1.序章
はじめまして。拙い文章ですが、温かく見守ってください。
―――???―――
「……本当に、実行してもよろしいのですね」
とある部屋の中に皺がれた老人の声が響く。
その部屋には老人以外にも人の存在があり、老人はその人物に危惧の念が伴わざるを得ない声色で、再度問いかける。
「後悔することになるやもしれませんぞ」
「……構わぬ。それが、この国の未来に繋がる可能性があるのなら」
老人の問いかけに対し重い口を開いたのは、壮年の男性の声だった。男性の声音は、苦渋の決断とでもいうくらいに重く、それでも決意に満ちた声であった。
この二人がいる場所は、それ以外の声は聞こえない。それどころか物音や外の音さえない、まるで世界から切り離されたかのような空間である。
その中での会話は明らかに二人の国の機密についての内容である。話の内容的には二人とも国の重鎮、しかもかなり上の方でありそうだ。
壮年の男の返事を聞いた老人は、それでも納得できないのか唯でさえ深い皺をさらに深くして、尚も壮年の男に食い下がる。
「考え直しては下されぬか。過去、それによって大成したという記述は無しに等しい、むしろ破滅した事柄の記述の方しかないのですぞ」
「くどい!!それでも、だ。このままでは国が疲弊していくのは一目瞭然。なればこそ、一縷の望みをかけ、事をなすほうがいいというものよ。なぁに、手綱を握るのは我の得意分野だ、心配することはない」
しかし、壮年の男の決意は固く老人の懇願には耳を貸さない。その決意に老人も説得が無理だと悟ったのか、諦めたように息を吐きながら言葉を漏らす。
「…はぁ、その決意が揺るがないというのはわかりました。しかし、この事はあくまでも内密に進める事をお忘れなく。もしも他国などに知れ渡ってしまえば、確実に国が滅びますぞ」
「わかっている、この事は我の信用に足る人物にしか知らせん。我は覇道を歩もうとするのではなく、あくまでも国を救いたいだけなのだ」
「…わかりました。そこまでの覚悟があるのであれば、もう何も言いませぬ」
老人も説得が無駄と知り、渋々ながらも納得してその場を去っていく。
「…すまない、我の我儘を聞いてくれて有難う」
壮年の男は立ち去った老人の背に向け、ポツリとそう呟いた。そして、まるで空を見上げるかのように、顔を上げて何かを祈るように瞳を閉じた。
「願わくば、我が国に未来があらんことを……」
その言葉は、何もない部屋によく響いた。
――――――
ここは都内の某公立高校である。どこにでもある進学校でもないここは、生徒数も平均的、素行不良な生徒もさほどいない、特に特長のない高校である。そんな高校に通うこれまた平凡な高校二年生、播磨楠木は通いなれた通学路を一人で歩いていた。
「はぁ、月曜日って何でこんなに憂鬱なんだろう…」
ため息交じりに、どうしようもないことを呟く楠木。そんな彼に近づく足音、軽快な音を立てながら接近する人物に、憂鬱気分な彼は気づくこともなく、背中を叩かれた。
「おっはよー、ハリキ!」
「いてぇー!!」
楠木は意識外からの衝撃に、たたらを踏みながら悲鳴を上げる。
そんな彼を快活な笑顔で迎える彼女、『桜坂刹那』はそのまま明るい声で楠木に話しかける。
「何朝から辛気臭い顔してるのよ?もう少しシャキッとしなさい!」
「…うるせぇ、何でお前は月曜日の朝からそんな元気なんだよ、刹那」
「?月曜日の朝だと何で元気ないのよ。楽しい学校だよ?」
「勉強の何が楽しいんだよ…」
そんな気やすいやり取りをする二人。仲睦まじいのは二人が物心ついた頃からの幼馴染だからだ。ちなみに、先程の刹那が呼んだ楠木のあだ名は、苗字と名前の最初と最後を繋げただけだ。刹那曰く、あだ名で呼んだほうが仲良さげでいいんじゃない?と、適当に付けただけなのである。
