第021話 ドワーフの血がうずき始める
エドのビフォーアフター、一筋縄ではいきません。
なので「共犯者」を募ろうと思います。
せっかく新居を「ビフォーアフター」してやろうかと思ったが、親父殿がガチャポンプを見て感慨深げにしてるのをみると、居ても立っても居られない。と言う事で、親父殿に騎士団の庁舎まで戻ってもらう。
馬から降ろしてもらうと、早速、
「ルドルフさんのとこにいきましょう」
そう言って、親父殿に抱きかかえて貰って移動する。ああ、歩けるけどな親父殿に運んでもらった方が移動は早い。まあ、親父殿が抱きかかえられなくなるまでか、自分で走った方が早くなるまでか。それまでのお話じゃがな。
鍛冶場に着くと、中ではルドルフが今日の仕事の準備をしている。
入口に親父殿とワシが居るのに気が付いたルドルフ。手を挙げて挨拶する。
「おう、朝も早よからご苦労だな。エドワード、今日は一体なにをしに来たんだ?」
「ルドルフさん、実はこう言うのを作って欲しいんですが」
そう言ってワシはルドルフの居る前で、床に向かって手をかざすと、
「クリエイト」
と唱える。手のひらから淡い光が発したかと思うと、床にはこの前作った井戸用のガチャポンプが顕現した。ルドルフはその光景に唖然とするが、目の前に出てきたポンプを見ると、そっちの方が気になる様で、
「ほほぉ、ナニやら面白そうなモンを出してきたの」
「これは井戸で水を汲むのに使うポンプと言う道具です。ルドルフさん、これって作れます?ルドルフさんの技術で」
恐る恐る尋ねると、ルドルフはポンプを手にあちこち覗き込みながら、
「ああ、鋳物なら任せろ。しかしこのビラビラは何じゃ?円盤に巻きついとる黒いのもなぁ」
言いながらポンプの弁を指で触って、素材の確認をしているルドルフ。
「それらがこのポンプの要です。ビラビラは水を一定の方向に流す為の、円盤に巻き付いているのは、ポンプの水漏れを防ぐ為のパッキンです」
エドが「クリエイト」で作ったポンプ、弁とパッキンはこの世界にはないゴムで出来ていた。敢えてこの世界に無い素材を使い、この世界にある代替素材を教えて貰おうと思ったのだ。
「土蜥蜴の皮に近いな、あれと良く感触が似とる。それで良いならワシらでなんとかなるだろう」
「それとこう言うのはどうでしょうか?」
またまたエドが「クリエイト」でモノを作り出す。今度は長さ1m程の鉄パイプであった。
目の前に出てきた鉄パイプも、普通の人ならびっくりするはずなのに、職人魂の好奇心の方が強いのか、気にすることなくパイプを手にしてあちこち調べ始める。
「エド、またまた良いモンを作り出すの。うむ鉄の管だな。しかし、このネジ山は細かいの。ここまでのネジ山をワシは見た事がない」
ネジ山を指で撫でつつ、険しい表情で見つめるルドルフ。
「ここまで細かく無くても良いと思います。ただ、山と谷の部分がしっかりと引っ付いて、水が漏れない。それが必要条件ですね」
ワシの言葉に、ルドルフはさらに険しい表情を見せる。
「すると鋳物で作るよか、削って作った方が良いな。こんな加工をするには鉄よりも硬い刃が要るが、どうやってやろうか?」
ルドルフは鉄パイプを手に暫し思案する。ワシは前世の記憶を基に加工する為の工具を作る。そこに出てきたのは、素材を回転させて切断・切削する旋盤。
「うひょーっ、なんじゃこの道具は」
目の前に出てきた旋盤を見たルドルフ、早速あちこち触って確かめている。
「こっちは材料を咥えて回転する、で、こっちが上下左右に動く腕。おいエド、これは一体・・・」
「旋盤と言います。ルドルフさんの気付いた通り、左は素材を掴んで回転させる部分。右は刃を付けて、回転する素材に当てて切削する部分です。回転させる力は何でも使えます。人力でも水力でも魔力でも、それに対応した部材を付ければ。あとは鉄を切削するのでそれよりも硬い素材で刃を作る必要があるんですが、ルドルフさん、何か良い素材知りませんか?」
前世ならタングステンとか固い金属は色々あったが、こっちではどんな金属があるのやら?
