34.逢瀬の邪魔はするものではないよ
「来ちゃった。」
語尾にハートが見えるセリフを吐く美しい青年。それは変装したレオナルドである。
彼はリヒトの誕生日パーティーの翌日、ウェスタリアにあるエレノアのアリスカフェにやってきた。
「…それで昨日、しつこく今日はどこに出勤か聞いてきたんですね。まあ、何となく意図は分かっていましたけど。」
「昨日の華やかな(ドレス)姿も美しかったけど、こういう格好も可愛いね。」
今日もレオナルドはチャラチャラモードである。
「ありがとうございます。で、ご注文は?」
昨日のパーティーで口説かれ続けていたエレノアはレオナルドを軽くいなす技を覚えた。
「冷たいなぁ。まあそういうところが可愛いんだけど。」
そう言ってレオナルドはくしゃりと笑う。エレノアはもうずっと半目でレオナルドを見つめているが、それが可愛いらしい。もちろん姿はエリックである。
「また、お決まりの頃にお伺いします。」
エレノアは頭を下げてレオナルドのテーブルから離れ、別のテーブルに向かう。
「うぅ…やりずらい。」
レオナルドはエレノアを視線で追いながらずっとニコニコと笑顔を向けている。
「レオナルド様のテーブル、オーダーお願い。」
土人形ちゃんたちを何人か向かわせてみたものの、「ダメでした。まだ決まらないとの事です。」と撃沈して帰ってくる。
「もぉー。ケーキ4種類と飲み物も数えるほどしかないのに!嫌がらせか…」
もはやそうかもしれない。
「お、お決まりでしょうか?」
笑顔の圧に負けてエレノアがオーダーを取りに向かうと、
「じゃあ、ハートのケーキと本日のおすすめの紅茶…」
「かしこまりました。」
「それからエレノア。」
「え?れのあ?」
「ちょっと休憩して一緒にお茶しない?」
「エレノアというスタッフはこちらにはおりません。」
「じゃあ、エリックでいいや。」
ああ、姿の変更もご希望でしたか。
「ダメ?」
「…。」
ああ、イケメンのお願いは強い。
「やったぁ。着替えてきてくれたの?エリックも可愛いけど、やっぱりエレノアの方が可愛いね。」
「従業員が座ってると良くありませんので。」
レオナルドはめちゃくちゃ嬉しそうだが、エレノアは苦笑いだ。もちろんエレノア本来の姿では目立ち過ぎるので、暗めの髪色にして服装も平民の物を着ている。
「それで、今日はどのようなご用で?」
エレノアも注文したクラブのケーキを切り分けながら尋ねる。ちなみに、ハートはイチゴのチーズケーキ、クラブはモンブラン、他にダイヤはフランボワーズとホワイトチョコのケーキ、スペードはガトーショコラである。
「特に何も。ただエレノアのお店が見てみたかっただけ。それにエレノアにも会いたかったし。」
「そうですか。ではご要望にお応えできて良かったです。ところで、国王陛下と王妃陛下はお元気ですか?」
エレノアはレオナルドの言葉を華麗に流して話題を変える。
「ああ、とても元気にしているよ。父上も母上も、エレノアにすごく会いたがっている。嫁に来てくれたらいいのにと毎日のように言っているよ。」
「ケホ、ケホ、ケホ…。まあ、お元気そうで良かったです。」
盛大にむせた。そして後半は聞かなかったふりをした。
「エレノアはヘレンツェ気に入らなかった?」
「まさか!海がとても美しく、街並みもとても美しかったですわ。人々もとても優しくしてくださいましたし。」
「じゃあ、また遊びに来てね。」
「ええ、もちろん。あっ、クラゲちゃんにも会えるかしら?ふふ…」
賢いクラゲちゃんの必死な姿を思い出し、笑みが溢れる。
「ああ、近くで目撃情報が出ているから、エレノア遊びに来たらきっと会いに来てくれると思うよ。」
「本当?それなら絶対に会いに行かなくちゃ。」
エレノアがこの日初めて見せた本物の笑顔にレオナルドがニヤけた瞬間、視界の端に燃え盛る炎が見えた…気がした。
「やあ、ずいぶん楽しそうだね。僕の婚約者をクラゲと陛下を餌にして連れ去ろうとは、いい度胸だな。」
炎は熱いはずなのに、場は一瞬にして凍りついた。めちゃくちゃ怒っている。
「やあ、リヒト。人がせっかく可愛い女の子を口説いているのに邪魔をするものではないよ。」
そんなリヒトを怖くも何ともないのか、にこやかに反論するレオナルド。これくらいの度胸がなければ、王族など務まらないのかもしれない。そして、その度胸は全くもって別のところで使って欲しい、とエレノアは涙目で思う。
「ストップ、ストップ!店を破壊したり、他のお客様の邪魔になるような事したら、おふたりとも出禁ですよ!」
半泣きになりながらも、ふたりを制圧するエレノア。
「私の大切な大切なお店を、壊さないでください!」




