57.凱旋パーティーと言う名の修行
「鬼畜過ぎませんか?誰が考えたんですか、このスケジュール。」
王城の控え室に連れて行かれたエレノアは、次はドレスに着替えさせられて、凱旋パーティに放り込まれている。1週間泥だらけになって働いていたのは遠い過去のようだ。陛下にご挨拶した後は、次々とやってくる貴族たちにひたすら膝を折り続けた。エスコートのリヒトがいなければ、途中で倒れていたかもしれない。そしてたった今、やっと、本当にやっとひと息ついた所である。
「本当にごめんね。暴れ魔獣が出てこなくなったのは1週間前だから、魔王もその時期に封印したことになっているんだよね。」
「へ?」
侯爵令嬢とは思えない間抜けな声が出た。
「その誤差を埋めるために父上が考えたスケジュールで、その手伝いは俺たちが。」
ディルクとハインツ、エレノアの兄たちである。
「お父様か。人使いの荒さ、流石…。」
「お疲れ様。生きて帰ってくるどころか、英雄として帰ってくるなんて流石だな。」
「お兄様たち面白がってますわね。感動の別れは何だったのかしら。心配してもらえて、本当に嬉しかったのに。」
ふぅとため息をつくエレノア。
「ああ、俺たちも心配して損した。エレノアにそんなものは必要なかったな。」
はははと大笑いする兄たち。もう好きにしてくれとエレノアは思う。
「しかし、これで王太子妃としての箔がついたんじゃないのか。リヒト様も安心ですね。」
「民衆の間でもすごい人気者になってしまったけれど、貴族の方々の対応も前回のパーティーと全く違いましたね。」
前回のパーティーと言えば、エレノアが空気となっていたあのリヒトの誕生日パーティーのことである。
「逆に僕が空気のようだったね。」
言葉とは裏腹にものすごく嬉しそうなリヒトを見て、心底やられたと思うエレノア。
「まさか、ここまで見越して私にこの話を持ってきた訳じゃないですよね?」
「何のことかな?まあこんなに上手くいくとは思わなかったけど。」
もう答えである。とびきり機嫌のいいリヒトと、困惑したままのエレノアは、その後再び次から次に挨拶に来る貴族の相手を始めた。たまに自慢の子息の紹介を始める貴族がいたが、美しい笑顔のままエレノアの腰を引き寄せて絶対に渡さないアピールをするリヒト。それを可愛いと思うエレノアも大概リヒトに惚れているなと思う。
「そういえば、巷で話題のカフェもエレノア様がオーナーをされていますのよね。」
「ロレーヌ侯爵領のウェスタリアのカフェは貴族でも入りやすいとお聞きしました。」
「エレノア様のお膝元ですわね。ぜひ一度行ってみたいですわ。」
「流石エレノア様。博学多才でおられる。」
「才色兼備とはまさにエレノア様のことですな。」
貴族たちの会話の中に聞き捨てならない言葉がちらほら含まれたため、ん?と思いエレノアは隣のリヒトを見上げる。リヒトは笑顔のままエレノアと目を合わせたが、明らかに焦っている。
「ええ…と、これは…。」
「パーティーの後、ゆっくりお話ししましょう。」
エレノアはにこりと笑顔の圧をかけておいた。しかし、その後しばらく凱旋パーティーと言う名の修行は続き、エレノアがもう流石に限界かも…と思い始めた頃にようやくお開きとなった。




