40 ぶんむくれガール
「ただいま~」
「あら、やっと帰って来たわ。お帰りなさい、二人ともお腹空いてるでしょ?」
「あ~いらない、実は冒険者局内でお風呂に入って食べてきたから平気」
「あらそう、その割には疲れた顔してるわね」
「そうだよもうぅクロエちゃ~~~ん! あれ?」
「……」
梓がレナを連れて帰宅した時にはもう夜の二十時を回っていた。ダンジョンそのものは昼過ぎには脱出していたが、その後の取り調べや調査に時間が取られていたからだ。
この場で初めて二人は自分達に日本と冒険者局の護衛が付いていたことを知るが、数十人の監視を撒いて騒動を起こしたとこに、梓は自分のことながら感心してしまった。
そして家に帰ってみると、普段ではあまり見られない光景が広がっていた。それはなにかと言えば、クロエが雄太そっちのけで祖母の直子にしがみついているからだ。普段のクロエは直子や進によくなれているが、ここまでべったりするのは珍しかった。
「変だね、クロエちゃんがお兄ちゃんから離れてる。どうしたの」
「それがね~?」
クロエの背中をトントンしながら直子はいきさつを語った。それによると、雄太が持つスマホのSNSであるレインに見知らぬ人から連絡があって、やり取りしている相手をクロエが不振がって帰って来た直子に聞いてみると、直子は素直に昔パパが好きだった人と答てしまったからさあ大変。クロエはむっつりと機嫌が悪くなって、パパなんか知らない! と言いながら雄太のすぐ近くで頬をハムスターのように膨らませながら直子や進に抱っこしてもらっているのが現状である。
「あーそれか、ごめんねお兄ちゃん、さすがに唯さんに連絡先聞かれたら断れなくて……」
「いやいいよ、お前のせいじゃない」
「私ももうちょっと言葉を濁せばよかったかしらね~」
「それも意味ないかな、クロエは賢いから自分で答えに辿り着いちゃうし。それより今日は大変だったな二人とも、体調はどうだ?」
「あたしは大丈夫、偉い人達に囲まれてなんだか気疲れしちゃったけれど」
「私もです。雄太さん、危ないところを助けていただいてありがとうございました」
「ああいいよ、そんな大したことじゃないから。多分俺が行かなくてもなんとかなっただろうしね」
「え? そうなの? なんで?」
「秘密」
「秘密なんかい! それよりお兄ちゃんだよ、大丈夫なの?」
「なにが」
「なにがって唯さんだよ! あれからしばらく一緒だったけど、急に泣き出したり笑い出したりして色々凄かったよ情緒不安定って感じでさ。とりあえず謝っておいたけど」
「あぁありがとな、あとでフォローはしておくよ」
「やっぱりちゃんと会ってお話した方が良いと思うよ」
「実はもうすでに明日会うことになっている」
「えっ本当?」
「もうバレたんだし、先延ばしにしてもいいことないだろ」
「なんて言うか……頑張ってね」
「おう、正直あの雑魚モンスと戦うより気が重いがな、行ってくる」
「ふん!」
「あらーすねてる顔も可愛いわねクロエちゃん、うりうり」
ぷくぷくのほっぺをつんつんする梓。それを微笑ましく見ているレナ。
「一応二人の分夕飯作っておいたんだけど無駄になっちゃったわね、きょうはこのまま寝るの?」
「ちなみにご飯なんだったの?」
「そうめんとピーマンの肉詰めと揚げびたしと唐揚げとお味噌汁」
「なにそれそんなんごちそうじゃん! 食べる!」
「お腹空いてないんでしょ?」
「でも食える!」
「はいはい、レナちゃんも食べられるかしら?」
「はい、じゃあお言葉に甘えていただきます」
「今日は泊まっていきなさいよ、大変なことがあったんでしょ? 一人で居ない方がいいわ」
「ありがとうございます。実は梓さんからもそう言われてまして、お世話になります」
「じゃあちょっとご飯の用意してくるからクロエちゃんをお願いね」
「あいよ。はーっ癒されるわー、このために生きてる」
むくれるクロエを抱きしめると梓は安堵の表情を浮かべた。まさに実家の安心感に包まれていると今日あった修羅場の印象も薄れてきた。梓とレナは美味しい晩御飯を食べてみんなでバラエティー番組を見た後で就寝することにした。
「じゃあ梓、クロエを頼むな。今日はそっちで寝かせてやってくれ」
「あたしは良いけど、クロエちゃんは本当に良いの?」
「パパなんかふーんだよ!」
「ありゃりゃ、こりゃだめだ」
「私達が見てますから、安心してください」
「頼むよ、なんかあったら呼んでくれ、多分起きてるから」
「うん。じゃあおやすみ~」
「おやすみなさい」
コアラのように引っ付いたクロエをあやしたまま、梓は自室に入り寝る準備をした。そこにはすでに直子によって客間用の布団が敷かれており、レナはそこで寝ることになる。クロエは梓の一緒のベッドだ。
「クロエちゃんは真っ暗でも大丈夫なんだっけ?」
「大丈夫だけど、夕焼けが好きかも」
「じゃあそうするね」
リモコンでシーリングライトを操作すると、淡い橙色になって薄暗く室内を照らした。疲労感が溜まっている梓とレナだが、色んなことがあったのですぐには寝付けずにいた。ぽつぽつと今日あったことを思い出しては語り合った。




