32 タコパ3
どこで覚えたのか雄太がたこ焼きを焼く手つきは見事なもので、熱々のたこ焼きが次々と皿に並べられていく様子に、家族全員関心していた。しかし、クロエだけは不機嫌そうにレナーラをむっつり見ていた。梓が尋ねる。
「ねえレナーラさん、宇宙銀河連邦って、なにしてるところなの?」
レナーラは一瞬たじろいだが、すぐに取り繕って答える。
「はい、簡単に言えば銀河系の様々な文明が集まった組織です、地球の国連のようなものですね。こちらでは主にダンジョン統治に関しての協力をしています」
「へえ~じゃあ、どうしてまた新宿ではなく西東京市に住んでるの?」
この質問に、レナーラは言葉に詰まった。雄太は軽く咳払いをして代わりに答える。
「実はな、俺が異世界でやったことがこの宇宙次元では問題になっているみたいなんだ」
雄太はめんどくさそうに頭を掻く。
「邪神を倒したりしたから、その力を吸収して神レベルの力を持っちゃったみたいでさ」
「えぇ!?」
家族全員が驚きの声を上げる。レナーラは観念したように深々と頭を下げた。
「申し訳ありません。実は私、宮本雄太様の監視と……交渉のために派遣されました」
「監視?」
直子が心配そうに尋ねた。
「はい、雄太様の力があまりにも強大すぎて、銀河の秩序を乱す可能性があると上層部が判断したのです」
「ふむふむなるほど、うちの息子が宇宙の要注意人物になっちゃったって話だね」
父の台詞に雄太は苦笑いしながら、出来上がったたこ焼きを皆に配り始めた。
「まあ、そういうことになるね。でも心配しないで、銀河連邦政府は敵じゃないし、彼女は良い子だから」
その言葉を聞いてクロエのしかめっ面がさらに曇った。
「パパのバカ!」
「あ、クロエちゃん!」
クロエが梓の膝から抜け出して部屋を出て行ったので彼女は追いかけようとしたが、雄太が制止した。
「大丈夫、俺が行く。みんなはたこ焼きで酒でも飲んでて」
雄太はクロエの後を追って二階に上がった。自室兼クロエの部屋のドアをノックすると、中から小さな啜り泣きが聞こえてくる。
「クロエ、入るぞ」
返事はなかったが、ドアは開いていた。雄太は静かに部屋に入り、ベッドに座るクロエの隣に腰を下ろした。
「どうした、らしくないな」
クロエは泣きじゃくりながら答えた。
「パパ……パパはいつもきれいな人に囲まれて、そのうちクロエのこと忘れちゃうの?」
雄太はクロエを優しく抱きしめた。
「そんなことないぞ、クロエは大切な娘だからね。この先誰と仲良くなっても、それは変わらないよ」
「ほんと?」
クロエは涙目で雄太を見上げた。
「ほんとだよ」
雄太はクロエの頭を撫でながら言った。
「それに、レナーラは言わばパパの仕事の関係で来ただけだよ。クロエが心配しなくていいんだ。でもあの子も事情も考えてあげて欲しいんだ、クロエもできるだけ仲良くしてあげて欲しいんだけど、できそうか?」
クロエは少し安心したように頷いた。
「ん……がんばってみる」
「うん、じゃあ戻ってたこ焼き一緒に食べよう」
「あい」
クロエが雄太にしがみつくと、父は笑顔で受け入れた。クロエを抱き上げたまま居間へと戻る。
「クロエ、レナーラにごめんなさいできるか? さっきので彼女もびっくりしちゃったと思うから」
少女は少し恥ずかしそうにしながらも、うんと小さく答えた。
二人が戻ってくると、家族全員が心配そうに見守っていた。クロエは恥ずかしそうにレナーラの前にちょこちょこと歩いて行って、さえずるような声でごめんなさいと謝った。
レナーラは優しく微笑んで答えた。
「大丈夫です。私も突然来て驚かせてごめんなさい!」
その言葉を聞いて、クロエの表情が少し和らいだ。
「さあ、たこ焼きが冷めちゃう前に食べよう」
直子が明るく言った。みんなで円卓を囲み、たこ焼きを頬張る。異世界の食材で作られたたこ焼きは、驚くほど美味しかった。レナーラも初めて食べるたこ焼きに夢中になっていた。
「たこ焼きのソースだけど、ゴマダレや特製マヨネーズとかも用意したから好きなの使ってね。明石焼き風のダシもあるよ」
「じゃあ僕はそれもらおうか」
「あいよ」
「雄太、レナちゃんたらえらいのよ? 誰も知らない土地で一人頑張ってるんだって」
「うん知ってる、でも最近はアプタの地下街で嬉しそうに買い物してたりするよ」
「ななな、なぜそれを知ってるんですか!」
「しのむらの惣菜は確かにうまいけど、いい機会だから自炊も覚えた方が良いかもね」
「あらレナちゃん、お料理できないの?」
「ああ、ええと、我が家は代々シャーマンの家系でして、お勤め以外のことはみんな他の人がやってくれたりするので……」
「彼女はいわゆる王族の出だよ。そんな感じしないけど」
「あれか、つまりええとこの子か!」
「ええとこの子だ」
「ええ、一応そういうことになってます。で、でも全然普通に接してくださいね!」
「あら~それは大変じゃないお父さん、ダジャレ言ったら捕まるんじゃないの?」
「そうだな、宇宙不敬罪で逮捕かな! がっはっは!」
「そ、そんなことしませんって、も~」
「でもレナちゃん、良かったらこれからもちょくちょく家に来なさいな。梓とも年が近いんだし、仲良くしてあげてね、この子ネットの中にしか友達いないんだから」
「それはそう。でもよろしくね!」
「は、はい、よろしくお願いします」
「そして二人には料理を教えてあげるわ、いつ嫁に出してもいいようにね」
「え~? だからそれはいいっても~」
「じゃあクロエに教えて!」
「あらクロエちゃん、お料理に興味があるの?」
「うん! お料理覚えてパパのお嫁さんになるの!」
「おおー壮大な野望だ」
「いいわよ~そのうちパパが昔好きだった料理教えてあげるわね」
「やったー!」
「ほらほらちっちゃい子がやる気出してるんだから大人も頑張るのよ! 慣れればなんてことないんだから!」
「はぁ~い」
「……お手柔らかにお願いします」
こうして宮本家を監視するレナーラとの初顔合わせが終わったのだった。




