30 タコパをしよう
「ただいま我が家~」
「はいおかえりなさい」
梓が言うと横の母がそう応えた、一緒に帰って来たので当たり前である。一軒家の玄関なので広めの造りではあるのだが、一家全員で立っているとやや狭く思えた。
雄太の瞬間転移により帰って来た宮本家の面々は、これは便利だと口々に言いながらとりあえずリビングに集合した。本来ならばもう少しゆっくりしてから帰る予定だったので、若干時間が余ってしまった感がある。
それでもここにいるのは全員家族なので気兼ねすることなどなにもない、だらっと座卓と囲んでみなで座ると、家長は再びビールを飲み始めた。
「あらお父さん、また飲むの?」
「色々驚いてばっかりだから落ち着こうと思って。母さんもどうだい?」
「そうねぇ、でも私はみんなが取ってきたのの下ごしらえでもしようかしら、雄太、少し出してちょうだいな」
「うん、ちょっと待ってて。今ちょうどいい大きさに切ってくるから」
「お願いね、でもどこで切ってくるの?」
「うーん収納されている亜空間みたいなとこ。梓、パ~ス」
「え? あっはい」
「ちゃー!」
「すぐ戻ってくるから大人しくしててな」
「えー!」
「えーじゃない、なんか動画でも見てて」
そう言い残すと雄太は娘の前で再び姿を消した。しょうがないので言われた通りに梓と一緒に梓のスマホで動画を見ることにした。
しかし梓はふと思いついて、スマホにインストールしているゲームの中でいわゆる音ゲーと呼ばれるものをやらせてみる。簡単にルールを説明して実演してみると、クロエはご機嫌斜めながらもやってみたいと言ってくれた。
これ幸いと梓はクロエの後ろに回って抱きかかえるようにしてスマホを覗き込む。横にしたスマホをテーブルに置いて、上から流れてくる板をリズムに合わせてポチポチと押していく。最初は優しめの曲からなので、クロエのたどたどしい手つきでもなんとか進めることができている。タイミングが早すぎたり遅すぎたりするとバッテンマークが付くのでミスしたのだとわかる。
このゲームは有名なボーカロイド曲が多数収録されているもので、今音ゲーの中でも一番人気があるものだ。梓のお気に入り曲をさりげなく勧めており、彼女は音楽に合わせて揺れながらクロエのプレイを
見守っていた。見守りつつもクロエの後頭部の匂いをくんくん嗅いで和んでいた。
「でへへ、クロエちゃんは可愛いねぇ」
「ちょっとあんた、やめなさいよ。変態みたいじゃない」
「うちのシャンプーの匂いする」
「そらそうでしょ」
幸いクロエもゲームが気に入ったようで、無言で真剣になって音ゲーを楽しんでいた。そうこうしているうちに雄太が帰って来た。
「おっ、お早いおかえりで」
「おただいま。なにやってんのそれ」
「ん~? 音ゲー、クロエちゃんすごく上手だよ」
「おーなるほどな」
今のうちに雄太は台所に行き、ダイニングテーブルの上に板を置いてそこに手ごろなサイズにぶつ切りしたタコやザリガニだったものを並べてみた。
「これぐらいだったら料理しやすいでしょ? みんなが食べてもいいように魔力とかは抜いておいたから普通に使えるよ」
「そうね、ありがとね」
「まだいっぱいあるからそっちのバックにも入れとくね」
「あ、ありがとね。ん~とりあえずタコのお刺身でも作ろうかしら、お父さん飲んでるし」
「助かります」
「だって」
しれっと様子を見に来ていた父が調子よくそう言うと、冷蔵庫からビールを取り出す。
「そうだ雄太、僕も母さんのその便利バック欲しいんだけど。ビール冷やして入れておけばずっと冷えてるんだろ?」
「それくらいはお安い御用だけど……」
「だめよ! お父さんにそんなものあげたらずっと飲んじゃうじゃない! そのうちお腹に水が溜まるわよ! だめ!」
「ええ~? そんなー」
「はは、まぁ次の機会ということで」
しょぼんとした父の背中を見送って母の始めた調理を眺める。
「それにしてもまだだいぶ余ってるんだよな、文字通り売るほどあるんだけど」
「今は厳しいから産地が不明だと誰も買ってくれないでしょう、異世界産だって言う訳にもいかないんでしょ?」
「そうだね、今のところあの世界に行き来できるの俺だけだからなに言ってんのって話になるだろうね。魔力だけ抜いてやればものはほとんど日本のタコやザリガニと変わんないんだけど」
「あとはお裾分けするくらいかしらね、唯ちゃんのとこにでも持っていく?」
「なんでだよ、今や日本で知らない人がいないくらいの有名人だし、もう俺のことなんて覚えてないでしょ」
「そんなことないわよ、たまに心配してくれて電話かけてくれるんだから。あんたまさか、帰って来てから連絡してないの?」
「うん」
「あら恩知らずね! あんたが連絡してから私も今までのお礼言おうと思ってたのに!」
「別にいいでしょ、すでにいい人もいるみたいだし、迷惑かけるだけだよ」
「それはそれ、これはこれでしょうが!」
「ほら母さん、包丁持って興奮するのは危ないよ。ではさらばだー」
「ちょっと待ちなさい雄太! 話はまだ終わってないわよ!」
「……あーそうだ母さん、良かったらこのあと一人みんなが知らない人呼んでいい? そんで夕食はタコパにでもしようよ、タコ焼きプレートあったでしょ?」
「それはいいけど誰を呼ぶの? 今から呼んですぐ来てくれるのかしら」
「大丈夫だよ、それが仕事みたいなもんだし」
「え? なんだかよくわかんないけどわかったわ、私は料理を用意すればいいんでしょ?」
「うん、お願い。じゃあちょっとまた出かけてくる」
そう言うと、雄太は靴を履いて飄々と家の外へと歩きだした。




