31 タコパ2
「ただいま~」
「はいお帰りなさい、早かったわね?」
「うん、すぐそこだからね」
「あらご近所さんなの? あんた帰って来てもう近くに知り合いができたの?」
「うんにゃ、今まで話したことはなかったよ、俺が知ってただけかな」
「え? なによそれ、ちょっと大丈夫なの?」
「平気平気、本人は緊張してたけど、喜んで来るって言ってたよ」
「ほんとにぃ?」
母の疑う声を尻目に雄太は台所からリビングへと行くと、そこにはぴょこんぬと角を出した本来の姿のクロエが真剣な目をして音ゲーに集中していた。
「うお、クロエが本気になっている」
「うん、さっきまで普通にやってたんだけど、やっぱり超難易度は難しいからね、腕輪取っちゃった」
「クロエ、それお姉ちゃんのだから壊しちゃだめだぞ?」
「だいじょぶ、こわす、ないよっ」
クロエはここ最近腕輪を外して自力での日本語勉強を頑張っているので、拙いながらもしゃべれるようになってきた。ゆらゆら揺れている立派な角も本来自力で隠すことができるのだが、今はそれどころではないようだ。
クロエはまだ小さいが魔王の血筋だけあって魔力も力もとても強い。だからその気がなくても簡単になんでも壊してしまうのだが、この辺の手加減も地味に練習している努力の子なのだった。梓は感心してため息をつく。
「音ゲーってさ、いわゆる覚えゲーなんだけど、クロエちゃん凄い記憶力いいんだよね、あと反射神経も良いから、すぐ完全攻略されちゃいそう。音ゲーにもプロリーグがあるから、プロになれちゃうよ」
「それなんだがな、やっぱり他の子との学校生活とかを考えると差があり過ぎるのも考えものなんだよな、ただでさえ赤い髪してるんだし浮いちゃうだろ」
「まぁ昔から頭の良すぎる子は飛び級したり海外の学校行ったりしてるもんね」
「そうなんだよ、できるだけクロエには普通の子の暮らしを体験させてあげたいんだけどな」
「もしいじめられても反撃しちゃうと凄いことになりそう」
「あぁそれなぁ……」
「クロエ、がっこういかない。パパといる」
「あらなんで? 友達と遊ぶの楽しいよ?」
「だってパパ、しらないあいだ、おんなのひととすぐなかよし。ダメ」
「だってさパパ」
「誤解だっつーの」
「はっはっは」
高速で運指をしてエクセレントを出しながらも父を非難する器用な孫娘を見ながら、おじいちゃんの進はタコの刺身をつまみにちびちびと目を細めてビールを飲んでいた。
まだナイター野球を見るのには早い時間帯なので、今は録画していた田舎の一軒家を訪れる大人気テレビ番組を見ていた。本放送時も見ているのでこれは二回目だ。ちなみに妻の直子は最近中国や韓国の宮廷ドラマが好きなので、朝の連続テレビ小説を含めてよく見ている。
リビングのテレビはナイター期間中ほぼ進が夜のテレビを独占することになるので、ノートパソコンが置いてあって空いた時間で直子がそれでドラマを見たりしている。
そうこうしていると、玄関の方でピンポーンと音がした。雄太のお客様ということで家族そろって出迎えると、そこには真っ青な顔をして小刻みに震える神社の巫女さん風の民族衣装を着た青い目で金髪のはかなげな少女が佇んでいた。よく見ると耳が尖っているので、地球人ではないとわかる。
その震える唇から恐る恐る挨拶の言葉が紡がれた。
「……本日はお日柄も良く、お招きいただき誠にありがとうございます。私、宇宙銀河連邦祭祀部所属 レナーラ・プレアデスと申します、どうぞお見知りおきを」
今にも死にそうな風情とか細い声でそう言うものだから、一同はいぶかしんだ。
「そんなに気合が入った服着てこなくても楽な格好でよかったのに。まぁいいか、どうぞ入って」
「……おっ、お邪魔します」
ふらふらと玄関を上がるレナーラを見て、急に機嫌が悪くなる子がいた。クロエだ。
むすくれて頬を膨らませている姪っ子ちゃんを放っておけなくて、梓は抱き抱えながらリビングに入っていった。
お客さんが来た時は、習わしでテーブルで食事をすることになっている。レナーラをお誕生日席に座らせて、いざタコパの始まりである。
食事の席で鍋を仕切るものを俗に鍋奉行などと言うが、雄太の場合はたこ焼き奉行だろうか。皆の自己紹介もそこそこに用意してあった、たこ焼き機に電源を入れて油を引くと、手際よく生地を流し込んだ。
今回は雄太がもてなすということで、母の直子も席に座ってビールを飲んでいるので、自然とレナーラにも勧めた。
「レナーラさんはお酒とか大丈夫なのかしら。ご免なさいね、私達そちらの世界に疎くって」
「とんでもないです、我々外宇宙人は基本的には地球の皆様との接触を最小限にしているので、無理もないことです。私は今年二十四歳になったので、この国の法律的にも飲酒は問題ありません!」
「あらそう? ならビールでいいかしら?」
「はい! いただきます!」
直子はレナーラの持つグラスになみなみと琥珀色の泡立つ発泡酒を注ぎ入れると、彼女は感謝を述べて一気にそれを飲み干した。
その見事な飲みっぷりに父の進も感心して酌をした。
「レナーラさんはお酒いけるんだね、宗教なんかではダメなところも多いけど」
「あぁその子のところは基本的には飲酒は禁忌なんだけど、招かれた先で振る舞われたら断らなくていいって教えなんだ、だから大丈夫だよ。本人いける口みたいだし、みんなで楽しく飲もうよ」
「……えっ? あっはい、ありがとうございます。で、でもなぜそれをご存知なんですか?」
「さぁねぇ、なんでだろうねぇ」
雄太はレナーラの質問にとぼけながらも、たこ焼きを焼く手は止めなかった。




