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クラス転移で俺だけ無職!!  作者: 鈴也
冒険の始まり
5/5

5.出発準備

 リリカからの衝撃発言を聞いた勇樹は、村人がいなくなってからもまだ広場にいた。正確には、一度家に戻り装備を整えてからだが。ちなみに、ユーリの記憶のお陰で愛用の剣や、頑丈な皮で出来た防具の装着には手間取らなかった。

 それはさておき、その場にはリリカの他にも村の中でも腕利きと知られている者達が集まっている。そして、その中心にいるのは使い古された装備を着ているヴェルノの姿があった。


 どうやら、具体的な作戦を伝えるために集合させたようだ。


「まずは、討伐の協力に集まってくれて感謝する。それで、具体的な作戦から聞いてくれ。といっても、作戦と呼べるものではないがな」


 ヴェルノの話が始まったことにより、広場に集まった人達が彼を注目した。


「とりあえず、討伐隊として出る部隊が一つ、これには直接戦闘能力が高い者、特に森での戦闘に慣れているものがいいな。それと感知能力に優れているものも欲しい。自分の能力に自信があるやつはこっちに集まってくれ」


 ヴェルノの言葉により、屈強な男たちや狩人風の装備をした者達が移動していく。その中には細身の勇樹くらいの少し長い耳をした少女や、鋭い犬歯を生やした頭に犬のような耳を持った男もいる。


(……すげぇな、記憶整理とかでわかってたけど、ああいう人間以外の種族を見ると、違う世界に来たっていう実感が湧くな)


「後の残りは村の防衛だ。討伐隊だけで森の中全てを見ることは出来んからな。万が一村に魔物が襲ってきたときの為の準備だ。そっちには俺が付くから安心していい、ガルムくらいなら何匹でも問題ない。と言っても一人では村までは守り切れんかもしれんから、村の防衛組は俺の援護をしてくれ」


(マジかよ、あれ相手に何匹もって……)


 ヴェルノの予想外の強さに驚愕しながら、勇樹はぞろぞろと移動していく人達を眺めていた。。

 そんな勇樹の背を、不意に誰かが押してきた。


「おっと?」

「何ボーっとしてんのよ。あたし達もあっちでしょ、早くいくわよ」

「あ~、そうだったなぁ」


 急かすように勇樹の背を押すリリカに、討伐隊のほうに連れていかれる。その事に辟易しながら従っていく。

 勇樹は一応の抵抗としてリリカに、「俺達は行かなくてもいいんじゃないか?」と問いかけてみるが……。


「は? 何言ってんのよ。あたし達は父さんからの指名よ。行かないなんて選択肢なんてないわよ」

「えぇ~、何でだよ。俺等よりも実力あるやつ何て何人も来てるじゃねぇか」


 嫌そうな顔を隠しもせず、集まっている人達を見る勇樹。


「そういう問題じゃない。あたし達は案内役なのよ」


 リリカの返答にただでさえ歪んでいた勇樹の表情がさらに歪んだ。


――――それって、一番危険な場所何じゃねぇの?


 勇樹が頭に浮かべた疑問はリリカの言葉で直ぐに解消される。


「だからあたし達の所には、多分村でも上位の実力者が来るわよ」


 リリカによる言葉によりさらに肩を落とした勇樹は、いつの間にか討伐隊の集合場所に着いていた。


「よし、それじゃ振り分けはこれで決定だな。討伐隊の編成については、そうだな……、アル!!」

「うぉ!? ……何だよ親父、そんな大声で呼ばなくてもいいだろ、近くにいるんだから」


 討伐隊の面々が揃ったのを確認したヴェルノは、その中にいた息子の名前を呼んだ。

 勇樹は返事のあった方向に視線を向けた。そこには、記憶にもあったヴェルノの息子、リリカの兄である、アルの姿があった。

 短く刈り上げられた茶髪に、妹とは違ったたれ目で、整った目鼻立ち、ヴェルノほどではないが鍛え上げられた身体つき、リリカと並べてみても全然似ていない。それはそのはずだ、彼は妹のリリカとは違い、本当の息子ではないのだから。

