『マージ』を実行しますか?
「俺の能力っ、えっと、祝福スキルってやつ分かりました!」
草地に駆け込んだ俺に、二人が揃って驚いた顔をする。
「本当か!?」
「えっすごい! どうやったの!?」
言われてから、小石をいくつか拾ってくるべきだったなとようやく気づく。
この辺りには荒野ほど同じ形の石ばかりは落ちていないようだし、二人を荒野に案内するか……と思ったところで、ふと生えている草があまりにも同じ様子なのに気付いた。
ここの草でも同じような事が出来る気がするな。
「さっきは向こうの石でやったんですけど、ここの草でも出来ないかやってみますね」
「おう、頼む」
「なになに、どんな能力なの?」
俺は草に触れる。
さっきのように頭の中に文字が浮かぶ事はない。
じゃあこれでどうかな……。
俺は草をプチッと千切って手に取った。
するとさっきと同じように文字が頭の中に浮かんでくる。
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祝福スキル『マージ』の実行対象です。『マージ』を実行しますか?
開始する場合は「マージ開始」、終了する場合は「マージ終了」と唱えてください
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俺はプチプチプチと続けて草を8本取る。
これで4段階上のものが1つ出来るはずだ。
これより上のものを作ろうとすると16本必要になるからな。
ひとまず最初はこれで……。
二人の視線をひしひしと感じつつ、俺は唱えた。
「マージ開始」
俺の手が光る。
「おおっ!?」
「わぁ、魔法みたい」
「魔法っぽいのはこれからですよ」
俺は言って、光る手で草と草を重ねる。
すると、青々と生い茂った雑草の束のようなものができる。
「それ……米の苗じゃないか……?」
大浦さんの言葉に、桐谷さんが「そういえば田植えの直後ってこんな感じですよね?」と手を伸ばしてくる。
俺はその間に、8つの草の葉を4つの雑草の束にする。
「えっ、何!? なんか頭の中に文字が……!?」
見れば桐谷さんは俺の作った雑草の束を手にしていた。
「そのスキルを使える物に触ると使い方が頭の中に出てくるみたいですね。よければやってみてください」
俺が言うと、桐谷さんは「やってみるね」と答えて「食材鑑定」と言った。
食材……ってことは……。
「やっぱり、これお米の苗だって! すごいよ小笠原くん!」
桐谷さんが破顔する横で、大浦さんが難しい顔をする。
「つっても今から米なんて育ててちゃ、育ちきる前に餓死すんだろ……」
「マージを重ねれば、すぐ食べられる物も出るかもしれないので、やってみますね」
「おう、頼むぞ小笠原……って名前なげーんだよな。下の名前で呼んでもいいか?」
「はい、良平で」
「オレにも敬語とかいらねーし、二人とも気軽に話してくれよ」
「じゃあ私も良平君って呼んでいい?」
「はい」
「返事が硬いよーっ」
そんなことを言われても、急に初対面の年上の人達とタメ口で喋れるような性格ではないので、少し言葉を崩す程度で勘弁してもらいたい。
俺は苦笑しながら雑草の束……もとい『米の苗』をマージした。
すると星のような黄色い花を咲かせた、少し高さのある植物になった。
「トマトだ!」
桐谷さんがすぐに言う。
言われてみれば、小学生の頃トマトとオクラとピーマンとナスを育ててたよな。
俺はオクラだったが、トマトは確かにこんな感じだったような……。
「鑑定していい?」
俺は「はい」と答えかけたのを呑み込んで「うん」と答える。
桐谷さんは満足そうににっこり笑って、「食材鑑定」と唱えると、鑑定結果を読み上げた。
うわ、調理法だけじゃなくて育て方までわかるんだ……?
