RCってなんだろう。
「マージ補助」
唱えた途端、アウトカメラが起動して「マージ対象を枠内に入れてください」という文字の下に点線で枠が区切られている。
俺はそこにレンガの山を入れてみる。
するとスマホにウィンドウが出た。
【『レンガの山』を格納しますか?】
[はい][いいえ]
[はい]をタップすると、画面が切り替わり、四角いマス目に区切られたよくあるマージゲーム画面のようなところに、レンガの山が1マス分入った。
「は?」
声を漏らしたのは大浦さんだ。
「今……レンガが一山消えたような……」
俺は自分のスマホ画面を見せながら「はい、ここに移動させました」と答えた。
「はぁ!?」
大浦さんが覗き込む前で、俺は画面の左下にあるカメラマークを押してみる。
やっぱりさっきの画面だ。
もう一山、レンガを格納してみせると、大浦さんは「はぁぁぁぁぁぁ?」と驚いているのか感心しているのかよく分からない声をあげた。
いや、俺も正直困ってはいたんだよ。
石材までは大浦さんと協力して持ち上げられたけど、トウモロコシみたいにザルに乗ってるわけでもないレンガは、俺以外が持ち上げると多分バラバラになっちゃうだろうし、俺1人で80個持ち上げるのは無理だろうから、押しまくって横からくっつけるしかないかな……って。
だから、これはとても助かる。
俺は試しに、マージ画面のレンガの山とレンガの山を指で重ねてみる。
すると思った通り、マージさせることができた。
なんだこれ、バケツ……?
ん? タップしたアイテムの説明文が下に出てるな。
このアプリ上でならマージさせた物の名前や説明文が読めるのか。
「大浦さん、『レンガの山』はマージすると『セメント入りバケツ』というものになりました」
「おおっ、セメント! しかもバケツ付きか! ありがたいな!」
さらには説明文の『?』アイコンをタップすると、詳細まで確認できた。
グラム数や縦横のサイズも数値化されている。
マージチェーン……このアイテムを作るために必要なラインも見えるんだな。
今まで俺が作った事のある『石ころ』から『セメント入りバケツ』までは見えていて、その先は『?』になっている。
作らないと分からないのはアプリでも同じか……。
でもまあ、これがあれば俺もマージ対象物に限っては鑑定スキルがわりに使えそうだ。
しかも、マージ対象物が大きくなってもアプリに入れれば楽に持ち運びできるってことだもんな。
マスは横が7マスに縦が9マスで63マスか。結構入るな。
まずは『セメント入りバケツ』を出してみるか。
マージ画面には、画面の左下に外向きの矢印アイコンがある。
多分これじゃないか……?
俺はそのアイコンへ『セメント入りバケツ』をドロップする。すると俺のスマホの1メートルほど前にセメント入りバケツが現れた。
「よっしゃ! セメント! 待ってました!」
歓喜の声を上げた大浦さんが、ふと何かに気づいたように動きを止めて、それからしょんぼりと肩を落とした。
「そんでもオレは左官職人じゃないから、やり方は知ってても上手くはないんだよな……」
なるほど。
確かに大浦さんは建築設計がお仕事なんだもんな。
「そういえば『建築設計』スキルってどんなスキルなんですか?」
俺が尋ねると、大浦さんは弱った様子で首をひねった。
「それがよくわからないんだ……」
「建材に触って、建築設計って唱えるとどうなるんですか?」
大浦さんは『セメント入りバケツ』に触れて「建築設計」と唱える。
「設計図を入力してくださいって言われるんだが……。設計図なんてどこにどうやって入力したらいいんだ……?」
うーん……設計図か……。
大浦さんにも俺と同じように専用アプリがあったりするんだろうか?