 と言っても、リリカが物心つく前に拾われたらしく、その頃から一緒に育ったので本当の兄妹のように仲がいい。


「悪い悪い、姿が見えんかったからつい、な」

「はぁ、ったく、ずっと近くにいたよ。……で? 俺を呼んだって事は、大方人員を振り分けてくれってとこだろ?」

「お、察しが良くて助かる。そうだ、すまんが頼まれてくれ」

「わかったよ」


 近くまで来たアルの肩に手を置き、ヴェルノは周囲を見渡しながら話を続ける。


「聞いての通りだ、討伐隊の面々はアルの指示に従ってくれ。村の奴らは知っていると思うが、これでも自警団の隊長をやっている。実力もあるから心配しなくていい」

「あんまり誇張するなよ、重圧が強くなるから」


 言われた言葉に参った感じで頭をかいたアルは、実の所、ヴェルノの言葉通りの実力を持っている。

 ヴェルノ譲りの体躯に合わせた大剣を使用し、その実力はヴェルノを除けばだが、一対一では村の中でもトップ。自警団を纏めている立場上、人を見る目もある。


「そんなに謙遜しなくてもいいんだがな。……まぁいい、それじゃあ俺は防衛組の方に行ってくる」

「はいよ」


 その場をアルに任せたヴェルノは、待ち惚けをくらってる防衛組の方へと足を向ける。と、そこで、何か言い忘れたかのように振り返り……。


「そうだ。編成とか準備が終わったら、直ぐに出発しないでくれ。出発前に討伐組には言っておくことがあるからな」

「ん? ああ、わかった」


 アルの返答に満足したヴェルノは今度こそ防衛組の方へと歩いて行った。

 ヴェルノが行くのを確認したアルは、討伐組の方へと顔を向ける。


「そんじゃ、早速だが何組かに分けるぞ。森の中で大人数は動きずらいからな。人数は……、丁度二十人いるから五人づつで四組に分ける」


 勇樹はアルの言葉を聞き、改めて周囲を見回す。

 村人として記憶にある人物が十二名、記憶にない旅人、いや冒険者だろう人物が五名いる。


「そうだな、とりあえずあんた達。察するに冒険者だろ? 五人で固まってるってことは仲間って認識でいいか?」


 アルが冒険者と思われる集団に声をかけると、リーダーなのか一人の男が前に出た。


「そうだぜ。俺とこいつらは一緒に仕事をしてきる冒険者だ」


 アルと勇樹の予想通り、彼等は冒険者の様だった。

 代表として出てきた男は、ヴェルノに引けを取らないがたいで、武骨な大斧を背負い、頑丈そうな鎧を装備している。その他には槍を持った男、短剣を装備している男、弓を持った女、剣を装備した女といった感じで、それなりに経験を積んでいそうな雰囲気だ。


「それなら丁度いい、あんた達で一つの組にしよう。じゃあ、次は―――」

「おっと、その前にちょっといいか?」


 アルが他の編成を決めようとしたところで、大斧を背負った男が声をかけた。


「ん? 何か質問があれば後で聞くが……、ああ、報酬か……」

「へっ、察しがいいな。つー事は、それは考えてるってことで動いていいんだな?」

「ああ、これは正式な依頼としてあんた達に頼むよ。金に関しては親父の話が終わったら聞いてくれ」

「おう、それなら俺等からは特にねぇな、話を続けてくれ」


 そんな、アル達のやり取りを聞いていた勇樹は、一つの案を思いついていた。もちろん、この騒動の後のことだ。


(……この人達を上手く丸め込んでしまえば、村から出れるんじゃないか? 流石に現役の冒険者に同行してもらうならヴェルノさんも納得するだろ。……大きな町に着いて別れたらいいんだし)


