もうお昼を40分は過ぎてる
ズズン……ッッ!!
『石造りの家』は派手な地響きと共に、俺達の前に姿を現した。
小さな振動がいつまでも残るような感覚に、石でできた家の重量をずっしりと肌で感じる。
数値でサイズは知っていたものの、実物を見上げると思ったよりも大きいなぁ……。
「家!?!?!?」
叫んだ大浦さんに心の中でもう一度謝る。
せっかく『建築設計』というスキルを使うために頑張っている人の前で、建築物をそのままポン出ししてしまうのは、非常に心苦しい……。
「家が……いきなり、建った……だと……!?」
「はい、あの…………ごめんなさい……」
「いや、いやいや、良平が謝るとこじゃない。しかしそうか……家が……。家が、いきなり出来るものなのか……」
呆然と家を見上げている大浦さん。
残念なことに、いや、ありがたい事ではあるんだけど、マージパズル界では壁ができたら次は家になるって、わりとあるあるパターンなんだよな……。
だから、そんな気はしてたんだけど。
けど、7段階目なら63回のマージで家が建つんだからわりと楽だな。
8段階目くらいになると127回のマージでちょっと辛くなるし、9段階目にもなると255回マージを繰り返すのでそこそこ辛い。
とはいえ、バイトもしていない学生の俺に課金する気はなく、ゲームでも12段階目くらいまでは根性で作っていた。
向こうから「なにそれすごーいっ!」と歓声を上げて駆け寄ってくるのは桐谷さんだ。
「……ひとまず、中に入ってみるか」
俺を振り返って言ってくれた大浦さんに、俺は「はいっ」と頷いた。
中はどうなってるんだろう。
ギィ、と木の扉を開いた大浦さんの後に続く。
後ろから「私も私もっ」と桐谷さんが駆け込んでくる。
洋風な石造りの家の中は、家具のひとつもなく、ガランとしていた。
家と一体化しているからか、高さのある暖炉のようなものだけは備え付けられている。
今は燃やす木がそもそもないけど、窓にはガラスがはまっているし、扉も木だから、アンマージしたら新しい素材になるかもしれない。
触れようと思ってから、まだ自分の手が光っていることに気づいた。
マージを終了し忘れがちだから気をつけないとな……。
そっと「マージ終了」と呟いてから窓ガラスに触れる。
案の定、アンマージ対象であるとのメッセージが頭の中に浮かんだ。
木の扉も同様に、アンマージで取り外せば木材に出来そうだ。
「あっ、これ知ってる! ここでお料理できるよ!」
桐谷さんが入ってきてすぐに暖炉に駆け寄った。
なるほど、それは調理用の火としても使えるように高さがあるのか。
「部屋はひとつっきりか……。さっきの石壁で区切るか……?」
大浦さんが呟くので、俺は言った。
「もう一軒作りますか? 『石壁』はまだ1つあるので、あと『石ころ』が32個あればもう一軒作れますよ」
「そうか……この家は石ころ64個で出来てるのか……とんでもねぇな……」
ごくりと喉を上下させた大浦さんは、ひきつった顔をした。
そう言われると、まあ、そうなんだけど。
「その前に、もう一段階上のものを作ってみたほうがいいか」
「そうですね、家同士をマージすれば部屋数が増えるかもしれませんし」
「んじゃその方向で、オレはちょっくら『石ころ』拾ってくるか」
外に出てエコバッグを拾い上げた大浦さんに、桐谷さんがストップをかけた。
「ちょっと待って、もうお昼過ぎてるから一回皆でご飯にしようよ」
「昼……? 確かに腹は減ったが、まだ日は高くないぞ……?」
俺もお腹は減ったな……。
けど、確かにお日様はまだ朝に近い場所にある。
桐谷さんは首を振ると「もうお昼を40分は過ぎてる」と言い切った。
「私の腹時計は時報に負けないくらい正確だと同僚達からも言われてるんだから。私のお腹が鳴るのは、必ず正午なのよっ」
「はぁ……」
大浦さんが困った顔で曖昧に頷いている。
「俺もお腹がペコペコなので、一回休憩しましょうか」