大浦さんもそう思ったのか「ちょい荷物取ってくるな」と言うと、俺達が最初に現れたあたりに駆けて行った。
よく走る人だなぁ。
大人というのはあんまり走らないものかと思ってたけど、どうやら人によるらしい。
俺は帰りを待つ間に、『レンガの山』を全部アプリ内に格納した。
このマージ補助アプリといい、俺のマージ能力といい、ヨミトキさんのくれた祝福で生まれる能力は、自分の得意なことを存分に発揮できるように出来てる。
だからきっと、この建材を使って家を建てるにしても、何か別のやり方があるんじゃないかな。
なんとなくだけど、大浦さんが不得意な作業を強いられる事はない気がする。
リュックサックを背負った大浦さんは片手でスマホをいじりながら戻ってきたけど、俺と目が合うと困ったように眉を下げて言った。
「オレのスマホにはそれらしいアプリはなさそうだな……」
がっかりしてるなぁ……。
「大浦さんは設計図っていつもどうやって書いてるんですか?」
「オレはもっぱらパソコンだな、もう手書きは随分とやってない」
「パソコンって今持ってますか?」
「ああ、ノートパソコンならここに入ってる。普段は家のデカいやつで描いてるが、これにもソフトは入れてある。出先でプレゼンに使うからな」
リュックサックからチラっと銀色のノートパソコンを見せてくれる大浦さんに俺は尋ねる。
「そこに見慣れないアプリはありませんか?」
俺の言葉に大浦さんはハッとなってノートパソコンを開いた。
「あ……、ある……『建築設計補助アプリ』ってのが……」
かすかに震える声で呟いた大浦さんが、カチカチカチッとそのアプリを開いた。
クリックは2回でいいよ、落ち着いて?
「建築設計補助」
大浦さんが唱えたので、俺のアプリと同じように起動するとスキルで承認しないといけないんだな、と理解する。
「んん……? なんだこれ……」
開いた画面を見て大浦さんが首を傾げる。
「見てもいいですか?」
「もちろんだ。何か分かるなら教えてくれ」
どうやら、画面には材料が並ぶ場所と設計図が表示される場所があるみたいだ。
左側に材料一覧という名前がついていて、右側が設計図と書かれてる。
「試しに何か作るとして、レンガとセメントだったら何を作りますか?」
「画面を見るだけでやり方が分かったのか!?」
「ええと……多分、ですけど……」
「まずはトイレを作りたいんだよな、レンガで囲いを作るだけでも……なんせ女性がいるからな。見られたらお互い気まずいだろ?」
トイレ……?
言われてから、俺はようやく気付いた。
ここには木すら生えていない、完全な吹きっ晒しだ。
身を隠す物影すらないのか。
それは、確かにマズイな……。
「ひとまず良平はその7段階目まで作ってみてくれないか? それ次第で、レンガで作ることになりそうなら、オレはひとっ走り追加の石ころ拾いに行くから」
「わかりました」
俺はマージ画面でレンガの山を重ね合わせて4つの『セメント入りバケツ』を作る。
『セメント入りバケツ』だけなら6つは作れる。
だけど、アンマージは元のアイテムに戻す能力ではないので、必要アイテムを確実に手に入れるためには、マージを進め過ぎないことも大事だ。
『セメント入りバケツ』同士を重ねると、四角く平たい板になった。
なんだこれ……。
タップしてみると『石壁』と書かれている。
「『セメント入りバケツ』は『石壁』になりました」
「壁!? いきなり壁になるのか!?」
「はい……」
壁になったということは、次は……。
俺の今までのマージゲーム経験が告げている。
次に来るのはアレだと。
「そんじゃ壁を組み合わすだけでひとまずトイレ用の囲いはできそうだな。どのくらいのサイズかいっぺん出してみてくれるか」
俺は「はい」と答えて石壁を取り出す。
ずしん、と小さく地が揺れる。
石壁はデータによると縦横2mずつに厚みが20cmの板が3枚のはずだ。
「うお、意外とデカいな。っと、建材鑑定」
俺は大浦さんが石壁に気を取られている隙に、ススっと手元のアプリで『レンガの山』を重ねて『セメント入りバケツ』を2つ追加し、それらも重ねる。
そうして出来た『石壁』2つを、そっとマージしてみた。
……やっぱりか……。
「これはRCなのか。結構な強度がありそうだな」
大浦さんが満足そうに頷いているけど、RCってなんだろう。
「ああ、RCってのは鉄筋コンクリートの事な。コンクリん中に鉄筋が骨みたいに入ってて、コンクリだけよりずっと頑丈なんだよ」
俺ってそんなに疑問が顔に出やすいんだろうか。
それとも大浦さんが人の気持ちに気づきやすいのかな……。
「大浦さん、あの、『石壁』の次のものを作ったんですが……その……」
「ん? どうした?」
「がっかりしないでもらえると、ありがたいんですが……」
俺はそれを出せるだけの距離を取って、スマホを構える。
「かなり大きいので、離れていてくださいね」
「お、おう」
俺は外向きの矢印にドロップする。
『石造りの家』を。




