」
森を探索すること数十分、彼らは狩場で来る場所でも一番村から離れている所まで来ていた。
しかし、その場所までの道のりには不自然なところもなく順調といえば順調に探索は進んでいた。
「まぁ、何かいつもより森が静かな気がするけど」
「そうね、気のせいで済むぐらいじゃないかしら」
と、目立った異変がない事に二人は少し肩透かし食らいつつも、何事もなく安堵するという矛盾した気持ちになっていた。
森の様子に少女は探索の前に抱いていた不安がなくなったのか、少年の前を歩いて率先して探索をしている。
「やっぱり、偶々だったんじゃないか。そろそろ獲物持って帰らねぇか?」
探索の結果が芳しくないので、少年がこれ以上歩いても意味がないと思ったのか、帰る旨を伝える。
「……そうね、これだけ歩いても何も見つからないってことは、あたしの気のせいだったってことよね」
少女もこれ以上歩いても何も見つからないと思い、村へと帰ることに納得する。
しかし、二人の判断は遅かった。いや、最初の時点で間違っていたのだ。
『ガルァ!!』
「何だ!!」
「!!」
突然の咆哮に彼らは驚き振り返る・・・・。
「マジかよ……」
「嘘でしょ」
彼らが振り向いた先、それは当然帰り道だ。
そこには三匹の狼がいた。いや、狼に似た何かと言うべきか。
鋭く生えた犬歯に、長く鋭く伸びた爪、そして何よりも特徴べきなのが二つに分かれた体長ほどもある尾。
「ガルム!?」
「ち、厄介な! 三匹もいやがる」
彼等が狼狽えているのも仕方がないだろう。
彼らがいる森には動物の他に、『魔物』と呼ばれる危険な生物が存在している。いや、生物と言うのは語弊があるだろう。奴らには、肉体というものがないのだから。
動物とは違い、魔物と言うのは『魔素』と呼ばれるもので形作られており、人間や他の生物に見られる内臓やその他生物に必要と思われる物が存在していない。
そして、動物と大きく違うのはその生態だ。
動物は生きるために他の生物を襲うことがある、それは人間も同じだが。魔物は違う。
魔物はただ他の生物を殺すために存在している。即ち、存在そのものが人間、延いては生物全体の害悪である。その為、基本的に魔物は凶悪であり、他の生物に比べて力も強い。
具体的には狼とガルムを例に出すと、狼が十匹に対してガルムは一匹でも狼を殲滅することが出来るくらいだ。従って彼らが焦るのも無理はないだろう。しかも、基本的にガルムは十数匹の群れで行動しているのが、彼らの中での常識だ。
「これはやばいな」
「逃げれないよね?」
退路を断たれた二人は、警戒しながら後ずさる。村への道は三匹のガルムに塞がれ、他の道はすべて獣道
、とてもではないが道なき道を迷わずに、ましてやガルムから逃げつつに行くなどは現実的ではない。
だからと言って、二人の実力が低いという訳でもない。実の所、過去に二人で倒したことがあるのだ。
しかし、その時はヴェルノが後ろにいて、尚且つ群れを退治した後の最後の一匹相手の時だ。
今とは状況が違う。
だからと言って、二人とも諦める性格はしていない。
「……全滅させるのは無理だ。三匹だけとは限らないからな。だから、一転突破をしつつ最低一匹を仕留めて、最低でも3匹とも手傷を負わせるぞ」
「…それが妥当よね。じゃあ、いつも通り私が牽制であんたが突っ込むって、作戦とも呼べないけどそれでいくわよ」
「ああ」
そう言いつつ、二人は各々愛用の武器を構える。少年は剣、少女は弓を構え、今にも襲い掛かってきそうなガルム等と相対する。
「行くぞ!」
少年の合図とともに、二人が動き出す。と同時にガルムも三匹同時に咆哮を上げて走り出した。
両者の距離は約五十メートル、ガルムは俊足だ、その距離は2秒もあれば問題のない距離だ。
しかし、そんなことはわかっている二人は少年が前に出て武器を構え、少女は矢を三つつがえて迎え撃つ体勢を走り出す前に整えていた。
「シっ!」
走り出したガルム三匹めがけて矢を射る少女、狙いは正確で各々の眉間あたりに向かって突き進む。しかし、敵もさるもので三匹とも自らの尾で、常人には視認することもできない速度の矢を弾くが、出鼻をくじくことには成功した。矢が射られると同時に走り出していた少年は、その隙を見逃すことなく一番近くの一匹に狙いを定めて剣を振るう。