流石に神様が直接くれた祝福スキルは優秀だなぁ。
「花のついてるトマトなら、すぐに実が採れるようになるよ」
「そうだなっ、そんで、トマトをくっつけたら何になるんだ!?」
「苗ときて花になったんだから次は実でしょ!?」
「すぐに食えるもんが欲しいな!」
俺も実はワクワクしてるけど、大人二人の方が俺よりあからさまにワクワクしていて、苦笑が浮かんでしまう。
「やってみますね」
俺の言葉に二人は声を揃えて「「返事が硬い」」と突っ込んだ。
トマトの苗……にしては育ってるけど、木ではないのでトマトの苗と呼ぶ、それを二つくっつけると、出てきたのはゴロンと大きなスイカだった。
「「「スイカ!?」」」
果物ならリンゴとかブドウとかその辺から来るのかと思っていたのでちょっと意外だったんだけど、とりあえずこれならすぐに食べられそうだ。
「切って中身を見たいんだけど、いいかな……?」
桐谷さんの言葉に、大浦さんが「刃物とかなんも持ってねーな、踏み割るか?」と尋ねる。
「筆箱にハサミなら入ってますけど……」
俺もハサミしかないな。
「お、ハサミいいな」
「あー、お料理の時にハサミ借りたいかも!」
おお、普通のハサミだけど役に立つみたいだ。
「大丈夫、私包丁持ってるから」
桐谷さんは不敵に微笑むと、鞄からスラリと立派な包丁を取り出した。
怖っ。
「……そんな普通の鞄から包丁が出てくるもんか……?」
俺と同じ感想を大浦さんも抱いたようだ。
「たまたま職場で使ってる自前の包丁の切れ味が悪くなってたから、家で砥いだとこだったの。そんな毎日包丁持ち歩いてるわけじゃないからね!?」
どこで切ろうかとキョロキョロする桐谷さんに、俺はさっき作った石材の存在を思い出す。
あのそこそこ大きな長方形の石材なら、作業台やちょっとしたテーブルがわりになりそうだ。
俺と大浦さんの二人で荒野から石材をようやく草地に運んできた時には、もう二人とも汗だくだった。
「いや……無理して運ばなくても、こっちで作りゃよかったよな……?」
大浦さんが今更な事を言う。
「……そう、ですね……」
「んじゃ次は俺が山ほど石拾ってくっから、こっちで作ってもらうか」
「わかりました」
「お前、敬語使うの癖か?」
「いや、なんか、難しくて……」
「ふーん、まあ難しいならそのままでもいーから、気ぃ遣うなよ」
そう言ってもらえるとホッとするな。
「ありがとうございます」
座り込んで息を整えていると、桐谷さんが明るい声をかけてきた。
「スイカ切れたよー。冷えてないけど十分甘いわー、糖度9あったよ」
糖度までわかるんだ? 食材鑑定ってすごいな。
スーパーでは糖度12とか13とかも見かけるので糖度9は少ない気がするけど……。
お皿もないので、俺と大浦さんに一切れずつ、桐谷さんが差し出してくれる。
スパッと綺麗に切られた真っ赤なスイカは、明るい日の下で宝石みたいにキラキラ輝いていた。
「あんま甘ったるくても喉乾くしな、ひとまずスイカを飲み物がわりにするか」
大浦さんの言葉に、そうか、飲み物も無いのか……と今更気づく。
池の水は……確かにそのまま飲みたくはないもんな……。
「塩があれば、スイカと塩だけでも数日は持ちそうなんだけどねぇ……」
桐谷さんの言葉に、なるほどと思う。
改めて、この二人が一緒に来てくれてよかった。
俺一人ではきっとすぐに詰んでいたと思う。
「お、うまいな」
大浦さんの声に「でしょ?」と桐谷さんが答える。
俺も一口齧る。疲れた体にスイカの優しい甘さが染み渡った。
「ほんとだ、美味しい……」
「ふふーん」
ドヤ顔の桐谷さんに大浦さんが「作ったのは良平だぞ」と言った。
スイカを齧りつつ、俺はもう一度辺りを見回す。
「ここって今は半袖でちょうどいい気温ですけど、夜とか冷えそうですよね……」
砂漠と同じで熱を溜めておくところがなさそうだし、何より吹きっ晒しだし……。
「ああそうだな、夜までには雨風を凌げる場所を作りたいとこだ」
答えて、大浦さんは荷物の中からエコバッグを取り出すと「石を拾ってくるな!」と小走りで荒野に向かった。