 昔から無駄に回る頭で、姑息な手を考える勇樹。いい意味でとらえれば、先の事を考えてるともとれるが、今考えることではないだろう。


「—————最後に、俺とユーリとリリカ、後はガウンとアビーだ」


 勇樹が姑息な事を考えている間に、アルの采配による編成が終わる。


「それで、森での動きだが……、いつも狩りに行く時の道が三つある。そこで、村の人達で各入口を通って奥まで進んでいくようにしよう。俺達はリリカ達が通った、一番怪しいと思われる道に行く。その他は相談して決めてくれ。それぞれ行きなれた道があるだろうからな」

「なあ、それじゃあ俺達はどうしたらいいんだ? 道は三つしかないんだろ?」


 指示がなかった冒険者のリーダーが声を上げて少し前に出る。


「まあ急かすな、あんた達にもちゃんと仕事がある。俺達の後ろをついてきてくれ」

「あぁ~ん? そりゃなんでだ?」

「ああ、それは森の広がり方に関係している。ここの森は村から見て扇状に広がっているんだ。そして、さっき言った三つの入り口の関係上、奥に行っても交わることはない。勿論、森を横切れば合流できるが……、道もないのに森を歩くなんて現実的じゃないだろ?」

「まあ、そうだな」

「それで、まあ、親父から聞いただけだが……、リリカ達が行った道が本命で、他の道はそこまで危険じゃないらしいんだ」

「成程、それで俺達が後ろって訳か。魔物が行儀よく道から来るとは限らんからな」

「そういう事だ。森の事に詳しい俺達が先導で、あんた達はその後ろの警戒ってことだ。万が一、どちらかに魔物が集中しても互いに援護が出来るしな」


 アルの説明に納得し、男は仲間の元へと戻る。

 全ての采配が終わったアルは、各自ヴェルノが来るまで待機することを命じると、勇樹達が集まっている場所に近づいて来た。


「あ~、疲れた~」


 人前で長々と話していたせいか、勇樹たちの所まで来たアルは、心底疲れたといった風に大きく溜息をついた。


「はっ、何疲れてんだヨ、ダンチョー。人前で話しをすんのには慣れてるだろ?」


 その事に対し、即座に突っ込みを入れたのはガウンと呼ばれていた獣人だ。

 ガウンは、鋭い犬歯を生やした狼の顔で、全身に体毛を生やし、腰には戦闘時に使うであろう鉄で作られたような爪をぶら下げている。


「うるせぇよ。こういうのは何回やっても慣れねぇんだよ。つーか、団長だってやりたくてやってるわけじゃないし……。何なら、お前に譲ってもいいんだぜ?」

「がっはっは! 冗談じゃネェ、俺に出来るわけないだろ」

「……だろうな」


 軽口を叩きあう二人は、誰が見ても仲のいい親友と言う感じだ。

 実際、彼らは幼い時からずっと一緒だったので、親友と言うのは間違いではない。


「……ねぇ、団長さん。……結局、何が起きてるの?」


 親友二人がじゃれあっていると、もう一人のメンバーであるアビーが声をかけた。


「ん? あ~、それについては俺もまだわかってねぇんだよ」

「……そう」


 アビーは村の中でも珍しいエルフと呼ばれる種族で、その特徴としては美形が多く、耳が長いというものがある。

 彼女の容姿も例にもれず整っているが、美形であるが基本的にあまり口を開かず、無表情のであるがために来る男はそれほどいない。


「まぁ、多分これから話されるだろ。親父が俺達に話があるっていってたのはその事だろ」

「……そう」

「つっても、何で討伐組だけなんダ? 全員に言ってもいいんじゃねぇのかヨ」

「さてね、そんなの親父に聞いてくれ。とりあえず、あっちの話が終わるまで待つぞ。広場からはでるなよ」


 その言葉を最後に、話は終わりだと言わんばかりにアルは近くの木陰に腰を下ろした。

 勇樹も特にやることが無いので、ヴェルノが来るまでの間に森での対応を考えることにした。


(……とんでもない事になった。どう考えても、普通の状況じゃないよな。ユーリの記憶にもこんな大事になってる村なんてないんだよなぁ。……まぁ、それを考えるよりもこれからどうするかだ。とりあえず、日本にいた時よりは動けそうだけど、戦闘になったらまともに戦えないよな。と言うか、戦いたくない。でも、何か起こりそうな気がするんだよな。う~ん、何か戦わなくてもいい方法とかないかな? ……仕方がない、いざという時は戦うことも頭に入れとこう)


