2.召喚
2話目です
石造りで作られた窓もない建物の中に、数人の男女が室内の中央に描かれた文様に倒れている数十人の子供達を見ていた。その表情は様々で、驚きや喜びが大半、不安や失望といった目で見ているのが少数といったところだ。服装に関しては大半が頭まで被さるローブを着用し、一部の人たちは豪奢な衣装を着ていた。
「おお!成功だ!!無事に召喚で来たぞ」
「しかし、彼らが国を救う者達なのか?まだ、子供ではないか」
そんな声が聞こえたのを皮切りに、ざわざわと近くにいる人達と各々で話始めた。
「静まれ!」
騒がしくなってきた室内に、威厳のある声が響く。声を発した人物は、他の人よりも特に豪奢な衣装を身に着けている壮年の男性だった。その人物の一声で騒がしくなっていた室内がシンと静まった。
そんな中、部屋の中央で気を失っていた子供達が徐々に目を覚ましていく。
「…いったい何が?」「ここどこ!?」「誰だよあんたら!?」「誘拐!?」「これって…、もしかして…」
目を覚ましていく者から順に、自分の置かれた状況の意味不明さに不安げな声を上げていく。
一部は期待が籠っていたが。
「…ハリキ」
「…大丈夫だ、刹那。状況はわからないが、とりあえずあちらさんに危害を加える気はないみたいだ」
「…冷静だね楠木君。あたしなんて、不安で震えが止まんないよ」
「千歳、心配すんな。何があっても俺が守るから」
皆が戸惑い叫んでいる中、偶々近くにいた楠木達はひそひそと現在の状況を冷静に確認していた。
すると、全員が目を覚ましたのを確認した壮年の男性が、威厳のあるよく通る声で語りかける。
「皆の者!一先ず静粛に!……我が名はラスティン・ハインケル!この国、ハインケル王国の国王である」
「ハインケル王国?」
楠木は聞いたこともない国の名称に首をかしげると、同じことを思ったであろうクラスメイトがどこだそれは、お家に帰して等と口々に騒ぎ立てた。
「静かにしろ!!王の御前であるぞ!! 」
その事に腹を立てた、国王の護衛風な男が厳のある大声を上げ、腰に下げた剣を抜き楠木達に突きつける。その行動に騒いでいた生徒たちは見慣れないが、それでいて明らかに本物であるだろう剣の煌めきに恐怖のあまり声が出なくなる。
「やめよ、ルカード。彼等の言い分はもっともである、突然知らぬ場所に連れられてきたのだから仕方あるまい」
「…はっ、陛下がそう仰るのならば」
ラスティン王の言により、護衛の男『ルカード』が剣を下ろし、腰に収める。目の前から剣が下ろされた事による安堵感と、ラスティン王の言葉に自分達を労わる気持ちを感じた生徒達はその場の中心人物に自然と目を向けていく。
「……ふむ。とりあえず、話を聞ける状態になってくれたか」
生徒達に冷静さが見えたのを確認したラスティン王は、一度周囲を見回し威厳に満ちた声で語りだした。
「一先ず、其方達には申し訳なく思う。…我が国の現状ではこうする他なかったのだ」
「陛下! 頭をお上げください!」
国の頂点である王様が頭を下げる、という事にその場の全員が驚愕する。
「よいのだルカードよ、この者等は我が国の事情とは全くの無関係であるのだ。こちらの都合で振り回すからには、それなりの誠意を見せねば協力してもらう事も出来ぬだろう」
「し、しかし……」
「あ、あの~、取り合えず状況を説明してもらってもいいですか?」
そんなやり取りに緊張が解けた生徒、クラス委員長である『谷風 楓』が痺れを切らして声を上げた。チャームポイントのポニーテールを不安に揺らしながら、ハインケル王を見つめる。
「む、済まぬな。ルカードよ、一先ず下がれ。この者等への説明が先だ」
「はっ、承知しました」
楓の一声により、ラスティン王とルカードが押し問答をやめ、ルカードを下がらせたラスティン王が静かに語りだした。
「……其方達を呼び出した理由だが、まずは我が国の現状を説明しよう。その方がわかりやすかろう」
