41 やっぱりパパが好き
「今日はもう本当にダメかと何度も思ったけど、今となってはなんとかなって良かったとしか言えないよね」
「ほんとですね、でも雄太さんが自分がいなくても大丈夫って言ってたのが気になりました」
「んーそれはたぶんレナちゃんに秘密があるんじゃないかな、あたしはお兄ちゃんの妹である他はなんの変哲もない引きこもりだし」
「うふふ、もう引きこもりじゃないですよ、それなら私も似たようなものですし。今までずっと宮殿の中で神に仕えてきたので、今回の冒険は本当にためになりました」
「改めてだけど巻き込んでごめんねレナちゃん……」
「もー大丈夫ですって、今回の件はうまく言えないですが運命のような見えない力が働いた結果だと思います。それは我々のような小さな存在では抗いえないもので、その運命の輪に私達は引き込まれたんだと思います」
「それってお兄ちゃんが異世界に行った時みたいな?」
「はい」
「むー運命め、勝手なことをしよって……」
「ふふふ、でもそのお陰で結果的には最小限の被害で済みました。これは素晴らしいことじゃないでしょうか」
「レナちゃんにそう言ってもらうと、そんな気がするよ」
「梓さん、また一緒にダンジョン行きましょうね」
「あ、あたしでいいの?」
「もちろんですよ」
「えへへ、ありがとうレナちゃん」
「……クロエも行く」
「わ、ごめんねクロエちゃん、うるさかったよね」
「二人とも弱くて心配だからクロエも付いてく」
「ありがとうクロエちゃん、でもこれはあたし達が頑張らなきゃいけないことだから大丈夫だよ。クロエちゃんに認めてもらえるようなお姉ちゃんになりたいのに、クロエちゃんに手伝ってもらってたら情けないことになっちゃうよ。今回は結局お兄ちゃんに手伝ってもらったけどね」
「んーそうか、あずちゃんにも色々あるんだな」
「あははは! そうなんだよね、クロエちゃんこれからも応援してくれる?」
「いいよ」
「わ、私もお願いします!」
「いいよ~」
「ついでにお兄ちゃんも許してあげてくれないかな? 唯さんも良い人なんだよ?」
「むー……まだやだ」
「嫌かー」
「なかなか手強いですぅ」
モグラのように布団にもぐる姪っ子をよしよししていると、梓も次第に眠くなってきた。レナにお休みを言うと三人共に安らかな眠りの旅に出た。
そして深夜を回って三時を過ぎた頃、異変は起きた。えずくような声が聞こえて梓がこれは夢かなと思っていると、ぐっしょりと濡れた感触で完全に目が覚めた。
やばい、この年でおねしょか! と戦慄していると、どうやらそうではないことが分かった。いつの間にか起きていたクロエが声を殺して泣いているのだ。思わず飛び起きてクロエを抱き起すと、レナも異変を感じて心配そうにこちらを見ている。
「クロエちゃんどうしたの! 怖い夢見たの⁉」
「うぐっひぐっ……ごめんなさい、パパどこにもいかないで、クロエいい子にするから、いかないでぇ……」
「大丈夫だよクロエちゃん、お兄ちゃんはクロエちゃんを絶対に一人になんてしないよ! ごめんレナちゃん! おおおお兄ちゃん呼んできて!」
「はい!」
意を決してレナが勢いよく部屋のドアを開けると、なんと雄太はすぐのところで待ち構えて立っていた。
「うおっ! ゆゆゆ雄太さん! クロエちゃんが!」
「うんわかってる、二人ともありがとうな、あとは任せてくれ……おいでクロエ」
「パパ! パパ!」
「おうパパだぞ、ここにいるぞ」
「パパどこにもいかないで! パパ!」
「パパはどこにもいかないぞ、だから大丈夫だぞ」
「うぅおぐぅ、ひっ、んっ……あぅぅ」
「よしよし、クロエは良い子だな」
泣き止まない娘をひょいと片手で抱きかかえてリビングに行くと、台所でホットミルクを作り始めた。気になった梓とレナも連れ立って近くに来て様子を伺っている。雄太の懐に抱かれてクロエもだんだん落ち着いてきたようだ。
「二人も飲むか?」
「うん! あとなんか食べるものない?」
「出せるけど、こんな時間だぞ?」
「あたし達頑張ったからいいの! ねーレナちゃん!」
「そ、そうですね!」
「はは、そうだな。じゃあホットケーキでも食べるか」
「いいねー! あたしハチミツとバターマシマシで!」
「じゃじゃじゃじゃあ私も……」
「いいぞ、クロエも食べるか?」
「んんっ……ちょっとだけ食べるかも」
小さい手のひらでしきりに涙を拭っていたクロエは小さな口を開いた。すると雄太が小さくホットケーキを切って小さなフォークに刺してたっぷりとハチミツバターを付けて食べさせてくれた。
泣き疲れてイガイガする喉と心に飛び切り甘い香りと味が染みわたり、少女はびっくりして目を見開いた。
「わぁパパ、これ凄く甘くて美味しい」
「そうだろ? バターはこっちのやつだけどハチミツは向こうのレアなやつだからな。王様とかが食べてるのと同じだぞ」
「ん~どうりでバカうまいと思った! おかわり!」
「あらぁ? あんた達こんなところでなにしてるの?」
「うわっ! でたなお母さん!」
「そりゃでるわよ、私の家だもの」
「ごめんね、うるさかった?」
「雄太の魔法のお蔭でちっともうるさくなんてないわよ? ただ横で寝てるお父さんのいびきで目が覚めただけ」
「あぁ~昨晩も飲んでたからねぇ」
「ふぁーふぁって言って寝てるわ、あらークロエちゃん良いわねーパパに食べさせてもらって。ちょっと安心した?」
「うん」
「うふふ、じゃあ雄太私の分もお願いね。はーあんたが帰って来てくれたら便利で助かるわ」
「なんだよそれ、でも太るよ?」
「いいのよ、みんなで太れば怖くないの」
「ふふふふ」
直子は様子を察してクロエの涙を拭ってやると、彼女はようやく少し笑った。ここで梓が調子に乗る。
「あたしはここでさらにバニラアイスを召喚! いでよ、究極合体ホットケーキ! ホットケーキの温かさとアイスの冷たさが打消し合って実質ゼロカロリー! うなれ! 滅びのバーストストリーム! 体脂肪は死ぬ!」
「うわあそれ凄いですぅ!」
「わぁ! クロエもまねする! パパ!」
「はいよ、ったくあんまこの子にわけわからんこと教えないでくれよ?」
「努力はする~あむあむ。ウメェ!」
文句を言いつつも異世界で地獄を潜り抜けてきた雄太は妹の適当さが憎めないのであった。