 平和な日本で育ってきた勇樹は、当たり前だがまともに危険な生物と戦うことができない。というか出会ったことすらない。

 なので、そういう危険な生物との戦闘の可能性がよくある世界に来たことを理解した時は、結構な衝撃を受けていた。

 が、実は戦えない訳ではないのだ。もちろん、日本にいた時から戦えたわけではない。

 この世界に『ユーリ』として来た勇樹は、記憶整理の後、やけに軽い身体の調子を確かめるために軽く運動をしてみたのだ。

 その時に、身体能力の違い、そして一度も習ったこともない剣の扱いが出来ることを確認していた。

 身体が覚えているという感じで、剣を扱えたことに驚いたが、一時的とはいえ冒険者になると決めた勇樹にとっては幸運だった。


「はぁ、……生まれ変わって直ぐに死ぬとか、笑い話にもほどがあるだろ」

「何一人でブツブツ言ってんのよ?」

「のわっ! 急に話しかけてくんなよ」


 勇樹が考えを纏めていると後ろからひょっこりと顔をだして、リリカが話しかけてきた。


「何そんなに驚いてるのよ?」

「うるせぇ、いきなり声かけるからだ。……いつの間に後ろに来てたんだ?」


 自分が呟いてしまっていた言葉を聞かれていないか、内心でドキドキしながらリリカの様子を探る。

 生まれ変わっていたと言っていたのを聞かれていたら、面倒になるのは目に見えているからだ。


「はあ? 普通に歩いて近づいたわよ。 あんたがボーっとしてるから気付かなかっただけよ」

「……そう、か。……悪い、今回の事について考えていたんだ」

「今回の事ってどういうことよ?」


 自分が生まれ変わって別人になっているなどと、勇樹は正直に言えるはずもなく実際に考えていた別のことを伝える。


「ああ、この状況って何か変じゃないか?」

「何が変なのよ?」


 勇樹が感じている疑問にリリカは首を傾げて答える。


「気づかないか? 今回の事は俺たちの森でのことをヴェルノさんに報告したことで起こっているんだぞ。リリカが報告した内容まではわかんねぇけど、精々森の動物を見かけなかったと、魔物と遭遇したくらいだろ?」

「まあ、大体そうね。でも、だからどうしたってのよ?」

「よく考えてみろ。……その報告のどこに魔物が大量にいるなんてある?」

「あっ」


 勇樹の言葉にリリカが驚きの声を上げる。

 そう、実際にリリカは勇樹の言った通りの事しかヴェルノに報告していない。だとしたら、ヴェルノは何故大量の魔物がいる可能性を示唆したのか? そう考えた勇樹は、一つの可能性に行きついた。


「……ヴェルノさんは今回のような事態を体験している、もしくは聞いたことがある可能性がある」


 経験から、または知識から出た対応という訳だ。


「もちろん、俺もその可能性があるって考えてるだけだ。だけど、用心に越したことはない。まあ、ヴェルノさんが来たらわかることだから、頭の隅にでも入れといてくれ」

「出発前に脅かさないでよ……」


 リリカは呟くように文句を言いながらヴェルノのいる方を向いて黙った。勇樹の言葉によって不安になったのだろう、表情に少し陰りが見える。

 勇樹は脅すつもりはなかったので、リリカの様子に困った顔を見せた。


 実際問題、勇樹が考えたことは少し考えすぎと言う可能性の方が高い。森に動物がいなかった事に関しては偶々と言うこともあるし、魔物が出現した関してはさして珍しい事ではない。

