バッテリー残量
俺の言葉に2人がもちろんだと頷いてくれる。
「でも、その前にまずはお昼ご飯にしましょ。このままじゃ13時過ぎちゃうわ」
桐谷さんの言葉にお弁当の存在を思い浮かべた途端、俺のお腹も「ぐぅぅ」と同意した。
ぅぅ……恥ずかしいな……。
「あはは、良平君はスイカとぶどうと梨と柿ならどれが食べたい? 良平君の食べたいのを切るよ。夕飯までにはここで火を起こして料理ができるようにするね」
桐谷さんがありがたいことを言ってくれる。
けど俺には弁当があるからな。
「昼はお弁当があるので……、あ、むしろ3人で分けて食べますか?」
「なんだ良平は弁当があったのか、そんなら早く言ってくれりゃよかったのに、気ぃ遣わせちまったな」
大浦さんが優しい顔でぽんぽんと肩を叩いてくれる。
「いえ、皆と一緒に食べたかったので……」
「じゃあすぐ用意するねっ、大浦さんは何食べたいですか?」
「オレは……もうちっと腹にたまるもんが食いたいな」
「それは私もそうなんだけど、今すぐ食べられるのが……、あ。じゃあトウモロコシ齧ってみる?」
「生でか?」
「生でも食べられるよ、青臭いだけで」
「青臭いのか……」
そんなわけで、昼食は弁当を食べる俺の両隣で、2人は微妙な顔をしてトウモロコシを齧っていた。
俺の弁当は『俺の母が俺のために作った物だから、ちゃんと俺が食べるべき』と2人には諭されてしまった。
食堂の長い机の端で、俺は何故か誕生日席を薦められてしまったので、向かい合って座る2人は俺の両隣という配置だ。
「不味くはない……」
「うん」
「美味くもないな……」
「うん」
2人があまりにも虚無な顔をしているので、俺は話題を変える。
「えっと、桐谷さん、お夕飯はどんな料理を作るんですか?」
「そうねぇ、火があれば、水がなくてもほとんどの野菜がスライスして焼くだけでなんとかなると思うんだけど、問題は火種よねぇ」
「あ、オレもしかしたらマッチあるかも……? これ食ったら探してみるわ」
そう言った大浦さんの食事のペースが上がる。
「あれ? 大浦さんってタバコ吸う人? そんな臭いしないけどなぁ」
桐谷さんは料理人だけあって鼻も利くんだろうか。
匂いだけでタバコを吸う人かどうかわかるものなんだなぁ。
「んーにゃ、オレは吸わない人。ただ仕事の接待で行ったバーでもらったのが、鞄に入れっぱなしだったかもしれんなと。いや、期待させといて無かったら悪いけどな」
「無かった時は……コップに水を汲んで、陽の当たるとこに置いとくとか……?」
「この家をくまなく探せば、火打石くらいあるんじゃないか?」
「石……? あ。あったよ石なら。そこの戸棚のとこに、箱に入った石となんかもじゃもじゃしたのとペラペラしたのが入ってた」
「ああ、それ多分ティンダーボックスってやつだな。火打ち石と火打ち金と火口と付け木が入ってたんだろう」
俺と桐谷さんが『?』という顔で大浦さんを見る。
大浦さんはぶふっと吹き出してから、俺達に説明してくれた。
「火打ち石と火打ち金を打ち合せると火花が出る。だけど小さな火花じゃ木に火は付かないんだよ。だから、燃えやすい火口に火をつけて、それから付け木に移して、ようやくランプや薪にくべられるようになる」
「へぇ……、大浦さんはなんでも知ってるんですね」
すごいなぁと思って見つめると、大浦さんはちょっと照れくさそうに頭を掻いて視線を逸らした。
「まあアウトドア好きだからな、キャンプに行けば火を起こすこともある。つってもほとんど着火剤とライターだけどな。たまたま、前に一度火打ち石体験ってのをやったことがあんだよ」
「じゃあやってみようかな」
そう言う桐谷さんに、だけど大浦さんは「やめとけやめとけ」と言った。
「マジでなっっっかなか火ぃつかねぇから。マッチがなければオレがやるよ。こういう石造りの家だと、火種ってのは落とさねぇで夜もずっと燻らせとくもんなんだけどな、今は薪が限られてるからなぁ」
「必要なら俺『二階建ての石造りの邸宅』をもういくつか作りますよ?」
