第008話 親父殿とお出掛けです
家の中だけじゃ物足りない。
親父殿と一緒に外に出たい!と言う事でエドワード、早速お出かけをおねだりします。
1歳の誕生日の祝いの席で、喋る事を「実装」したエドワード。言いたい事も言えない苦痛から解放され、どんどんと語彙を解放していく。朝は起こしに来たクロエ姉さまに、
「おあよーございましゅ」
と立派に挨拶する。クロエはそんなエドの挨拶にニッコリしながら、
「おはよう、エド。よく寝れましたか?」
と挨拶を返してくれる。
挨拶の後はクロエの手助け(と言ってもまだまだおんぶに抱っこだが)で、寝間着から平服に着替える。顔も洗ってクロエと手を繋いで食堂へ。
テーブルにはすでに親父殿が座っており、何やら紙を覗き込んでいる。まだ新聞みたいなのは出来てないから、仕事を持ち帰ってるんか?熱心なのは結構じゃが、余り感心はせんのぉ。
「おあよーございましゅ、父上」
そんな風に声を掛ければ、書類らしきものとにらめっこしていた親父殿は、難しい顔から一転、
「おー、エドか。今日も元気に挨拶が出来て良い子でしゅねー」
などと、目尻が地面に付きそうなくらい垂れ下がった顔で、ワシの頭をナデナデする。あんまりガシガシ触らんでくれ。髪の毛がぐしゃぐしゃになっちまうじゃないか。
「あら、おはようエド。今日もちゃんと起きて来られたのね」
台所から朝ご飯を運んできたかーちゃんが、食卓にご飯を並べながら話しかけて来る。今日「も」固いパンにスープ、薄切り肉と目玉焼き(そうか、まだベーコンは作り方が分かってないのだな)と言う極めて質素な朝食である。
ああ、ワシはまだまだ離乳食じゃぞ。歯がしっかりと生えてないのであんな固いパンなんぞ、食えたもんじゃない。麦を煮てふやかした麦粥がワシの朝飯じゃ。
あー、白飯に味噌汁。鮭の切り身とたくあんが恋しいのぉ。
『人間というのは不便ですな。良い味を覚えてしまうと、それ以下には満足出来ないなんてねぇ~』
ガイアよ、おまーさんは神様だで味なんて関係無いんじゃろうが、人間っつー生き物は三大欲の固まりじゃぞ。食欲、物欲、性欲ってな。
『まあ、欲があるからこそ世界は発展するのでしょうね。それは否定致しませんよ』
つか、おまーさんも立派な欲を持っておるではないか?この世界を発展させようとする欲を、な。
『ああ、そう言われればそうかも知れませんね。でもそれは健全な欲ですからね!』
ふーん、健全な欲ねぇ。何かチクチク刺さって来るのは、気のせいかのぉ?
朝ご飯も終われば、親父殿は仕事に出掛ける。ワシは駆け寄ってズボンの裾を掴みながら、
「父上ー、今日は父上の仕事が見たいれしゅー。いっちょに行きたいれすー」
と甘ったれてみる。親父殿は首を傾げてちょっと悩んだ表情を見せたが、すぐにあのデレデレな表情になって、
「おーいエレナ。今日はエドと一緒に騎士団に出るから、エドが食べれそうなものを見繕ってはくれんか?」
「えー、エドを連れて出勤なのぉ?困ったわね、何か良いものがあれば良いんだけど」
かーちゃん済まんの、いきなり我儘言うてしまったの。
エレナは台所でバタバタして暫くすると、小さなバスケットをワシに手渡した。
「エド、今日のお昼はこれよ。あと急なわがままは余り言わないように、カークと出掛けたいのなら早めに言いなさいよ」
「あーい、ごめんなたい」
ちょっとだけしょぼくれた表情を見せると、かーちゃんは頭をそっとなでなでしてくれる。やっぱりこう言うスキンシップは母親の方が柔らかくて優しいのぉ。
バスケットを手にして親父殿と厩の方へと向かう。この馬、元々は騎士団預かりの馬で、親父殿の仕事用にと下げ渡されたとか。親父殿が休みの時はウチの厩でのんびりと草を啄んでいて、たまに遊びに行くと優しく顔を舐めてくれる。実に大人しい馬である。
親父殿に抱き上げられて馬の鞍に乗る。その後ろに親父殿がヒラリと跨がる。かーちゃんとクロエはそんな二人に手を振って挨拶する。
「エド、余り騎士団の中でオイタはしてはいけませんよ」
「いーなー、エドは父上と一緒に行けるなんて」
かーちゃんはワシが危なっかしい事をしないように釘を刺しに、クロエは純粋に親父殿と一緒に出掛けるのを羨ましく思っておるようじゃ。
「まあ、何とかなるだろう。騎士団の古株にはエドくらいの子供を持つ者も居るし、庁舎の賄いをやってくれる女中にも伝手はある。今日はそこまで予定もないから、エドと一緒に遊んでくるよ」
