第023話 猫、拾いました
完徹して叱られたエド。
とりあえずは、お子様らしい生活リズムで物事を進めようと決意。
そんなときに「お散歩」のお誘いが、
あの完徹から丸1日が過ぎ、
「エド、いくら楽しいし、疲れも感じないとはいっても、お前はまだ子供だ。夜になったらちゃんとベッドで寝なさい」
朝の食卓で、親父殿からお目玉を食らうワシ。まあ、事実なので何にも言い返せない。
「ところで、徹夜までして何をしていたんだ?」
「ちょっと、お絵描きを・・・・」
「まあ、それなら良いんだが(お絵描きだと?多分、今見せろというとマズそうな奴だな)」
親父殿は、多分新居の間取りだろうと察して、口を濁す。でも、そんなの関係ねー。なクロエは、
「おえかき?エドはなにを描くの?」
と無邪気に質問してくる。
「いや、そんな、人に言うほどじゃないから・・・・」
「ふーん、エドのケチ!」
「クロエ、そんな「ケチ」なんて言葉は使うものじゃないわよ。エド、お絵描きはいいけど、寝るのも大事ですからね」
クロエを窘めつつ、返す刀でバッサリと行くかーちゃん。
朝からそんな感じで、バッサリやられたワシ。親父殿が出勤するのを見送ると、部屋に戻る。
部屋の中には、あの完徹で仕上げたビフォーアフターの図面が散らばっていた。
「しっかし、まあ、自分でもここまでやるとはなぁ」
散らばった図面をかき集め、さてどこに隠しておこう?と考えていると、
『一番の隠し場所を持っているのに、ソレを使わないんですか?』
突っ込み担当がやってきました。
「一番の隠し場所?そんなものがいったい何処に・・・・・」
『アイテムボックス、こんな時に使わないでどうするんですか?』
ああ、そう言えばそんなスキルもあったわい。忘れとった。耄碌するといかんのー。
『あの、まだ耄碌するようなお歳ではないはずですがねぇ?』
ちょっとイラっときて、返事もせずに「アイテムボックス」と唱える。
両手で抱えた図面が、シュンっっと亜空間に吸い込まれていく。ああ、前世もこんなもんがあったら、お宝写真集とか隠しとったのになぁ。
『・・・・エッチなものは没収する機能でも追加しようかしらん?』
思わず突っ込もうとすると、扉が開いてクロエが顔を出す。
「エドー、今日はお散歩に行きましょう」
「・・・・お散歩?」
「母上と一緒に家の周りを歩くの」
おお、かーちゃんとお外歩きとは。そうじゃった、家の周りは初じゃな。
「はーい、行きまーす」
そこだけは子供っぽく答える。
かーちゃんを真ん中にして、両手をワシとクロエが握って、いざお散歩!
外に出ると、道には沢山の人が行きかっていた。この辺は庶民の街なので、住宅と店がごっちゃになっている。なので、買い物客もあちこちで人だかりになっている。
「ずいぶんと賑やかいのですね」
「そうね、カークが仕事に行く時間帯はまだ静かな方だからね。エドは初めてね」
かーちゃんがそう言う。
しばらく歩くと見覚えのある店にたどり着く。ああ、鑑定持ちのシエロさんのお店か。
「おや、奥さん。いらっしゃい。今日は珍しいですね、お子さんとお買い物で?」
シエロさん、さすがに商売人。声の掛け方がスマートだわい。
「今日は買い物じゃなくって、ちょっと子供たちと散歩ですの。あまり家の事ばかりやってると息が詰まりそうだし」
「そりゃいい事で、ウチの女房もたまには散歩に出て行って欲しいもんですがね」
「あんた!無駄口叩く暇があったら、奥の倉庫から品出ししな!」
ははは、シエロさん家は恐妻家か。しっかり尻に敷かれてらっしゃる。
軽く挨拶をして、ワシら3人は歩く。店の前には荷馬車。下ろしているのはなんだろう?