「らぁっ!!」
『ガッ!』
少年の技量が高いのか、それとも運が良かったのかはわからないが、振り下ろした剣がガルムの首を跳ね飛ばす。と、同時に三匹の穴を走り抜けた。
状況は挟み撃ちへと変わり、形勢は逆転かに見える。だが、今のは奇襲が偶々うまくいっただけで、戦力的にはまだ相手の方が上だと二人は理解している。
ガルムは奇襲と挟み撃ちのお陰で、直ぐには動き出す気配はないが、先の奇襲のせいで警戒心が強まり、同じ手はもう使えないだろう。
一手目は成功、次なる手を使うために二人はアイコンタクトでタイミングを合わせる。下手に声を上げると、相手を触発させるからだ。
息を併せ、二人は同時に行動した。
少年は一匹のガルムに狙いを定めて走り出し、少女は矢を放つと同時に弓を捨て短剣を構えて少年とは違う標的に狙いを定めて走り出した。
『『ガァ!!』』
二匹とも怯むことなく矢を尾で弾き、それぞれの相手を見据え、近づいて来た二人を同時にその鋭い牙で襲い掛かる。
「「今だっ!!」」
襲い掛かってくるのを予測していた二人は、ほぼ同時に走る速度のまま互いの・・・相手の方へと回避行動をとる。そして互いの方を向いている、ガルムをそれぞれの武器で切裂いた。
『『ガァァッ!!』』
少年の斬撃が胴体を深く切り、少女の斬撃が首を深く切裂いた。それでも、この魔物の致命傷には届かないが、足を止める程の手傷を負わせたと判断した二人は、村への帰路に足を向け走り出した。
「ハッ、やってやったぜ!」
「油断しない! 村まで走り続けるわよ」
『『グラァァッ!!』』
見事に包囲を抜けた二人はガルムの咆哮を背に走る。二人の一撃でガルムは受けたダメージのお陰でフラフラだ。倒そうと思えば、二人の実力であれば倒せたかもしれないだろう。しかし、増援の心配があるためにその可能性を無視し、走り続ける二人。
包囲を抜け出してから数十分。
途中で、走るペースを落としたり、休憩を挟みながら村へと帰る二人は、もはや完全にガルムから逃げることが出来たと安堵していた。
しかし、未だに森の中。
いくら目の前の脅威が去ったといっても危険は隣りあわせだ。
いつ、何が起きてもおかしくはない。
異変を感じていたその森ではなおさらだ。
――ガサッ。
じっとしていれば聞こえていたであろう、草をかき分ける音。
少年の耳には入り、少女の耳には入らなかったその音。
それは微々たる差異ではあったが、彼らの運命を決定的に変えることになった。
「っ!? 危ねぇ!!」
「え? きゃあ!」
咄嗟の判断で少女を突き飛ばす少年。その側頭部を少女を狙っていたであろう、ガルムの長い尾が強打した。
「うぁ!」
短い悲鳴を上げて、振りぬかれた尾の勢いのまま数メートル吹き飛ばされる。
少年に突き飛ばされた少女は、状況についていけずに目を白黒させるが、直ぐに現状を理解して短剣を抜き、戦闘態勢で振り返る。
その先には吹き飛んだ少年の方を不気味に光る双眸で睨んでいるガルムの姿があった。
「シッ!」
一息に数メートルの距離を縮め、少年の方を見つめて油断しているガルムの首を狩る少女。
ガッと短い悲鳴を上げて怯んだガルム。少女はその隙を逃さずに返す刃で、先の斬撃の反対から同様に切りその首を落とすことに成功した。
「やったっ! ——そうだ、あいつは!」
ガルムを仕留めたことに安堵する少女。しかし、先程庇われたことを思い出し、吹き飛んだ少年の元へと向かう。
駆け寄った先の少年は頭から少量の血を流している程度の軽症であったが、当たりどころが悪かったのか意識を失っていた。
「ねぇ! 大丈夫!?」
少女は軽症だった少年に安堵しつつ、意識を呼び戻すために声をかけた。
数回ほど揺さぶりながら呼びかけた時に、少年が小さく呻きながらゆっくりと目を覚ます。
「――っ、よかった。……どうしたの?」
少年が目を覚ましたことにより、少女は安堵の表情で息を吐く。
しかし、目を開けた少年は不思議そう・・・・・な表情で少女を見つめていた。
まるで、今の状況を理解できていないかの様な表情で―――。
「……里香?」
『地球』での幼馴染の名前を呟いた。
――斯くして、彼らの運命は交差する。
その物語は世界を巻き込み、世界に巻き込まれ、進んでいくだろう。