「貴方、あくまでもお仕事に行くのですよ?エドとのお遊びなら、お休みの日で宜しいんじゃ無くて?」
まあねぇ、ようやく生まれた嫡男。仕事場でお披露目となりゃ、もう親バカ炸裂じゃろうな。そこはかーちゃん、しっかりと釘を刺してきたな。
「では行って来る。留守は頼むぞ」
「今日はエドが居るんですから、真っ直ぐ帰って来て下さいよ」
「エドー、行ってらっしゃーい」
と言う訳で、ワシと親父殿は騎士団へと出勤していくのであった。
「おはよーごぜーます、団長。おや?今日は一体・・・」
騎士団へと向かう道すがらにある、八百屋?かな。店主らしきおっさんが親父殿に朝の挨拶をする。一応は貴族なんだろうが、平民から上がった親父なんで、こんなにもフレンドリーに挨拶されるじゃろうな。
「いつも、食料を用立ててくれてありがとう。ああ、この子か?ようやく我が家に生まれてくれた嫡男だよ。名前はエドワード。最近はちょこちょこ歩けるようになったんで、まさかとは思うが、外で見かけたら声を掛けてやってくれんか?」
おいおい、親父殿。歩けるようになったし、そろそろ外も自由に動き回りたいと考えてた矢先に、早速の指名手配かえ?まあ、顔は売っておけばこれから先、役立つ事もあるじゃろうし、ちょっとだけ。
「おあよーございましゅ、いつもおいしいごあんをありがとー」
「へへぇ、まだ小さいのにちゃんとした挨拶ですな。将来はやっぱり騎士団長で?」
「ははは、親としてはそう願うのは山々だがな。この子が選んだものを優先させる。それが親の勤めだと思ってるよ」
ほほう、生まれた時は次期騎士団長とか言っておったが、少しはまともになったのかの?進みたい道を進ませてくれると言うなら、それはそれで有り難いでの。
ポーン!
シエロ
44歳
シエロ食料品店の店主
家族構成は妻と息子2人
鑑定のスキル持ち
お、久々のステータスウィンドウじゃ。
この店主、鑑定のスキルを持っておるのか。どうりで品揃えが新鮮な筈じゃわい。親父殿と年齢も近いっつー事は昔からの馴染みなのかの。
シエロと別れた後も、道すがらすれ違う顔馴染み(であろうと思われる)と挨拶を交わしながら、馬を進めて行く。中心部に来ると、これはこれは荘厳な城が見えて来た。親父殿が言うにはそこが辺境伯の居城かつ騎士団の本拠地だそうだ。この国の西の重要な砦だけあって、城壁も高くその周りを水堀が囲っている。
親父殿が言うにはここ100年程は他国との争いも起こらず、スタンピードが起きた時も街壁で何とか凌げた事から、この城の防備は過剰過ぎらしい。
城壁の規模にはそぐわない小さな門の前に辿り着く。どうやら通用門のようだ。門前を守る衛兵が槍を捧げて挨拶をする。
「おはようございます!団長」
親父殿は軽く手を挙げて返礼する。そんな親父殿の前にワシが座ってるのを門番の一人が気付く。
「団長、そちらのお子様はもしやして」
「ああ、我が嫡男。エドワードだ。今日は私の仕事場を見たいとせがまれてな、連れて来た」
「おあよーございましゅ」
声を掛けてきた門番にワシはちゃんと挨拶する。
ポーン!
フィリックス・ロドネイ
22歳
騎士爵・騎士団小隊長
ロドネイ伯爵家三男
身体強化のスキル持ち
おお、この門番さん。伯爵家の家系なのか。まあ三男坊くらいになると、家を継ぐ話も無いし、手っ取り早く身を立てるには騎士団に入る方が良いのか。しかし22歳の割には童顔じゃな。同じ年頃よりもチョイ上のお姉様達には受けが良さそうじゃの。
門をくぐれば、目の前に広場がある。そしてその奥に三階建ての庁舎がある。三階中央にはバルコニーもある。そうか、この広場は閲兵の為の広場か。
庁舎の真ん中にある車寄せに馬を寄せ、親父殿とワシは馬を降りる。馬は騎士団付きの従者によって厩の方へと連れて行かれる。
「エド、ここが私の仕事場だ。少し中を見て回ろう。どうする歩いて行くか?」
ワシは黙ってズボンの裾を掴み、
「あい、歩いていきましゅ」
と答える。もう少し成長しておればのぉ、親父殿の手を握ってやれるんじゃが、今はズボンの裾を掴むのが精一杯じゃ。
親父殿に促され、騎士団の庁舎へと入る。
何か面白いモンでも見つかると良いがのぉ。
お喋りの次は、お出かけです。
と言っても騎士団だと、子供の遊ぶものはなさそうですがねぇ・・・。




