58.リヒトへの尋問
パーティーの後、約束通りリヒトと話したかったが、気力尽き果てていたため、そのまま王城の客間に泊まらせてもらった。翌日部屋で朝食を食べた後、リヒトから呼び出され、お茶とお菓子の置かれた広いテーブルを挟み、たった今から尋問を始めるところだ。
「さて、リヒト様。カフェの話はいったいどういうことでしょうか?」
「いろいろ考えて、良かれと思ったんだけど…。アダムの城での話を聞いて、言い出しにくくて…。」
ふたりきりなので、よそ行きの笑顔ではなく眉を下げてしょぼんとしているリヒトが目の前にいる。…可愛い。
「おおよそは検討がつきますが、順番に説明してもらえますか?」
リヒトが何の考えもなく口外するとは思えないので、エレノアも本気で怒っているわけではないが、エレノアカフェの事は内緒のつもりであったため少し驚いている。未来の王妃が事業を行っているなど、この国では聞いた事がない。
「エレノアが英雄となってしまったし、エレノアも王太子妃に納まる覚悟をしてくれた。そうなるとカフェを手放すと思ったから、何とかできないかと思って。」
「まあ、その通りですね。」
エレノアはこくりと頷く。
「そうして調べてみたら、隣国では王族と婚姻を結んでも事業を行なっている妃殿下はいらっしゃるようだし、遠い国では王妃でも事業を行なっている例もあるくらいだ。そして、アランデルでも別に王妃の事業展開に関して禁じる法はない。」
「なるほど。それで、公にしてしまえば私がカフェを手放さないのではと…。」
「エレノアは責任感が強いから、前例があると言ったところで、一度決めた事は変えないと思って。それならば、先に公にしてしまおうと。」
「なぜ、そこまで?」
エレノアは首を傾げる。
「カフェで働くエレノアは、私が今までみた事がないほど1番楽しそうな表情をしていたから。僕がそれを取り上げるのは嫌だった。エレノアの大切なものは一緒に守りたかった。」
眉を下げて俯くリヒト。エレノアはもう怒ったフリは限界だった。
「ふふ、リヒト様は本当に優しいですね。」
「勝手なことをしてすまない。」
「いいえ、ありがとうございます。私のためにしてくれた事は分かっていましたから。相談はして欲しかったですが、でも相談されていたら断っていたかもですね。私、頑固ですから。」
エレノアはふふっと笑う。
「許してくれてありがとう。でも、お店の表に立つ事はなかなかできなるなると思う。」
「それはもちろん理解しています。隠れてスタッフとして働くのはもう辞めますね。」
「ああ、オーナーとして店を見にいく事はもちろん構わないから。」
「国防拠点ですしね。」
「そうだね。」
ふたりは顔を見合わせて笑う。
「民衆には王太子妃が平民でも通えるカフェを経営していることに親近感が湧くだろうし、貴族は何も言わなくても、それが国防拠点である事を見抜くだろう。」
転移陣の存在は魔力の低い平民には知らされていないため、国境付近のカフェに何かあって、すぐに駆けつけられるとは本来思わない。しかし、貴族であればもちろん転移陣を使った事がある者も多く、そのカフェの使用意図は自ずと察するであろう。
「僭越ながら…。私、本来はカフェを国防拠点のつもりで作ってないですからね!冗談ですからね!」
エレノア、再びご立腹である。




