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Children of Sanuma 2  作者: momo
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 In Your Faceとしての活動は、大地とルアンの就職、朱里の上京で、練習の機会の確保こそ難しくはなっていたものの軌道には乗っていた。

 つくばのライブハウスHaxedでのライブを主軸としながら、思いがけなく海里の主催するライブのオープニングアクトを担ったことで、それ以降もたびたび、東京のライブハウスからもお声がかかっていたのである。それは数か月に一度の頻度ではあったが、それでも東京でコンスタントにライブができるようになってきたことは、In Your Faceにとって大きな自信ともなったし、またとない成長を得られる機会ともなった。

 昨今は、大地、大河、ルアンはほぼ毎夜のように朱里の家の蔵で練習に励み、週末になると朱里が加わって東京で作ってきた新曲を披露して完成に持っていくというサイクルが定着しつつあった。

 四人で合わせられる練習の時間こそ減ってしまったが、それでも基礎的な技術力が既に身についていたお陰で、週に一度の曲合わせでも十分に曲の完成を見ることができるようになっていたのは、バンドとしての技量が上がったことの証左に他ならない。

 それでもやはり既に、一人一足早く上京してしまった朱里が、大学進学のためとはいえ罪悪感めいた感情を抱いていたのも事実である。だからこそ朱里は東京で今までよりも懸命に作曲に打ち込んでいた。それで週末の帰省時には青白い顔色をしていることもあり、実際、幾分痩せたようにも見える。

 

 「おめ、無理してんでの? だいじか?」

 いつか、週末の練習後に大地が心配してそう聞いてみたことがあった。上京して間もない頃であったろう。

 何が? そんな顔で朱里が不思議そうに大地を見つめる。

 「いや、……おめ、顔色あんまよぐねえし、それに、ちいと痩せだが?」

 苦笑しながら首を振る。

 「おめが倒れたらおれ、なじしたら(注:どうしたら)いいが……」

 俯いた朱里の頬がにわかに紅潮した。

 「バンドできなぐなっちまう。」

 そっちか、と朱里はむくれる。

 「頼むからちゃんと飯食って、寝んだど? おれからもあんちゃんに言っどぐがら。」

 朱里は海里の東京のマンションで一緒に住んでいるのである。

 朱里は呆れたようにスマホを取り出して、何やらメモに打ち込んで大地に突きつける。

 ーー大丈夫だから

 ーー別に言わなくていい

 大地は突然朱里を抱きしめる。

 シンバルを拭いていたルアンは目を丸くして、ベースの片づけをしていた大河の腕を取り、急いで蔵を飛び出す。

 「ち、ち、ちっと待って。まだ弦拭いてねえべ! 弦ちゃんと拭かねば錆ちまうべよ!」大河が慌てて言った。

 「いいがら!」ルアンに口をふさがれ大河は目を白黒させる。二人は慌てて蔵を飛び出す形となった。

 蔵には二人が残される。

 朱里は体を離そうと捩じった。

 「おめ、やっぱ体骨ばってんでねえの。ほれ、腰んどこなんが肉付き悪くなってべ。」

 身体検診的な目的と知って、朱里はにわかに立腹する。手に持っていたスマホの角を勢いよく大地の頭に突き落とした。

 「痛ぇええー!」

 大地は頭を抱え、その場に転がった。

 朱里は鼻をふんと鳴らすと、蔵を出た。

 「も、もう出てきたべ。早ぇな。」蔵の外で大河を羽交い絞めしていたルアンは、呆れたようにそう言った。


 バンドには役割がある。

 特に朱里の役割は、バンドの要たる作曲アレンジ全般を担うコンポーザーであることは間違いないものの、話ができないことで、バンド活動が進むにつれて次第に大きくなる、対外的な活動についてはまったくと言っていいほど関与することができなかった。そこを買って出たのは大地である。