「勉強も覚えれば楽しくなるよ。それに友達とお話しすることできるじゃん」
「さすが、優等生の言うことは違いますねぇ」
「ほら、ぶつぶつ言ってないでさっさと行くわよ。そんなだらだら歩いてたら遅刻するよ」
「ちょっ、引っ張るなよ。自分で歩くから!」
楠木の様子に業を煮やした刹那は、そんな彼の手を取り学校への道を早足に歩いていく。
楠木と刹那はその関係性からよく学校で、おしどり夫婦と呼ばれている。本人たちは恋人同士でもないと否定しているが、いつも一緒にいるため周りからそうは見られていない。
それと、楠木の方は容姿も勉学も運動も特に秀でたものはない、よく言えば何でもそつなくこなす、悪く言えば器用貧乏といった能力であるが、刹那の方はそうではない。
彼女はショートボブで、顔立ちも目が大きく愛嬌があり、スタイルも胸は平均よりはないが整っており、文武両道といった感じで男子女子問わずに人気者である。
その為に、楠木は男子からのやっかみという名のからかいを受けているので、出来れば学校ではそんなに一緒にいないで欲しいと思っているのが本音だ。
そんなこんなで、彼等が通う高校に楠木が刹那に手を引かれた状態で到着した。
「おっはよー!」
「……はよぅ」
対照的なテンションで教室に入る二人、ちなみに未だに刹那が手を引いている状態だ。それを見たクラスメイトは二人に生暖かい視線を向けている。
その中から、二人の生徒が楠木と刹那に近づいて声をかける。
「おはよっ、朝から仲いいねぇ」
「はよーっす。楠木は何でそんな辛気臭い顔してるんだ?」
「おはよ!ちーちゃん、翔」
「……はよぅ」
そんな男女のクラスメイトに相変わらずのテンションで答える二人。
「いや、楠木君テンション低すぎ、まぁいつも通りではあるけど」
「ホントだぜ、何でそんなにいつもテンション低いんだよ」
「うるせぇ、ほっとけ」
「ハリキ!口が悪いよ」
楠木と刹那の二人と気やすい雰囲気で話をする二人、彼らも小学校からの付き合いでクラスの中では一番仲がいい。
男の方は『笹川翔』、180㎝を超える長身で剣道部のエースであり、短髪で整った容姿のイケメンだ。勉強ができるほうではないが、剣道では一年生の時にインターハイ優勝手前まで行くほどの実力者だ。
女の方は『早乙女千歳』、身長150㎝のちんまい体とは対照的に、一部分がグラマラスな見た目。その為、男子の中では影でロリ巨乳と呼ばれている。そんな彼女は翔とは対照的で運動音痴であり、勉強では常にトップ3に入るほどの成績を取っている。
ちなみに、翔と千歳は中学校の頃から付き合っているのだが、身長差が凄まじいので『事案カップル』と呼ばれている。
そんな4人がこれといって、中身がない会話をしていると予鈴がなり、クラス全員が席につき担任の教師が来るのを近くの生徒と軽い談笑をして待つのであった。
それがいつも通りに過ごせる最後の時間であるとも知れずに……。
ゴーーーーーン!!
突然響いた学校のチャイムとは違う、鐘の音がクラス全員の頭の中で鳴った。
『な、何だ!』『何の音!?』『チャイムじゃないよな!?』
音の大きさ、異質さに全員が一瞬で恐慌状態に陥った。
(何だこれ!?)
そんな中、鐘の音が鳴る前から窓際の一番後ろで、外を眺めていた楠木はクラスメイトとは違った事態に驚愕していた。
(景色が……、歪んでる……)
窓から見える景色が、まるで蜃気楼のように歪んでいたのだ。季節は春で、そんな暑さではないし仮に夏でも、それがあり得ない事なんかは馬鹿でもわかる。
(やばい、何かわかんねぇけど、やばい)
「っ刹那!!教室から出るぞ!!」
背筋に悪寒を感じた楠木は、咄嗟に幼馴染に呼びかけるが、時すでに遅し。
「ハリキ!!」
「くそっ!」
教室中に眩い光が溢れたと同時に、クラス全員の姿が忽然と消え去るのであった。