「そうだな、今ここにある素材だったらこれかな」
そうやって戸棚に置いてある鉱石を取り出してワシに渡す。鉄鉱石に似ておるが、それよりも重く硬そうな気がする。
「アダマンタイト、コレなら普通の鉄でもサクサク削れる。なんせロングソードやメイスの芯材にするくらいの硬さじゃ。加工も難しいが・・・ってヲイ!」
ルドルフがアダマンタイトの講釈を垂れている間に、ワシは手にしたアダマンタイトに魔力を流して加工してみる。あんなに硬そうだったアダマンタイトが粘土の様に柔らかくなり、ワシが望んだ形状に変わっていく。
ドリルにタップ、ダイスなどの懐かしい工具が出来上がった。無論、チートなスキルのおかげで前世のモノより良いモノが出来た。しかし、魔力を流すと、金属ですら粘土細工のように弄れるのかい?
『そりゃ、貴方だけのチートもチートなスキルですよ。クリエイトと唱えなくても、頭の中に形を思い浮かべてたでしょ?形を整えるのに物理的な補助があるから、出来上がりも早いでしょ?』
たぶん、ドヤ顔でしゃべっているんじゃろうな。ガイアの事だし。
「これなら鉄に負けないから、簡単に加工出来るでしょう。さて、実際に旋盤を動かしてみたいけど、動力が無いな。あ、あれ作ろうっと」
工具は出来たが、肝心な動力が無いのに気が付き、ワシはとりあえず手っ取り早く動力を得られる奴を作り出す。
旋盤の横に現れたのはそう、ルームバイク。人力ならコレが一番手っ取り早い。所在なさげに立っている親父殿を手招きして、
「父上、脚力を鍛えるのに最適なモノです」
「なんだ、コレは。ホントに良く分からないモノをポンポン作るなぁ。段々と理解が追い付かなくなりそうだ」
親父殿、額に手を当てて項垂れている。
「そんな時は頭以上に身体を疲れさせましょう。身体が疲れれば、余分な考え事をせずに深く眠れますから」
全く、その原因は全てワシのせいじゃがなwせめてもの罪滅ぼしじゃ、純粋に疲れてもらう事にしようかの。
おっとその前に、旋盤の準備じゃ。
まずは、ねじの切ってない鉄パイプを作り出し、旋盤の作業台に固定する。反対側にバイトを取り付けたら、
「父上、そこに座って下さい」
親父殿はルームバイクのサドルに腰掛ける。
「座ったら、足をここに乗せて」
ワシの手ほどきで親父殿はバイクのペダルに足を置く。そうして、ワシは親父殿の足を掴んでゆっくりとペダルを動かす。
「今の感触分かります」
「ああ、押す時が重たく感じるな」
「この動作はペダルを漕ぐ。と言う動作です。ペダルを漕ぐと、ほら後ろを見て」
そう言われて親父殿は、後ろを振り返る。ルームバイクから生まれた回転動力がベルトを介して、旋盤の軸を回している。
「今、父上の漕ぐ力が旋盤を動かしてます。さてここから・・・」
ワシはバイトを取り付けた押し台を操作して、鉄パイプへと近付けていく。ゆっくりと鉄パイプにバイトの先端を当てると、バイトの刃先から細い鉄の切り粉がひゅるひゅると言った感じで、出てくる。
パイプに刻まれるネジ山の深さなどを見極めつつ、ワシはバイトを動かすハンドルを操作する。暫くすると、パイプの先端にきれいなネジ山が完成する。
「ほほほほ、こりゃ凄いわ!こんなに綺麗に金属加工が出来る道具があれば、何でも作れそうじゃ!」
目の前で緻密な加工が行われるのを見て、純粋に職人魂に火が付いたのだろう。ルドルフは、
「おい、エドワード。お前はとんでもない奴だ。さらっとこんなモン作っちまうんだからな」
と、頭をワシワシしてくる。武骨な手がワシの頭を撫でまわす。