 なのに、勇樹がここまでの危険予知を行ったののには訳がある。


 肉親を失ったことによる影響だ。


 勇樹はその時から常に周りをを警戒している。と言っても、家にいる時や学校にいる時、一人でいる時は別だったが。

 肉親を失ったときからの悲しみから、勇樹は近しい人が突然死んでしまうという恐怖が常にあった。無理もない話だ、最愛の妹と敬愛していた母を同時に失ったのだから。

 そのせいで、里香や里香の母、明と言った自分に近しい人が側にいる時は常に周りを警戒する癖がついていた。

 勇樹のその様子に気付いていた彼女等は、その事に対して表情や態度には出さなかったが心を痛めていたが。


 いずれにしても、これが勇樹の警戒心が強くなった原因という訳だ。


「……ねぇ」


 自分の言葉によってリリカを不安にさせてしまった勇樹が、不安を和らげるための言葉を考えていると、不意にリリカが話しかけてきた。


「……何だ?」

「あんた、昨日頭打ってから、その……やっぱり変よ。いつもより、何か色々考えてるし……」


 『しまった』

 勇樹は言葉には出さなかったが、真っ先にその言葉が頭に浮かんだ。


「……その反応見る限り、自覚はあるみたいね。ねぇ、どこか調子悪いの? 無理してるんだったら皆に言って、あんたを休ませるようにするわよ」


 言葉には出さずとも表情には出てたらしく、それを確認したリリカの表情は先程とは違い、勇樹を心配したような不安が混じっていた。


「……大丈夫だ」


 勇樹は逡巡しながらも問題ないと答えた。

 本来ならば、ここで調子が悪いと言って村に残る選択をするべきだったのだろうが、勇樹にはそれが出来なかった。

 リリカの表情が、勇樹の(・・・)幼馴染と重なって見えてしまったからだ。

 と言っても、ただ似ているだけで自分が危険になるとわかっていて、助けになりたいと思うほど勇樹も善人ではない。

 ユーリの記憶が、リリカやその他の村人を見捨てることを拒んだのだ。


「……そう、それならいいんだけど。あんまり無理しないでよね、昨日見たくあたしのせいで怪我とかされたら困るから」


 言葉遣いが違うが、人を気遣う性格は似ているなと内心で勇樹は思い、そんなに心配しなくても大丈夫だと声をかけしようとした。

 しかし、先程の様にユーリらしくない物言いをするわけにもいかない勇樹は、それを口に出さず記憶を確認し、本心とは別の言葉を発する。


「……お前がそんなに不安そうにしてるなんて珍しいな。何か変なもんでも食ったか?」

「んな!? ―――このっ、人が折角心配してあげてるのに、何よその言い方!」

「そんなの頼んでねぇよ。お前が勝手に心配してるだけだろ?」

「———もう知らない! 死んじゃえ、バカ!!」


 勇樹の物言いにリリカは激怒し、言葉を投げつけて去っていった。

 その様子に勇樹は罪悪感を覚えつつ、溜息を吐いた。


(……小学生かよ)


 ユーリを真似た勇樹の感想がこれだ。

 記憶にあるユーリはいつもリリカに対して、何かしら突っかかっている。しかし、リリカが嫌いという訳ではなく、むしろ異性として想っているような記憶もあったのだ。

 それはまるで、好きな異性に素直になれない男子といった風だった。

 勇樹が小学生と比喩するもの無理もなかった。


 勇樹の元から離れたリリカは、どうやら一人佇んでいたアビーの所へ行ったようだ。

 大方、勇樹に対しての文句を言いいにでも行ったのだろう。


(にしても、あの二人が親友ってのが信じられないな)