ラスティン王が語った、ハインケル王国の現状は平和な世界に生きてきた生徒達には信じられない事であった。
まずは、世界の事についての説明だった。大陸の名はサザラントといい、その北端にハインケル王国、東にへブリック共和国、西にグラストル商業国、そして南側に大陸最大の軍事力を誇るダラム帝国といった周辺諸国に関しての知識。そして、その中でもダラム帝国は敵対していて、今は冷戦状態で一色触発といった現状だ。
東と西の国に関しては中立ではあるが、ダラム帝国には逆らえないといった感じで、ハインケル国は味方と呼べるものがいない孤立無援である、という説明があった。
「えっと、それじゃあ私達に戦争に参加して欲しいとという事なんですか?」
そこまでの話を聞き、思わず疑問、というか不安な声を上げた刹那。その声を聴き、他の生徒達がざわざわと騒ぎ出す。
「不安に思う気持ちもわかるが、話を最後まで聞いてほしい。我等が其方等に求めるのは、それだけではないのだ」
その声に応えるラスティン王が、次に語るのは国の現状についてだ。
ハインケル王国は現在、敵国のダラム帝国とは文字通りの冷戦状態で、戦争がすぐに始まるというわけではないという事。ダラム帝国自体もハインケル王国以外の敵国があり、その事だけに気を捕らわれるわけではなく、他の国も警戒しなくてはいけないとの事だ。
それ以外での国の問題というのが経済に関してであり、楠木達が呼ばれたわけでもあるとの事だ。
「経済…ですか?」
思わず口に出した楠木、それもそのはず、ただの高校生である楠木達に経済の事を聞かれてもわかるはずがない。政治に関しては言わずもがな、それ以外についても一介の高校生ではたかが知れている。そんな自分達に何をしろというのだ、と思うのも自然な流れである。
「無論、其方等がまだ年端のいかない若者であると承知はしている。しかし、我等の召喚に応じたのならば、我等の期待に応える者が来ているという期待があるのだ」
そんな、楠木の疑問にラスティン王が確信の籠った言葉で答える。
ラスティン王曰く、そもそもの召喚術というのが、召喚者の求める者を召喚すると言った術らしく、楠木達がラスティン王等が求める能力がなければ、違う者が召喚されたていたという事だ。
「それじゃあ、具体的に私達は何をさせられるんですか? それに、きょ、拒否権というのもないんですか?」
生徒達の不安を声に出した委員長である楓は、震える声音でラスティン王に問いかけた。
「当然の疑問であるな……。勿論、其方等の待遇は最高の物としよう。そして、出来る限りでいいので協力をしてはくれまいか?」
楓の問いに対して、再度頭を下げるラスティン王。それに合わせるように、その場に居合わせた生徒達以外の人達が頭を下げる。その懇願するかの、態度に一部の生徒がそれならばと、乗り気になっている中、一人の生徒が声を上げた。
「つーか、俺達ってそもそも元の場所に帰れるんか?」
それは、乗り気になっていた生徒や、雰囲気に呑まれていた生徒、その他の生徒には冷や水をかけられたような言葉であった。発言をした生徒、『轟 大和』は召喚当初からずっと静観していたが、自分が気になっていた事が一切会話に出ないことに業を煮やしたのだ。
その発言により、乗り気だった生徒は諦めていたのか反応は薄かったが、一部の生徒は思い出したかのように、家には帰れるのかとラスティン王に問いかけた。
「…其方等の疑問はもっともである。しかし、我が国には送還するための術式はないのだ」
整った顔に皺を寄せて、ラスティン王が答える。
「そんな……」「ふざけんな!」「元の場所に帰してよ!」
その事に再び絶望を覚えた生徒達が思い思いに声を上げた。
「しかし! 過去にも召喚された者の中には、無事に帰還したという記述もある。それに関しては、我が国の総力を挙げて方法を探すつもりである。だからという訳ではないが、それまでは手を貸してくれないか?」




