14
海里の前で三人は項垂れたまま、ソファに座らせられる。大地もルアンも顔は腫れ、ところどころ血がにじんでいた。ルアンは忌々し気に切れた瞼を拳で拭った。
「何おめらはぷっくらし合ってたんだ」海里は静かに二人を睨みつけるようにして尋ねる。
ルアンが厭そうに大地を横目に見、大地もため息交じりにルアンを睨んだ。どちらが先に口を開くべきか擦り付け合おうとしていたその時、
「……どっちも悪くねえ」消え入りそうな声で、しかし意を決したように大河が言った。さすがにルアンも大地も驚いて大河を見た。
「あのな、あんちゃん。……ルアンはヴァッケンに出てぇんだ。そのために、ずっと俺らやってきでだんだがら。でもな、大地はそれよが朱里の体守ってやんねどいげねえって思ってんだ」ひっく、と肩を震わせる。
「俺はだから、どっちも間違ってねえって思う」
一瞬海里は黙したが、出鼻を挫かれたでもいうように苦笑して大河の頭をぐりぐりと撫でた。
「わがっだわがっだ、よぐわがった」
「ルアン、おめには詫びても詫びきれねえ。でも、朱里は今、とてもでねえがステージに立てる体じゃねえ。こればかりは兄貴として俺から謝る。本当に、済まん」そう言って深々と頭を下げた。
「何で!」ルアンの声は涙ぐんでいた。「何で朱里は今、女になる手術なんてすんだよ! 俺何も知んねえ! 何も聞いてねんだよ! ずっとずっと一緒にやってきだのによお! ほっだらごどってあるか? ああ?」
「ほだいな(注:そうだよな)。俺も正直知らんかった。あいづが女の心を持ってだごども」
それぐらい知っておけよ、と三人は胸中で突っ込む。あんなに全身全霊であんちゃんを慕っていたじゃないか、と。
「ほんで、上京してあぢこぢ病院さ行ってだみでえだ。女になるために。一緒に住んでながら全然、知らなかった。」
海里はそう言って項垂れる。
「病院さ見つけて、これでいよいよ女になれるって思って、後先考えずに勝手にこのタイミングで治療さやらかしたのはあいつの先見のなさだべ。医者様だってちゃんと術後の説明はしたはずだ。だのにあいづは……」そこには非難めいた感情よりも苦悶の方が勝っているように思われた。
「……ヴァッケンは来年もあるべ」大河がか細い声で言った。「別に今年出ねえどだい(注:だめ)ってわけでもねえべ」
さすがにルアンは黙する。
「……でも、おめらは今年出たいんだべ?」海里は三人を見つめながら言った。
「……今年、出たい」ルアンが押しつぶされたような声で呟く。「俺は一年でも早く、海外へ出るっつう夢を叶えてえ」
「ほっだらサポート入れればよがっぺよ」
「そういう問題でねえ!」思わず大地は声を荒げた。「朱里の曲なんだど? 朱里が弾かねでどうすんで?」
さすがに現実味のない提案にルアンも、大河も頭を抱えた。
「……なあ、その件俺に任してくんねえが?」どこか遠くを見るような眼差しで海里は呟いた。「おめらに絶対悪いようにはしねえ。約束だ」