と、荷馬車の荷下ろしに気を取られかけたその時、
「うわーーーー、でたぁ!」
通りの奥から叫び声がした。とっさにワシとクロエはかーちゃんの足元にすがる。
通りの奥は砂煙が上がっていて、良く分からないが、あちこちから悲鳴やら怒号が上がる。
「衛兵に連絡を!」
「騎士団を呼べ!」
「早く隠れろ」
「とにかく逃げろ」
その砂煙の向こうから現れたのは、前世ならチーターくらいだな。でっかくてモフモフした猫の親戚が現れた。
「あ、あれはフォレストキャット!」
「ふぉれすときゃっと?」
かーちゃんの言葉にオウム返しになるワシとクロエ。
「東の森に棲んでいるって言われる、森の魔獣よ。どうして領都の中に入ってきたの?」
『おい、ガイア』
『はい、何でしょうか?』
『魔獣って街の中に簡単にはい・・・』
『来れるわけないでしょ!そのための街壁ですよ。まあ、ごくまれにどっかが壊れてるとかで入ってくると事はあるでしょうがね』
『なあ、ガイア。あれ、手懐けることは出来んか?』
『な、何を藪から棒に』
『だって、でっかいモフモフじゃぞ。いじり倒したいとは思わぬか?』
『・・・・おっぱい星人の他にも称号をお持ちでしたかw』
そう、ワシが前世で死ぬ前に一緒に暮らしてたのは、猫さん。
周りの野良猫よりも一回り大きく、他の猫には威嚇ばかりしておったが、ワシにだけは甘えてきよった。可愛いやつじゃった。あの魔獣を見てふと思い出してしまったわい。
『まあ、私のスキルを使えば何とでもなりますな』
『ほお、何かいいもんあるのか?』
『貴方に与えた「言語理解」アレの拡張機能で行きますよ』
『え、行きますよって、おい』
一瞬、目の前が眩しくなったかと思ったら、
『かーちゃーん、どこ行ったのー。かーちゃーん!』
その声は、前を走っているフォレストキャットからのものだった。
『んな!?』
『どうやら、子猫の様ですね。フォレストキャットの成獣なら、牛並みの大きさになるはずですし』
『あれで子猫じゃとー?んでもって成獣は牛サイズ?』
『ええ、確かそんな風に創造しましたね』
あ、ここに製造者居ましたw
『ならば、なおさら。モフりたいわい』
『まあ、興奮してますから、どこまで話を聞いてくれるか・・・ですね』
その辺はなんとかするわい。あ、でも、死にそうになったら助けろよ。
『おーい、クロぉ』
あ、これ、前世で黒猫見た時のワシの定番の挨拶な。
「にゃ?誰だ」
「こっちだよー」
ワシの呼びかけに立ち止まったフォレストキャット。声のした方を探す。ワシは呼びかけながら手を振る。
「一体、誰?かーちゃん、知ってるの?」
「君のかーちゃんは知らないけど、いったいどこから来たんだい?」
「あのね、夜に歩いてたら、藁が一杯敷いてある箱があったから、それに潜って寝てたの。で、起きたら訳の分からないトコに来てたの」
そう言いながら(鳴きながら)トコトコとワシの方に歩いてくる。
どうやら藁を積んだ荷馬車を「良い寝床」と勘違いしたようじゃな。って、門番のところで気が付かれなかったのか?それはそれでチト問題じゃぞ・
「え、え、フォレストキャットがこっちに・・・」
かーちゃんとクロエは顔が青ざめている。
「大丈夫、話しかけてる間は何もしませんよ」
とワシは2人に言い聞かせつつ、フォレストキャットとの会話を続ける。
「ねえ、そんなに走り回ってもかーちゃんはここに居ないよ」
「居ないの?」
「だって、ここは人間の住む街だよ。君たちは森の中で暮らしてるんだろ。かーちゃんは森の中だよ」
「そうなんだ・・・でも、森のどこにかーちゃんが居るのか判らない」
「あちゃー、そうなんだ。どうしたもんだかなぁ」
ワシと喋っている内に、フォレストキャットも落ち着いたのか、腰を下ろして、シュンと項垂れている。うん、やっぱり「でっかいねこ」じゃのぉ。
「かーちゃんのところにすぐには連れて行けないけど、良ければウチで暫く暮らすか?」
「君のウチ?」
「このままあちこち走り回って、暴れてると、怖い人間に捕まっちゃうからさ。ね、ウチ来る?」
「え、エド。今何て?」
