34 クロエの不安
梓とレナの二人がダンジョン探索に向けて準備を始めてから数日が経っていた。雄太から借りたお金で装備を揃え事前に冒険者登録も済ませた二人は、いよいよ明日に迫った初めてのダンジョン潜入に胸を躍らせていた。梓はスマホでレナと連絡をとる。
「ねえレナちゃん、明日の準備は大丈夫?」
「はい、梓さんに教えてもらった通り、飲み物や軽食、回復ポーションなんかも用意しました。装備もバッチリです!」
居間で二人の会話を盗み聞いていたクロエは、不安げな表情を浮かべていた。
「あずちゃん、本当に大丈夫?」
「もちろんだよクロエちゃん。お兄ちゃんにも相談したし、低層階だけ回ってお茶して帰るだけだから平気だって」
梓は優しく微笑んだ。レナとの電話を終えると、そこへ雄太がやって来た。
「いよいよ明日だな、忘れ物するなよ」
「うん! 大事なものはもらったなんでも入るポシェットに入れたよ! お守りもオッケーだよ!」
雄太は妹の答えに満足そうにうなずいた。
「よし、それなら大丈夫だろう。くどいようだが絶対に無理はするなよ。危険を感じたらすぐに引き返すんだ。あと武器や防具は装備しないと意味がないぞ」
「そんなレトロゲームの武器屋の親父みたいなこと言わなくても大丈夫だよ」
「ちょっと言ってみたかっただけ」
ここまでクロエは黙って聞いていたが、突然立ち上がると雄太に抱きついた。
「パパ、やっぱりクロエもダンジョン行く!」
「ダメだよクロエ、お前にはまだ早いって。それに新宿ダンジョンでクロエみたいな小さい子がいたらみんなをびっくりさせてしまうからな」
「なんでびっくりするの?」
「ん~クロエがかわいくて、見とれて怪我をすると危ないだろ?」
「そっかぁ」
「そうだぞ」
「いやそんなんで納得するんかい!」
梓のツッコミが入りつつも、雄太は優しくクロエの頭を撫でた。明日朝が早いこともあって梓は寝ることになり、クロエと雄太はリビングに残った。ちなみに両親は夕食後の晩酌が効いたのか、明日仕事があるので早めに就寝している。
「でもさパパ、クロエはね、あずちゃんとレナちゃんが危ないかもって思ってるんだけど……」
雄太は少し考え込んだ後、ニヤリと笑った。
「んーそうだな、じゃあ明日クロエには特別な任務を与えよう」
「はえ?」
「クロエは家でお留守番をしながら、この魔法の水晶玉で二人を見守るんだ。何か危険なことがあったら、すぐにパパに教えてくれ」
雄太が取り出した水晶玉は、中に小さな光が浮かんでいた。クロエは目を輝かせてそれを受け取った。
「わぁすごい! クロエがんばるよ!」
水晶玉には大口を開けて寝ている梓の顔が映っている。雄太は死蔵していた異世界のアイテムである遠見の水晶玉を取り出してクロエの不安を取り除くことにしたのだ。
「よーし、じゃあ明日に備えて俺達も寝ようかね、クロエさん」
「あい! 寝る前にトイレ行く!」
「そうだな、えらいぞ」
翌日早朝に家族全員で二人を見送る中、梓と合流したレナは意気揚々と家を出た。玄関先で見送った後リビングでクロエが水晶玉を両手で抱え、真剣な表情で中をのぞき込んでいる。
二人を監視しているようで気が咎めるけど、見ているのがクロエならバレてもお咎めはないだろうなと思いつつ、家の掃除を始めるのだった。