 それを見ていた勇樹は、ユーリの記憶を確認して内心でそう思った。

 勇樹の確認したことは事実で、彼女らは性格が正反対と言ってもいいくらいなのにも関わらず、大の親友だ。

 まあ、ユーリはアビーが苦手らしく、それ以外の情報はなかったが。


「よう、相変わらず仲がいいな」


 リリカの様子を見ていた勇樹にまたしても後ろから、声がかけられる。


「……アルさん、ガウンさん、見てたんすか」


 勇樹が振り返った先には、いつの間にか側に来ていたアルと、鋭い犬歯を見せてニヤニヤしたガウンの姿があった。

 この兄妹は人の後ろに立つのが趣味なのだろうかと思いつつも返答した。


「あんな騒いでたら、嫌でも目に付くだロ」

「だな」


 記憶の中ではユーリはいつもこの二人に揶揄われているらしく、勇樹は正直あまり関わりたくないと思っていた。しかし、話しかけられたのにも関わらずにユーリとしての行動をとらない訳にもいかず、いやいやながら対応する


「……そうっすね。どうしたんすか? 揶揄いにでもきたんすか」

「お前、俺等を何だと……。まあいいや、さっきお前らが何か深刻そうに話しをしてたから気になってな」

「ただの推測で色々話してただけで、何も面白くないっすよ?」

「ああ、気にすんナ。唯の暇つぶしに来ただけだヨ」

「それとも、揶揄って欲しかったか? 俺等はそれでもいいぞ」

「……はあ、話しますよ。大した話じゃないっすけど……」


 勇樹は先程の事を話さない限り、確実に揶揄われると思い、仕方なくリリカとの会話の内容を二人に話した。


「「……」」

「———まあ、こんな感じっすね。俺のくだらない妄想だと思っていいっすよ」


 勇樹が話している最中、話した後も無言の二人。呆れられたのか? と勇樹が気にしなくていいと声をかけようとすると。


「ああ、そんなに―――」

「お前、その事リリカ以外に話したか?」


 真剣な表情をしたアルにそれを遮られた。


「いや、さっき考え付いた事っすから、誰にも……」

「そうか、それなら後は誰にも話すな。その推測があながち間違いじゃない可能性がある」

「……そうだナ」


 二人の予想外の反応に戸惑う勇樹。動揺しながらも、知っている事を話してもらおうと言葉を発する。


「……何か心当たりがあるんすね」


 勇樹の言葉に二人は顔を見合わせて互いに、頷いた。勇樹の推測で思い当たったことを話すのだろう。


「…‥実はな、俺もお前の話を聞いた時に違和感を感じたんだが、同時に似たような話を親父から聞いたことを思い出したんだ」

「ああ、その話は俺も一緒に聞いていタ。何でも、いつか必要になるかもしれないからって言ってたナ」


 どうやら、ヴェルノから似た話を聞いたことがあるらしいが、苦々しい表情をしている二人から察するに、それはいい情報とはいえなさそうであった。


「……どんな内容だったんすか?」


 二人の表情から不安が込み上げてきた勇樹は、それを押し殺しながら問いかけた。


「俺が親父から聞いたのは―――」

「討伐隊、集合してくれ!!」


 アルの言葉を遮り、ヴェルノの大声が広場に響き渡る。


「……親父のとこに行くか」

「そうだナ、ヴェルノさんからの話聞けばわかることだしナ」

「……そうっすね」


 図らずもヴェルノに会話を中断され、苦笑しながらもアルとガウンの二人は、ヴェルノが立っている方へと歩き出す。

 勇樹もそんな彼らの後に続いて、歩き出した。


 程なくして、ヴェルノを中心に討伐隊の面々が集まった。


「ふむ、討伐隊の編成は終わったようだな」


 自分の周囲に集まった人達の様子から、編成が終わっている事を悟ったヴェルノは、一度大きく咳ばらいをしてから話始める。


「……さて、こうして集まってもらったのには討伐隊に重要な話があるからだ」


 然程気負った様子の見られないヴェルノの話が始まり、勇樹はその表情の微細な変化も逃すものかと注視する。

 この場で、ヴェルノが知っている事を全て話さないとは思っていないが、表情の変化、話し方等で多少は危険度がわかると判断しての事だ。


「とりあえず、今からする話は討伐隊と防衛組の一部にしか伝えない。他の村人に話す事は、今回の事態が終わるまで禁止する。まあ、事態が収容したら俺から改めて話をするから、とりあえず今はこの場だけで話をとどめる形だ。これを守れなければ……最悪、村が滅びる」