ようやく祝福スキルがわかって嬉しいんだろうな。
ついさっき、石材に触れた大浦さんは祝福スキルの『建材鑑定』と『建築設計』の使い方が頭に浮かんだらしい。
荒野に石はごろごろあるけど、向こうで作ってこっちに持ってくるのでは大変なので、石をこっちに持ってきて建設予定地のこちら側で石材を作ることになった。
「良平君っ、大浦さんが戻るまで、これでスイカの次を作ってみようよっ!」
俺達がうんうん言いながら石材を持ってくる間に、桐谷さんは雑草を沢山ちぎってくれていたようだ。
「32枚あるよっ」
ということは6段階までいけるか。
スイカの次の次までだな。
俺は「マージ開始」と唱えて、毎日スマホでやり慣れた地道なマージ作業を開始した。
スイカを4つ作っているうちに、桐谷さんがもう8枚雑草を持ってきた。
「増やしてごめーん、スイカ1つは確保しておきたくて……」
確かに、上のものを作るとそこまでのものは何も残らなくなるからな。
「大丈夫ですよ」
「良平君敬語抜けないねー、……敬語キャラ?」
「いや、違いますけど……」
「うーん……、大変なら無理しなくていいよ。別にどうしてもタメ口にさせたいわけじゃないし、良平君がその方が楽ならそれで」
桐谷さんはそう言ってニコッと笑った。
「えっと……ありがとうございます」
「どういたしまして!」
健康的でほんのり丸みのある体つきの桐谷さんは、よく笑う人なのか目尻にはうっすらと笑いじわがあって、お化粧は控えめで清潔感のある印象だ。
肩下くらいまでの栗色の髪を、今は後ろで一つに結んでいる。
こちらの世界に来た時は髪をおろしていたので、職場に着いたら結ぶのが習慣なんだろうか。
調理の仕事って髪の毛とか落としちゃまずい職場だもんな。
そんなことを考えているうちに、5つ目のスイカが出来上がった。
「あの池で冷やしておけたらいいんだけどなー」
桐谷さんが出来立てのスイカを抱えて池を眺める。
そこへダダダとすごい勢いで大浦さんが駆け戻ってきた。
「ま、間に合ったか……?」
「何が?」
首を傾げる桐谷さんに、大浦さんが肩で息をしつつも口を尖らせて答えた。
「スイカの次を作るんだろ!? 俺にも見せてくれよ!」
「あはは、間に合いましたよ。ちょうど今からやるところでした」
自分の知る大人が親と先生達ばかりだからだろうか。
見知らぬ大人達は、ちゃんと大人ではあったけど、俺が思うよりずっと、子どもっぽい一面を見せてくれた。
俺は淡い光を放ち続けている手で、スイカを抱えてスイカと重ねる。
するとそこには、山盛りのトウモロコシが現れた。
「トウモロコシか!」
「ザルだ!」
大浦さんと桐谷さんが叫んだ言葉はまるで違った。
「ザル……?」
言われてよく見れば、山盛りのトウモロコシは木で作られたザルのようなものに乗っていた。
数えると、トウモロコシは10本ある。
桐谷さんが食材鑑定を使いながら言う。
「炭水化物が来てくれたのはありがたいねー、主食になるよ。けどこれは植えて育てるのは出来ないね」
「そーなのか?」
「うん、タネにするトウモロコシはもっと成長するまで畑に置いておかないとみたい」
「へぇ、そうなんですね」
言いながら、俺はスイカを二つ重ねてトウモロコシの山をもう一山作る。
「あー……これって次のを作るのに、ザルだけ抜くわけにはいかないのかなぁ?」
桐谷さんはザルが欲しくてしょうがないみたいだ。
「試してみましょうか?」
「是非っ!」
叫ぶと同時に桐谷さんがトウモロコシの山を崩してザルを抜き取る。
俺も「マージ終了」と唱えてもう1つの山からザルを抜こうとした時、文字が頭の中に浮かんできた。
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祝福スキル『アンマージ』の実行対象です。『アンマージ』を実行しますか?
開始する場合は「アンマージ開始」、終了する場合は「アンマージ終了」と唱えてください
======
「え……?」