 「インタビュー?」

 とあるメタルバンド専門のウェブサイト運営者からそんな申し出があったのは、つい先日のことであった。

 朱里は困り果てたように依頼文のメールを見せる。

 「面白そうだっぺ、俺がやっぺ。」大地が言い、その隣でルアンも「俺もやるやる!」と宣った。「有名人みでえでかっけえべ!」

 そういうことは不得手な朱里と大河は二人の申し出にほっと胸を撫で下ろした。早速朱里は返信を綴る。

 「でもよお、どういったこと聞かれんだっぺな。おれのかっこいい秘訣とかがあ?」大地がほくほく顔で言い、

 「んなわけねえべ。……曲作りのごどどがだったらどうすんで? おめ、わがんねべよ。」大河が苦虫を噛み潰したような顔で言った。

 大地とルアンは顔を見合わせた。

 「……おれ、曲作りなんて知んねど?」

 送信を完了してしまった朱里は目を瞬かせる。

 「ほっだごど聞かれても、朱里しか知んねえでねえが」ルアンもつまらなそうに続けた。

 朱里はスマホを取って、ーー適当でいいよ、と伝える。ーーそれにオンラインだから私も一緒にいるし。

 適当でいいのか、と大河は呆れたが当の本人がそういうのであれば口を挟むまではない。少々の危惧はあったものの、即日朱里の離れでインタビューの日を迎えることとなった。


 画面越しに髪の幾分伸びた、いかにもメタルヘッズとでもいうような中年男性の顔が映し出される。男はサエキ、と名乗った。

 パソコンの前には大地とルアンが満面の笑みを浮かべてスタンバイしているが、見えないところに身を寄せ合うようにして朱里と大河が控えている。もし何かあれば、ーー出ていくほかにあるまい、とは大河の考えるところでもあった。なにせあの二人は何をしでかすかわかったものではないから。

 「では、よろしくお願いしますね」ずいぶん年上のはずであるのに、男は丁寧語で二人に接した。

 「今おそらく日本で一番勢いのある若手メタルバンドかと思いますが、結成のきっかけから聞いてもよろしいですか?」

 「結成?」大地がルアンと顔を見合わせる。「結成っちゃ、バンドさおっ始めたきっかけのことだべか?」

 「ほだべ。」ルアンが頷く。「……あんちゃん、でねえ、海里……でもねぐて、ほだ! Needled24/7のライブが水戸であって、ほんでこの四人で行くべってなって行ってみだら、あんちゃんかっけえ! 俺らもこういうのやんべって話になって、その日の帰りの電車でなんの担当にすっか決めたんですよ。ありゃ、その日のうぢに全部決まったっけな!」

大地もそうだそうだと笑顔で頷く。

 「ほお、それは大変ドラマティックですね。たしか海里さんの弟さんが、ギタリストなんですよね?」

 「ほだ。朱里な。」朱里はそう大地に呼ばれて、ぎくりと身を震わせる。すかさず大河が大丈夫だよ、とでもいうように背を摩った。

 「ちなみに弟、さんでよろしいんですよね? 見た目は女性に見えますが。そこ、結構リスナーの中でも情報が錯綜しているようで……」

 ちら、と大地とルアンは朱里を見た。朱里はうんうんと頷く。

 「れっきとした男性だべ。中学はセーラー服だったし高校もスカートで通ってたけどな。」大地は言った。

 「え?」

 「わがんねがなあ? 朱里は小っちぇえ頃から女の子の恰好して生きでんの。それが朱里なの。でも立派な×××が付いでんの!」ルアンがやけくそめいて言った。

 即座に朱里が手元にあったコースターを勢いよくぶん投げる。ルアンの頭部に当たり、「痛ぇ!」思わず頭を抱え込んだ。

 「あ、もしかしてそこに朱里さんいるんですか?」

 「いるよ」大地が答える。「でも喋るのはだい(注:だめ)なんだ。朱里だから。」

 「シャイなんですね。」

 「シャイっつうか、なんつうか。……まあ、そういうことでいいや。お客さんからもな、朱里に挨拶さしてくろだどが、朱里と写真撮らしてくろどが言ってくんだけど、だいなんだ。できねえんだ。でも俺らが代わってやるから勘弁なってどっかに書いどいでくれねが?」

 「わかりました。……でも皆さんいい関係ですね。四人は幼い頃からご友人だったんですか?」

 「ほだよ。俺と朱里が下妻の寺の幼稚園でおんなしひまわり組で、大河が二個下で俺の弟。ルアンは小学校一年時におれのクラスさ転校してぎで、その日から友達だ。」

 「幼馴染ですか。だからお互いの個性を理解しあって、支えあってバンド活動ができているんですね。いいですね。」

 「ほだな。」大地はそこは素直にうなずいた。

 「で、皆さんは既に1stアルバムを出されていますけれど、これも売れ行きがかなり好調だったと聞いています。私も聴かせて頂きましたが、とても1stアルバムとは思えないクオリティーの高さだと驚きました。これを作るきっかけというのは何かあったんでしょうか? 皆さんその時は高校生と非常に若い年齢だったと聞いていますが。」