 やはりと、自分の推測があながち間違いでないと勇樹は頭を抱える。

 周囲の村人からは戸惑い交じりの声が上がっている。落ち着いているのは、アル、ガウン、冒険者達くらいだ。


「落ち着け、まだ親父の話が終わってないだろ!」


 そんな村人の様子を見かねて、アルが声を張り上げる。


「そうだ、アルの言う通りまだ話は終わっていない。先程の対応は今から話す事を、村人全体に伝えたら余計な混乱が起こるためだ。村への対応は防衛組でしっかりやる。だから、お前らがこの事を話さない限り起こることはないと思ってくれ」


 ざわついていた村人はヴェルノの言葉により、徐々に落ち着きを取り戻していく。

 その様子を確認しながら、ヴェルノは話を続ける。


「まあ、今からいう事は俺も確証を持っていないから、確実に起こるとは言い切れねぇし、その可能性も低いとも思っている。だからと言って、最悪の事態を考えない訳にも行かない。さっき話したことや、これから話す事は、その最悪の事態が起こっているときの対応だ。聞き逃すことのないようにしてくれ」


 ヴェルノの続く言葉により、動揺も収まってきた村人。勇樹はその様子を横目で確認しながら、ヴェルノの事を考えていた。

 リリカからの情報量の少ない報告での早急な判断、その判断に至った知識、そして隙のないように最悪の事態まで考えている。

 一体どれほどの修羅場を経験したのだろうかと。


「まず確認だが……、アルッ、森に行くのは四班編成で、三方向からにしたか?」

「あ? ああ、そうしたぜ。それで、冒険者組は俺の班の後ろについて来るようにした。動きについても説明するか?」

「ああ、頼む」


 ヴェルノに促されて、アルは先程の班編成や動きについての説明をする。


「———って感じだな」

「わかった。それじゃあ、俺からは補足というか注意事項ぐらいでいいな」

「注意事項?」


 アルからの確認を終えたヴェルノは、注意事項と軽い感じで言葉を発した。が、その後に続く言葉は決して軽いものではなかった。


「ああ、今からいう事が起きてる場合は……、直ぐ村に戻ってきてくれ」


 今まで、気負った様子もなかったヴェルノが表情を引き締めて発したのは、この場にいる全員を固まらせるには十分であった。


「はっ? 戻ってくれってどういう……?」


 辛うじて声を出したアルを一瞥し、ヴェルノは話を続ける。


「……俺が考えている最悪の事態の時は、森のどこかに黒い、穴のようなものが浮かんでいるはずだ。それを視認した者は、直ぐに班員に報告してくれ。各班には、其々一つずつ笛を預けておく、それを吹いてから直ぐにその場を離れて村に戻れ。笛の音が聞こえた他の班も同じだ」

