33.地獄と天国のお誕生日パーティー
「リヒト様おめでとうございます。」
「殿下、お誕生日おめでとうございます。」
「お招きありがとうございます。ささやかながらプレゼントを用意させていただきました。」
「リヒト様!」
「殿下!」
「おめでとうございます、殿下。」
「リヒト様…」
次々とリヒトに挨拶に訪れる招待客たち。それに丁寧に、にこやかに対応するリヒト。と隣に立つエレノア。
「私は置物か…」
「ごめんね、エレノア。疲れるよね。」
こんなに人がたくさんいるのに、老若男女の誰にも話しかけられないことある?
「いえ、大丈夫です。私の事は気にしないでください。」
絶望の特訓の日々に比べたらなんて事ないのよ、本当に。ちょっと店のことが心配なのと、ちょっと退屈なだけ。
「エレノア、久しぶり!」
誰ですか、私を救済してくれるのは?と思い振り返る。
「レオナルド様!お元気そうで何よりです。」
「やあ、エレノアもリヒトも元気そうです良かったよ。ヘレンツェを断つ頃にはボロボロに疲れ切った様子だったから心配だったんだ。」
「ふふ、私は頑丈に出来ているので大丈夫です。その後、皆さんも回復されていますか?」
「ああ、父も母も、その他船に乗っていた者たちもみんな元気に過ごしているよ。そうでないと、私がこうやって他国をフラフラ遊び回っていられないからね。」
「それは良かったです!でもレオナルド様、雰囲気変わってませんか?」
ヘレンツェで会った時はキラキラ王子に見えたのに、今目の前にいるのはどう見てもチャラチャラ王子である。
「そうかな?エレノアはどっちの方がタイプ?」
「えっ?」
急に距離を詰められ、肩に手を回されそうにたなったので咄嗟にしゃがんで避けてしまった。視界の端に映ったリヒトの手から炎の玉が見えていたので、避けれて本当に良かったと思う。大事なパーティーの会場が火の海になるところであった。
「レオ、僕の婚約者にちょっかいをかけるのはやめてくれるかな?場合によっては外交問題になりかねないよ?」
リヒトは話していた相手に笑顔で断りを入れ、優雅に頭を下げてからレオナルドの方に向き直る。ずっと笑顔のままなのだが、目が全く笑っていない。綺麗な顔なだけに余計怖い。
「はは、悪い悪い。つい癖で。」
レオナルドはその端正な顔をくしゃりと潰して笑う。
「エレノア、こっちがレオの本性だから無闇に近づかないでね。」
エレノアに微笑みかけるリヒトの目はとても優しかった。
「でも、エレノアはあまり歓迎されてないのな。」
「そうですね。まあ、リヒト様はとても素敵な方ですから、私にとって代わりたい方はたくさんいらっしゃると思います。」
エレノアは眉を下げて笑う。
「エレノアはロレーヌ侯爵家に隠されて育ってきたから、皆エレノアの凄さを知らないんだ。僕が知る限り、エレノアに敵う令嬢なんて1人もいないよ。いろいろな意味で…」
「そりゃ、そうだろうな。いくら魔法大国アランデルと言えども、エレノアみたい子がゴロゴロいたら怖くて近寄れないよ。」
はははは、と愉快に笑うレオナルド。少しも怖がっている様子はない。
「それは、褒め言葉として受け取ってよろしいですか?」
エレノアはじとりとレオナルドを見つめる。
「もちろん。エレノアは莫大な魔力と、最強の戦闘力もおそらく持っているであろうが、少しも怖くない。悪意のカケラもないからな。だが、エレノアと同じような魔力の人がたくさんいれば、その中には悪いことを考える人もいるだろう。そうなれば、ここはたちまちヘレンツェにとって恐怖の国だ。」
さっきまでのチャラチャラした雰囲気をしまって急に真面目に喋り始めたレオナルドに、エレノアは目を丸くする。
「まあ、それは完全に褒め言葉ですね。恐怖の国にならないよう、私も尽力いたします。」
エレノアはにこりと微笑む。
「どう?惚れ直した?」
首を傾げて顔を覗き込まれたため、エレノアの頬が引き攣る。やはり、こちらが本性のようだ。
リヒトとダンスを数曲踊り終えた後には、エレノアにも男性陣からダンスのお誘いがかかるようになった。しかし、まだ成人していない事を理由に、リヒトが上手く断ってくれた。すると今度は逆にリヒトが女性陣に連れて行かれてしまい、その間はレオナルドがエレノアの相手をしてくれた。なかなか楽しく会話をしていたのだが、別の令嬢とダンス中のリヒトからずっとガン見されていてかなり怖かった。
まあ色々あったが、婚約公表後はじめてパートナーとしてリヒトと公式の場に立てたことは、素直に嬉しかった。ちなみに、エレノア数年前まで侯爵令嬢として育てられており、ましてや王太子妃教育も修了しているため、マナーやダンスなどはどこに出しても最上級のものである。この1日だけで、参加者のエレノアへの評価が少し上がった。