 「そらな。……あんちゃんに追っつくためだ。」頭痛から復活したルアンが堂々と言ってのけた。

 「はあ。」

 「あんちゃんはな、小っちぇえ頃から、それこそ俺が日本来たばっかで、日本語も喋れねえ頃からよぐよぐ遊んでくれてな、マジでいいあんちゃんで、俺らがバンドやるきっかけもくれたけど、でも追っつきてえつう気持ちもあんだ。な、」と言って三人の顔を順繰りに見る。三人は頷く。

 「で、あんちゃんに俺らが高校二年の時かあ? ライブのオープニングアクトをやれっつわれてやっだ。それがうまくでぎだんで、レコーディングスタジオ紹介してもらえたんだ。曲もだいぶできでだがんな。そん中から十曲選んで、ケンさんどご行って録ってもらっだ。あ、ケンさんつうのは、あんちゃんも世話んなってるレコーディングすっとこで、あら厳しくて厳しくて正直俺も挫折しかけたんけど、どうにかこうにか完成させられたんだ。」

 「そういうことだったんですね。では、アルバム作成の経緯には、海里さんからのお礼的な側面もあった、と。」

 「まあ、そう。」

 「Needled24/7もそうですし、In Your Faceも下妻出身のメンバーで構成されていますが、下妻にはそういったバンドをやる文化的土壌、みたいなものがあるんでしょうか?」

 四人は思わず噴き出した。

 「あるはずねえべよ!」大地が思わず大声を出した。

 「おめ、ちっと来てみろ。タヌキとハクビシンと山鳩しかいねど? あと暴走族。」ルアンが淡々と語る。

 思わずサエキは噴き出した。

 「ブラックバスもいっぱいいんな。」大地が淡々と続けた。「……そもそもは、あんちゃんがじいちゃんにギター買ってもらって、そっから始まった感じだな。あんちゃんが上京してからも残してくれた機材あっだから、あんちゃんちでずっとおれらも練習してんだ、毎日。」

 「そうなんですね。海里さんがあなたたちにとって、本当に大きな存在であるということがわかりました。海里さんが導いてくれてIn Your Faceが誕生したんですね。」

 朱里は遠い目をしていた。

 「でもかっけー、すげー、ばかりでねぐて、いつか追っつく、……じゃね、追い越すかんな。あんちゃんにもそう言ってるしな。」大地が身を乗り出して言った。

 「それはさぞかし海里さんも嬉しいでしょうね。」サエキは笑った。

 「だから俺らもヴァッケンに行がねどいがめ(注:行かないといけない)。八万人の人に俺らの音楽を聴かしてやんねばだいなんだ。」ルアンがそう言って身を乗り出した。

 「ヴァッケンといえば」サエキは急に真顔になって言った。「知っていますか? 来年度から日本人バンドの出場枠が与えられるそうですよ」

 三人は顔を見合わせた。

 「日本のメタルバンドの発展が著しいということで、まあ、そこには昨年出場されたNeedled24/7も大きく貢献されていることは確実でしょうが、ともかく、日本人バンドとしての出場枠を一枠作り、その選考会も行われることが決まったそうです。メタル・バトル・ジャパンという大会だそうですよ。その優勝者がヴァッケンに出場できるとのことです。」

 四人は顔を見合わせ、息をのんだ。

 「まだ募集は行っていないようですが、おそらくは今年中には募集が開始されると思いますよ。」

 「出んべ……。」大地が画面を見つめながら呟く。

 「出んべ出んべ!」ルアンも大地の両肩を掴んで激しく揺らしながら言った。「ほっだらバトルが行われるっちゃあ黙っちゃいらんねえよ! 出んべ出んべ! ほんで優勝かっさらってヴァッケン出場だべよ! ああ、こうしちゃおれねえ!」

 朱里と大河は目を丸くしながら互いの顔を見つめていた。

 その後は一通り曲作りや作詞方法等について、大地が代弁したり回答したりでインタビューは終わった。

 しかし四人の脳裏はただただメタル・バトル・ジャパンのことだけが残っていた。今年中にあるのなら是非出場し、いち早くヴァッケンに出てみたい、そんな希望が四人の胸中に灯った。

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