「カーク団長、あんたの息子はまさに神の申し子か?長く生きてきたが、こんな芸当見せてもらうのは、初めてだ!」
ルームバイクから降りた親父殿。ちょっと息切れしてるが、
「ああ、その神の申し子の事だが、話がしたいのでちょっと良いか?」
そう言って、さっきまでの顛末をルドルフに話す。あたらしい「おもちゃ」でキャッキャしていたルドルフも、話を聞くにつれ、真顔に戻っていく。
「うーん、本当に神の依り代で、何もないところからモノを作り出す。そして、この世界を魔力がなくても発展できるように・・・、なぁ。まるでおとぎ話みてぇだな」
口をへの字にして、悩ましい表情になるルドルフ。
「まあ、俺も腹をくくってる。エドがやりたいようにやらせたい。それでルドルフに迷惑をかけてしまうか、それが心配・・・」
「心配だぁ?んなこたぁねーぞ。確かにあの「くりえいと」っていう魔法、見た時にはびっくりしたがな、それよりもそいつで生み出されるモンの方が数段びっくりするわ」
そこまで言うと、ルドルフはしんみりした表情になり、
「ワシもなぁ、里に居たころ。みんなとは違うもんを作ろうと躍起になっていた。でも、昔ながらのモノ作りに固執する里の奴らとやりあっちまってな。それでワシは里を離れた。運よくここの辺境伯さまに拾って貰って、細々と仕事をさせてもらって、何とかなってはいるがまだ、ここに恩を返せてるたぁ思ってねぇ。だからよ、エドにこき使われるくれぇ、何てこたぁねぇ。ようやく恩が返せそうでウズウズするぜ」
その言葉を聞いて、
「じゃあ、契約成立って事ですね」
「契約?」
「ええ、僕はこの世界にないものを「クリエイト」する。ルドルフはそれを見て、この世界でも作れる形にして広める。そして、そこで得た技術を後の世代に残す。そうすればいずれ僕が居なくなっても、この世界は発展していくでしょう」
そこまで言うと、ワシはルドルフのごつい手を取って、
「ルドルフさん。僕がとんでもない事言っても、音を上げないで下さいよ」
「音を上げるねぇ、よーっしゃ、いっちょ、エドとの根競べだな」
にっこり笑う、ワシとルドルフ。ここに、設計ワシ、製作ルドルフというラインが出来上がる。これであれこれ作っても何とかなるか。
「でもなぁルドルフ。あまりにも無理難題を言われたら、俺に一言言えよ。その時はエドの暴走を止めるのが俺の仕事だからな」
「なーに、どんだけでも暴走したって構わんぞ」
頼もしい言葉じゃなぁ。でも、それって言質って言うんじゃぞ。
「となると、騎士団の井戸に付ける分は、ルドルフに作って貰うことにするか。そうだ土蜥蜴とか言っていたが、材料はあるのか?」
「ああ、あるにはあるが心元無いな」
「よし、たまには騎士団の鍛錬ついでに、土蜥蜴でも討伐してくるか」
親父殿、どうもここ最近「のーみそ」ばかり使っていたので、たまには気晴らしに身体を動かしたいようじゃな。
「討伐はありがたいが、あまりギッタギタにしてくれるなよ。土蜥蜴のどの部分が一番素材に良いか、考えないといかんでな。なるべくなら一撃で仕留めてきてくれ」
「力任せの得意な騎士団の面々には、ちょっと難易度が上がるが、これも鍛錬といえば何とかなるな」
ひとまずガチャポンプの量産が出来そうだ。あとはルドルフにお任せじゃな。
ワシはあの新居の「ビフォーアフター」を考えないと・・・。
ドワーフのルドルフを「共犯者」に迎え入れたエド。
ポンプはお任せに出来ますが、新居のビフォーアフターは始まったばかり。
次は何するんだろう?




