35 梓とレナのダンジョン攻略
新宿ダンジョンに到着した二人はまず冒険者局内のロッカーで冒険者用の装備に着替え、雄太の担当である女性職員の佐々木から諸注意を受けた。
雄太からの頼みもあってこれまでなにくれとなく相談に乗ってくれた佐々木は、すでに二人にとっても頼もしい存在となっていた。新人には例外的な措置だが、これからもダンジョン攻略をサポートしてくれるらしい。
装備を整えここ数日間で最低限の教育を施してもなお心配そうな佐々木の顔を見て、今日はすぐ帰って来るからと笑って梓とレナはダンジョンへのゲートをくぐった。佐々木はスマホを取り出して連絡する。
「はい、ええ、ええ。今そちらへ向かいましたのでくれぐれもよろしくお願いします……ふぅ」
ここ数日は実にあわただしかった。それと言うのも急に現れたあの宮本雄太の妹が、宇宙的VIPのパートナーと共にダンジョンアタックをしたいと言い出したからだ。
そのおかげで佐々木は安全な冒険への根回しで、残業に次ぐ残業の日々だった。万が一にでも二人の身になにかがあれば、とんでもないことになる。本音を言うと二人の警護に雄太が付いてくれれば申し分ないのだが、身内びいきになるのは良くないからと断っている。
今日という火を迎えるにあたって、日本と宇宙の平和のために、できる限りの人員を配置した。後は政府が用意した冒険者達が二人の無事を見守ってくれるだろう。何事もないことを祈りつつ、佐々木は通常業務に戻っていった。
一方二人がダンジョンに入ると、そこは緑いっぱいの草原が広がっていた。青い空の下、多くの冒険者たちが思い思いの場所で戦っている。いかにも初心者といった初々しいパーティもいれば、ベテランらしき重装備の冒険者に引率された集団もいる。
話している内容をなんとなく聞いていると、倒したゴブリンからは必ず魔石をはぎ取るようになどと言った基本的な内容を念押ししていた。年頃の若い女性などにはやはり忌避感が強いらしく、場合によっては命のやり取り以上に嫌煙されるらしい。梓も思わずため息をつく。
「あたしもさぁ、正直ゴブリンとかの亜人系とか苦手だけどそうも言ってらんないよね。ぼーっとしてたらせっかく上げたレベルが下がって来るし、また太るかもだし、お金は欲しいしさ」
「私も抵抗がないかと言われればそうじゃないですけど、一緒に頑張りましょう! 梓さん!」
ダンジョンについて早々に気鬱になる梓を励ますレナだったが、そんな時、目ざとく二人を見つけると、馴れ馴れしく話しかけてくる三人組の男達が現れた。
「ねぇ君達ダンジョン初めて? 女性だけの冒険は危ないよ? 俺達はもうベテランだからさ、この先一緒に行ってあげようか? そうしなよ」
梓はうわぁと思いながらも作り笑いを浮かべて結構です、低階層を回るので二人で大丈夫ですと、きっぱりと断った。 だがレナはレナでまだ世間に慣れていないので、男達の下心に気が付いていないようだ。
「でもせっかくこう言って下さっていますし、ご一緒してもいいのではないでしょうか?」
などと悪げなく言ってしまう。その様子を宮本家にいながら水晶玉越しに見ていたクロエは思わず叫んだ。
「レナちゃん! 悪い人に付いて行っちゃだめなんだよ!」
ハラハラしながら見守るクロエの姿に、二人は大丈夫だよ見ててごらんと雄太は余裕の笑みを浮かべる。その時だった。
「ダンジョン初心者を狙ってナンパは良くないなぁ」
凛とした女性の声と共に、五人組の冒険者が現れた。彼らは食って掛かって来るナンパ三人組を取り囲むと、さっとなにか手帳のようなものを見せた。すると先ほどまで威勢の良かったナンパ男達は顔面蒼白になって縮み上がり、そのまま大人しく連行されていく。
先頭の女性は梓とレナの方を向くと軽く自己紹介をした。
「私は南っていうもんだけど、二人ともダンジョンは初めてかい? ここでは危険は付きものなんだが、モンスター以外にも気を付けた方が良いよ。ああいう輩はどこにでもいて、よくトラブルの元になっているんだ」
レナはようやく自分の迂闊さを反省し二人に謝罪した。
「はい、ありがとうございました。てっきり私は親切な人だなと思っていたんですけど、そうじゃないんですね。これから気を付けます」
水晶玉を覗いていたクロエも、ほっと胸をなでおろした。
「良かったぁ。ねぇパパ、でもあの人達って誰なんだろう?」
「ああ、うん。あの人達は日本政府と冒険者ギルドの人達で、普段は要人警護や特別な任務に就いている人達だよ。 梓は俺の妹、レナは銀河宇宙連邦のお姫様。だから二人に警護が付くのも当然っちゃあ当然だよな」
「ふーん、パパはこのことを知ってたんだ」
「まーね~」
クロエは雄太が言った大丈夫の意味をようやく理解したのだった。
少し落ち着いた様子のクロエに、雄太はお昼は何が食べたい? と尋ねる。
「おばあちゃんが作ったお煮しめが食べたい!」
「……お煮しめかぁ。お煮しめは普通に出すとして、それだけじゃメインのおかずがないな。じゃあアプタの地下街の鮮魚屋で魚を買ってくるから、それ見ながら少し待っててくれるか?」
「あい!」
雄太が瞬間転移魔法で買い物に出かけた後、クロエは再び水晶玉に視線を戻した。するとそこでは梓とレナが初めての戦闘に挑んでいた。
「わー! スライムだ!」
「げげっ! なんか吐き出してきた! きもっ!」
「避けてくださーい!」
軽戦士装備の梓は盾でスライムの攻撃を防ぎつつ、ぎこちないながらもメイスで反撃する。魔法使い装備のレナは、杖の先からファイヤーボールを放ってスライムを焼き払っていく。
最初は戸惑っていた二人だが、次第に息が合い始め、危なげなくスライムを倒していく。 戦闘後には、佐々木の教え通りに周囲を警戒してモンスターがいないことを確認してから魔石を回収する。
順調に経験値を積んで行く二人。最初はハラハラしながら見ていた姿を見せぬ警護人達も、次第に安心した様子で見守るようになっていった。すると梓が草原の草むらに隠れているなにかに気が付いた。
「あっ、あれはゴールデンスライム! 倒すと通常種の十倍から百倍の経験値がもらえるという噂のやつ! まてまてー!」
梓は金色のスライムを見つけると、我先にと走り出した。 レナも待ってください梓さんと言いながら、慌ててその後を追いかける。
梓は逃げ足の速いゴールデンスライムに追いつくと、すかさず攻撃を仕掛けようとした。その瞬間だった。
ゴールデンスライムが眩い光を放つと、梓の足元に光る魔法陣が現れたのだ。
「梓さん!」
咄嗟にレナが梓の腕を掴むと、次の瞬間に二人の姿はダンジョンの一階から消えてしまっていた。
突然の出来事に、南以下政府の依頼で護衛していた冒険者達をもってしても、なにもできなかった。そしてこの一部始終を見ていたクロエは、誰もいない宮本家で思わず絶叫した。
「あずちゃーん! レナちゃーん!」