「黒い……穴?」


 ヴェルノの話した内容を疑う訳ではないが、聞いた内容だけに村人からは「黒い穴とはなんだ?」、「具体的にはどういうものなのか?」等と疑問の声が上がる。

 勇樹も例にもれずに、黒い穴について考えているが、他の人達とは別の疑問が浮かび上がっていた。


 何故かその黒い穴を見たことが(・・・・・)あるような気がすると。


 勇樹自身も確証はないが、その感覚が間違いではないと感じていた。

 そんな自身の事に戸惑っている勇樹を尻目にヴェルノは話のまとめに入っていた。


「見た目については、俺も何回か見たことがあるくらいで、大きさもその度に違っていたが、共通しているのは黒い穴のような物で、宙に浮かんでいるということだ」

「……それが本当にあったとして、何だっていうんだよ。……まさかっ」

「そのまさかだ、そこから魔物が溢れ出してくる」


 『溢れ出す』、その意味が言葉通りであるならば、勇樹達が出会ったガルムのような魔物が数十匹、もしかしたら数百匹出現するということだ。

 その意味を理解した者達は、揃って戦慄の表情を浮かべた。

 そんな中、ヴェルノの話が始まってから静観していた、冒険者組のリーダーが一歩前に出てきた。


「なぁ、ヴェルノだっけか? あんたの話を信じるとして、そんな状況だったら村に逃げ込んでも厳しいんじゃねぇのか? というかその黒い穴とやらは塞げねぇのか?」


 流石に冒険者として経験をある程度つんでいるらしく、他の者とは違い、然程動揺していないようだ。

 冒険者の言葉にわかっているという風に、頷いた後に疑問に答える。


「そのための防衛組だ。今の事を伝えた一部の者には、黒い穴を塞ぐために王都へ向かってもらっている」

「成程、その方法が王都にしかないって訳だ。それで、王都から人が来るまで耐えてりゃいいってか?」

「理解が早くて助かる。今の所は、それしか対策が出来ない。村人全員で逃げるには足になるものがないからな。報酬についてはそれなりに出すから、村のために頼まれてくれないか?」

「はっ、上等じゃねぇか。報酬の件、期待しとくぜ」


 ヴェルノの答えに満足した冒険者は、仲間の元へと戻っていった。

 それを見送ったヴェルノは改めて周りを見渡し、他に質問がないのを確認し話を続けた。


「今話したことは、まだ詳しい事は王都でもわかっていない。いたずらに市民を脅かすことが無いように、一部の者しか知らない事実だ。改めて言うが、他の村人には言外禁止だ。事態が収まっても、村の中だけの話で留めてくれ」


 その言葉に冒険者を除く村人全員が何も言わずに頷いた。ヴェルノが信用されていなかったら、こうはいかなかっただろう。村人達はその言葉を最後に、班毎で各自の動きの打ち合わせに入る。

 勇樹もアルからの指示を聞くためにヴェルノから目を離し、班員の方を向いた。

 それらを確認したヴェルノは防衛組の方へと戻るためにと、立ち去ろうとする。


 そんな中、ヴェルノの事をあまり知らない冒険者側から声が上がった。流石に互いの動きがわかっているのだろう、することが無くヴェルノに話しかけたようだ。


「……なあ、あんたは何でそんな機密を知ってんだ? 俺等もそれなりに長く冒険者をやってるがそんな事聞いたことねぇぜ」

「ん?まあ、尤もな疑問だが……、俺が知っているのは運が良かったのか悪かったのか、それを経験したからとしかいいようがないな。その経験をした時に偶然、王都の助けで何とか生き延び、さっき話した内容と同じことを聞かされて、の後何回か調査の手伝いをしたからだ」


 疑問に答えたヴェルノの表情は何かを懐かしむようであった。

 ヴェルノ達の話が気になってみていた勇樹は、直感で全てを話していないのでは? と思ったが、命が関わる状況で隠し事をしないだろうと結論付けてその疑問を頭の隅に追いやり、アルの方へと集中した。


「そうかい、それは災難だったな。つっても、そのおかげで今回の対応が出来たんだから、幸運だったとでもいうべきか。いずれにしても、あんたが言ったことが起きてる可能性は低いんだろ? だったら、その黒い穴とやらがない事を祈って仕事してやるよ」

「助かる……。ああ、そうだ。ここまで話したから、ついでにその黒い穴から魔物が溢れ出す事を王都で何と言っているかも伝えておく。知っておいて損、ということはないからな」


 ヴェルノの言葉に、打ち合わせを行っていた面々が耳を傾ける。


「王都では、この事を――――」


『魔物大群(スタンピード)』と呼んでいる―――。


 



 


 

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