ワシとフォレストキャットとの会話に、不穏な単語を聞いてかーちゃん顔が引きつる。
「いいの?」
「うん、何とかなるよ」
「エドーっ!」
フォレストキャット、領都に現るの急報で騎士団が総出動する。当然、先頭を切るのはウチの親父殿。
だが、通報があった先で見かけたものは・・・・・。
「な、なにしとんのじゃー、エドーっ!」
親父殿の目線の先では、「へそ天」状態で寝転んでいるフォレストキャットのお腹の上で、はしゃぐワシの姿があった。
「すげえぇぇぇ、団長のお子さん。フォレストキャットを手懐けてるよ・・・・」
「騎士3人でとっかかっても、討ち取れるかどうかも怪しいんだぞ。それをあんな子供が手懐けるとは」
「つか、あれじゃマジでただの猫じゃねえか・・・・」
親父殿の後ろに控える団員が、それぞれ勝手な感想を述べる。
「あ、父上。この猫、ウチで当分面倒見て良いでしょうか?」
「いや、それ猫じゃない。フォレストキャット・・・・」
事態が呑み込めてない親父殿に、更に追い打ちを、
「大丈夫です。大人しくしてるって約束しましたから」
「だ、誰と?」
「猫ですが、何か?」
額に手のひらを当て項垂れる親父殿。
「ちょっと何言ってるか分からない」
「分かるだろ!」
フォレストキャットでキャッキャしている姿を見せつけられて、
「誰だぁ、魔物が出たとか言ったのは!」
と大声を上げる親父殿。
「ただのでっかい猫じゃないか、ったくウチのエドがあやして大人しくなったから良いようなものの、騎士団まで出動する騒ぎになるとは・・・。おい、全員撤収だ!」
どうやら「でっかい猫」として扱う事で、ワシの「人外」さを消し去ろうとしとるな。
「そ、そうか・・・・猫か」
「ね、猫なのね・・・」
周りで逃げまどっていた人たちも、親父殿の声を聴いて、半信半疑になりながらも三々五々、その場から立ち去っていく。
残ったのは、わがリッチモンド男爵家の一同。
「おい、エド。どうやってこのフォレストキャットを大人しくさせた?」
流石に神の依り代とは分かっているが、魔獣まで手懐けるなんて聞いてない!と言う表情で親父殿はワシに詰問する。
「ええっと、普通に話しかけただけですが」
すっとぼけて答えてみせると、親父殿は肩を落としながら、
「話しかけて大人しくなるなら、騎士団は失業するわ・・・・」
「それに、この子は子猫ですよ。かーちゃんと離れ離れになって、探し回っていただけの様です」
フォレストキャットのモフモフを堪能しながら、説明すると、
「どうやって、門番の目をすり抜け・・・」
「藁が一杯の荷馬車で寝てたようです」
「・・・・」
どうやら、自分たちの失態だと分かった親父殿。
「とりあえず、皆は家に帰れ。俺も早めに戻るつもりだ」
そう言って馬にまたがり、騎士団の庁舎の方へと戻っていった。
「さて、母上、姉上。父上もああ言ってますし、家に戻りましょう。さ、お前もね」
「・・・・うん、この子はでっかい猫、でっかい猫・・・・」
「わーい、モフモフさんだぁ~」
ちょっと「猫さん拾いました」では済まないわけだが、これから先、エドの周りで起きる出来事については、「まあ、エドがやった事だから」で済んでしまうようになる。
そんな片鱗をみせつけた、お散歩騒動でした。
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後日談として、フォレストキャットを見逃したのが東門(街一番の大きい門)の門番と分かると、早速親父殿は門番全員を騎士団の人間にすげ替え、騎士団で門番たちを「容赦なく」シゴキ倒したとか。
「おまーら、何をしとったぁ!」
「簡単に魔獣に街の中に入られるような、醜態を晒しおって」
「今日から2週間、おまーらみっちりシゴいちゃるでなぁ、覚悟しとけぇ」
どうやら久々に「ぶちかまして」いた様で、暫くの間は診療所は親父殿によって「フルボッコ」にされた門番たちの相手で大忙しだったとか?
お散歩で猫を拾ってくるのは、子供の定番ですねぇ。
でも、拾ってきたのはフォレストキャット(魔獣)の子猫・・・・。
さすが、神の依り代は拾ってくる子猫のレベルも桁違いだねぇ。