「つっても良平がマージできる回数は決まってんだろ」
言われて、そういえば俺はこの数字が回復する条件を知らないなと気づく。
スマホゲーの場合は大体経過時間で回復するものなんだけど、スマホに表示されている数字は回復する様子がない。
……ん? 俺は数字の横に小さな+マークがついていることに気づいた。
タップしてみると【しっかり睡眠をとることで回復します】と表示された。
「あ、寝ると回復するって書いてあります」
俺の言葉に、2人がどれどれ? と画面を覗きにくる。
「おお、本当だな」
「なーんだ、そっかぁ、よかったぁ。これなら安心していっぱいマージしてもらえるねっ」
「なんかこう、疲れたりはしないのか?」
俺は、弁当を食べ終えて水筒のお茶を飲みつつ答える。
麦茶は母さんがたっぷり入れてくれていたので、2人にもお裾分けさせてもらった。
「今のところは大丈夫です」
「ねぇ、そのスマホってずっとアプリ開いてるみたいだけど、バッテリー大丈夫なの?」
言われて、思わずぎくりと肩を揺らす。
俺的には上限のあるマージよりも、これの方がずっと、チートだと思うんだよな……。
俺はスマホをホーム画面に戻して、2人に電池残量を見せる。
途端に、2人も自分の鞄からスマホを引っ張り出した。
「うわ、俺のもバッテリー残量が∞なんだけど……」
「私のも∞になってる……」
「神様も精一杯サービスしてくれてんだな」
ガハハと大浦さんが笑うと、桐谷さんも「大盤振る舞いだねぇ」と笑う。
俺も「ありがたいですね」と微笑んで、弁当箱を仕舞った。
「お、あったぞ」
「やったぁ!」
結局、大浦さんの鞄にはしっかりマッチが入りっぱなしだった。
2人が邸宅で火を起こしているうちに、俺は厨房から全く同じような陶器のカップを8つほどもらって池に向かう。
池の中をじっと見つめていると、確かに小さな魚……メダカくらいの魚が泳いでいるのが見えた。
これも、なんとか捕まえられれば、マージできそうな気がするな。
腕を伸ばして、落ちないように気をつけつつ、池の水面にそっと触れてみる。
やっぱりこのままじゃ無理か。
手のひらで水を掬っても、反応はない。
素手は早々に諦めて、俺はカップに池の水を汲んでみた。
途端、頭の中に文字が浮かぶ。
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祝福スキル『マージ』の実行対象です。『マージ』を実行しますか?
開始する場合は「マージ開始」、終了する場合は「マージ終了」と唱えてください
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思ったとおりだ。
俺はもうひとつのカップにも水を汲み、「マージ開始」と唱えてカップに入った水を重ね合わせる。
現れたのは、たっぷりと水の入った水差しだった。
スマホに取り込んでみると『ミネラルウォーター』と名前が表示された。
説明文には『飲用に適した清らかな水、ミネラルを含んでいる』と書かれている。
詳細画面には含まれるミネラルについても書かれているけど、この辺りのことは桐谷さんが『食材鑑定』で確認してくれるだろう。
んん?
この陶製の水差しは6kgもあるのか。
水も4L入ってるからそれで4kgはあるわけだけど、水差し自体も2kgあるんだな……。
持って移動しようとしたら一苦労するとこだったな。
補助アプリを用意してくれたヨミトキさんに心から感謝しつつ、俺は残りのカップ6つにも同じように水を汲んだ。
『ミネラルウォーター』を追加で3つ作って、そのうち2つをマージする。
現れたのは青みがかった瓶に入った炭酸水だった。
6本の炭酸水の瓶は、コルクで栓がしてあるようだ。
水の量は減ったけど、瓶とコルク栓が手に入るのはいいな。
俺はひとまずここまでの結果を2人に知らせるため、邸宅へと踵を返した。
飲み水が手に入ったら、桐谷さんは喜んでくれるだろうか。
喜んでくれるといいな……。