俺の言葉には、大浦さんも頷いてくれた。
「ああ、そうするか。悪ぃな、良平にはずっと作業させっぱなしだったもんなぁ」
「役に立てることがあってよかったです。ここ来てもあんまり役に立たないんじゃないかって心配してたので……」
「それで言うならまだオレは何の役にも立ってないな」
「えっ、そんなことないですよ。俺、お二人のおかげですごく安心して過ごせてるので……。お二人がいてくれて、本当によかったです」
「くっ、良い子だ……っっ」
「良平君ほんと良い子……っっ」
うわわ、二人に同時に背中やら肩やら頭やら撫でられてしまった。
俺は良い子って言われるほど小さな子ではない気がするんだけどな……。
「そんで、昼飯は何を食うんだ? トウモロコシか?」
大浦さんに聞かれた桐谷さんは、えへへ……と苦笑いを浮かべてから俺を拝むかのように手を合わせてきた。
「良平君、頼ってばかりで悪いんだけど、マージしてもらってもいいかな?」
俺は笑顔で「はい」と答える。
ザル付きトウモロコシが5段階目だったんだし、7段階目くらいまで進めればもっと良いものが出るかもしれないよな。
俺達は、調理台がわりの石材が置かれている池近くの草地まで全員で移動した。
石材の上には、『雑草』が風に飛ばないようザルに覆われて、さらに鞄で押さえられていた。
「じゃあ全部マージしていきますね」
「お願いしまっす!」
「マージ開始」
ざっと300枚近くはありそうなそれを、俺は数えながらどんどんマージしてゆく。
「実は気になってたんだが……。良平は今日ずっとその能力使いまくってるけど、MP切れみたいなことにはならないのか?」
「あ、確かに、そういうのあるかも!? えっ、そうだよね!? そんな無限に出来たらチート過ぎるし……? でも『大いなる神の祝福』でもらった祝福スキルなら元からチート仕様なのかな?」
俺は数えながらマージしていた『雑草』を全部『米の苗』に変えてから、スマホをチラと見る。
136回マージした結果、マージ補助アプリの左上の数字は687になっていた。
この数字は、どうやらマージする度に1ずつ減っているようだ。
これが0になったら、エネルギー不足でマージできなくなるんだろう。
「そうですね、これまでで3割くらいの力を使ったので、あと7割くらいはマージできると思いますよ」
「そんなの分かるの!?」
驚く桐谷さんに俺はスマホを見せる。
「『雑草』272枚も集めてたんですね、桐谷さんすごいです。これなら6段階目を2つと7段階目、8段階目を1つずつ、残りが16あるのでスイカ2個かトウモロコシ1つができますね」
「一瞬で暗算したの!?」
「良平の特技らしいぜ」
「暗算が!?」
桐谷さんに目をまんまるにして驚かれてしまったので、俺は早々に種明かしをする。
「いえ、俺は元々マージゲームが好きだったので、必要数を暗記してるだけです」
「ほぇー……」
気の抜けたような声をもらす桐谷さんに、俺は尋ねる。
「スイカまでは全部作っていいですか?」
「あっ、うんっ。お願いしまっす!」
キリッとした顔で返事をされて、俺はほころぶ口元のまま『米の苗』を『トマトの苗』にマージしてゆく。
「ほんとだ……1ずつ減ってるね」
「どれどれ……? おお、本当にな」
この補助アプリは俺の手を離れると画面が黒くなってしまうみたいなので、俺は片手でスマホを握って二人に見せたまま、片手でマージを続けた。
やがて『トマトの苗』が68個ずらりと並んだ。
『トマトの苗』は片手では持ちにくいので、俺はスマホをポケットに戻して『スイカ』を34個作る。
それから『スイカ』を2つ残して『トウモロコシの山』を16個作った。
「いよいよトウモロコシの次だなっ!?」
「お腹に溜まるものっ来ーいっっ! あーっ、でも甘味も欲しいーっ!」
「スイカが十分甘いだろうが」
そんな二人の声に和みながら、俺は『トウモロコシの山』を重ねた。




