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「……俺がまだうんと小せえ頃、外で遊んでたら父ちゃんと母ちゃんに家ん中さ呼ばれてな、嬉しそうに『おめ、今度あんちゃんになんだど』と言ってきだんだ。
俺は嬉しくってな。俺もついにあんちゃんか、って、こんであんちゃんたちに自慢できんなって思ってな。飛び上がって喜んだんだ。
俺にはあんちゃんしかいねえがら、男が生れることしか考えられねえで、どんな弟なんだ? って聞いたらな、母ちゃんは『妹だべ』つって、もう名前も決めてんだっつってな。
『名前は何だ?』つったら母ちゃんが『シェリーちゃんだ』って言うんだ。俺はうまくシェリーが言えねぐでいだら、『本名は朱里ちゃん』だっつって。『名前二個あんのが、いいな』っつったら、『シェリーちゃんって言えねえなら朱里でいいよ』っつって、朱里は頑張って言えだがら早く朱里に会いてえなって、言ったんだ。
それから母ちゃんの腹がどんどん膨れていって、病院さ入るようになって、ある時また外で遊んでたら、じいちゃんから『シェリーが生まれたがら病院行くど』って言われてな、上のあんちゃんらも連れてみんなして病院に行った。そしたらな、先に病院さ行ってだ父ちゃんが、『妹でねぐて弟だった』って言ってな。俺は弟なら一緒に遊べると思ったから、余計に嬉しくなっちまってな。
父ちゃんに抱き上げられて、ガラスの箱みてえなのに入ってる朱里のごど見ながら、『早く大きくなって一緒に遊ぶべよ』って言ってやったんだ。それが多分聞こえてたんだっぺ。わがっだーっていう感じで朱里はこっちさ見たんだ。そんで退院して、段々大きくなってハイハイし始めて、歩き始めて、そうすっとすぐに俺の後についてくるようになって、俺がいねえと泣いてな。だからいつも一緒にいるようになって、そしたらいよいよ可愛くでなあ。
幼稚園に行き始めると友達ができだっつって大地連れてきで、それからはいつも俺とおめと、大地と大河で遊んだな。
小学校に入ると今度はルアンが入ってきてな。釣り行ったりカブト採りに行ったりな。砂沼のフナ舟乗って、大地のやづ暴れって落っこちでな。楽しかったな。
だから、おめが病院行くようになっとなんだか寂しぐっでな。母ちゃん、おめのごど喋らせるため、あっちこっち病院連れ回してな。今日は東京、明日は名古屋、来週は大阪、その次仙台ってよお。おめに会えない日が何日も続いた。
俺は『もういいじゃねえが、朱里は喋らなくだっていいじゃねえか』つって、困らせたこともあったんだ。ある時おめも『もう行きたくね』っつって、玄関で止まっちまって、そっがら病院通いはなしになって、俺らとまいんち遊び回るようになって、嬉しかった。それから、おめが生き生きしてきたのも嬉しかった。
俺がじいちゃんからギター買ってもらって弾けるようになると、おめも羨ましがってな。じいちゃんに朱里の分も買ってやってくろっつって、おんなしので赤いの買ってもらって、コードだのなんだの教えてやったらすーぐ弾けるようになってな。俺がコピーすっとすぐにおめも真似してきてな。弟っつうもんはいいもんだなって、しみじみ思ってた。
でもおめはギターとか外で遊ぶのも好きだけど、言葉は出ねえし体も細いしで、なんか守ってやんなきゃいげねえなっつうのはずっと思っててな。大地だの大河だのルアンだのは、どんだけ乱暴にしても問題ねえけど、おめはなんか別っていうかな。とにかく特別だったよ。四人の中で、弟だっつうこと以上に、なんか特別大切だった。宝物みてえに思ってた。」
朱里の目から再び涙が零れ落ちる。海里は微笑みながら手の甲で拭ってやる。
「上京して大学辞めてからは父ちゃんに勘当されちまって、全然家にも帰れねえで正直おめのごどは心配はしてたけど、バンドに打ち込んでだのもあってなかなか構ってやれねぐでな。
でも茨城でライブやるつってなった時に、おめらが来てえって言ってくれた時は正直嬉しかったな。おめらに久々に会えると思うとな、ライブにも俄然力入ってたの、わがっでだか? ルアンダイブさせたりな、やりたい放題だったかんな。
下妻で遊んでた頃とおんなしだ。あのライブは忘れらんね。でも、そっからおめらもバンドやりてえって言い出したのには驚いたな。ほっだらごとになるとは夢にも思わねがっだかんな。でも嬉しかったよ。俺の後さ一生懸命に付いてきてた、おめの小さい頃を思い出したよ。
でも正直お遊びぐれえのもんかと思ってたんだ。どんちゃん騒がしくしてらあ満足するだろ、ぐれえに。
ほしたらおめ、今度ライブハウスさ出してくれっつうんだから、こらまた驚いた。
コピーじゃ出れめっつったら、おめ、さっさと曲作ってくんだもんよ。それも初っ端から十分にこのバンドの曲になってる。おめの曲になってる。人まねでねえし、おめの思いが伝わってくるんだもん、魂消た。とにがぐ、おめには才能があるってはっきり気づいたのは、この時だった。
色々考えるに、おめは喋れねえがら、その分自分の内面を、こう、音楽で表現してんだっぺ。そうでも思わねど、納得できねえ。そんぐらいのクオリティだった。
こら面白ぇことになっかもしんねって思ってつくばのライブハウス紹介してやって、でも、そのあたりから、あんましおめらに手助けすんのも良くねえなって思い始めたんだ。俺の色を付けちまうごどで、おめらのオリジナルが損なわれちまうとますいなって思い始めてな。俺はその頃はおめらは茨城で燻ってるバンドでねえなって思い始めてだ。
そんでおめらの初ライブの次の日か。すぐに店に連絡取ってな。『あいづら、ぶっちゃけどうだったべか』って聞いたら、やっぱ俺とおんなじ。あの曲は凄ぇってな。まだまだ粗削りだしテクニックもこれからだけど、曲は凄ぇってな。ほっだごど言われて、俺は鼻が高かったよ。俺の弟が作ってんだっちってな。やっぱりそうでしたか、海里さんの血ですねなんて言われてな。
それからルアンが女とやらかしたり、強制送還だなんだっつういざこざはあったけど、まあまあ順調にバンドも成長してきてな。レコーディングさしたら音源も想像以上で、ケンさんもマジか、日本にもこっだにクオリティ高い曲書くバンドが出てきたかって、陰では騒いでだんだど? 初っ端からいい気になるとだいだど思って、おめらの前では言わねでくろよっつったがら、おめの前では厳しい顔してただと思うけど。あら、はっきり言って1stの出来を超えてる。おめの魂が入ってる。おめの生きざまが、ちゃあんと籠められてる。だから、自信さ持で。お前がヴァッケンで自分の曲弾くんだよ。他の誰でもねえ。あれを弾けるのはおめしかいねえ。」
朱里の頬がほんの少し、和らいだ。
窓の向こうでは少しずつ闇が薄らいできた。




