27 おいでませ異世界の湖
「うわー、きれー……じゃない! なんなのこの昼なのにうっそうとした霧は! ホラー映画みたいじゃない!」
「うーんおかしいな~、ここはこんなんじゃなかったんだがなぁ」
「確かに人はいなさそうだが、このままじゃ雨も降ってないのにずぶ濡れだな」
「まぁそれくらいならどうにでもなるよ」
雄太がパチンと指を鳴らすと瞬間にして周囲の霧が晴れ、目の前には青く澄みわたる大きな湖が広がった。
「わぁ! すご~い!」
「あらスッキリ晴れたわね。それじゃあさっそくだけど朝ごはんにしましょうか。ほらパパよろしく」
「はいよ」
母の直子に促されて雄太はさっと手をかざすと、次の瞬間にはテーブルセットと料理が入ったバスケットが現れた。てきぱきと直子はテーブルに座った家族全員に給仕をし終えると、自らも椅子に座った。
「さぁ食べましょう、いただきます」
「いただきます!」
クロエが一際大きな声でいただきますを言うと、宮本家の面々は顔をほころばせた。
今朝のメニューは母特製の冷蔵庫の余り物詰め詰めサンドだ。前日から野菜やら冷凍食品やらを処理して冷蔵庫内をすっきりさせることに成功したのだ。
ちなみに雄太は母に見た目はトートバッグに見える高性能なマジックバックを渡しており、昨夜から嬉々としてそれになんでも料理を作って入れている直子は若干寝不足気味である。あくびを噛み殺しながらも自分で作ったサンドイッチを頬張る。
サンドイッチのパンは雄太が以前駅前のアプタ専門店街一階で大量に買ってきた高級食パンであり、珍しいからみんな喜んで食べるだろうと思っていたら、すでに流行を一回りも回っていたトレンド品であった。調子に乗って買い過ぎたので収納の肥やしになっていたものだ。
「お母さん眠そうだけど、何時まで作ってたの?」
「三時頃までかしらね……」
「そんな次の日修学旅行の中学生じゃないんだからさー」
「しょうがないじゃない、凄いのよ雄太がくれたこのバッグ。いつでも熱いものは熱く冷たいものは冷たく出て来るから最高なのよ。中に手を入れればなにが入ってるか全部わかるし、全然重くないし、まさに魔法のバッグだわ。感動して眠れなかったのよ~うふふふふ! はぁでも寝不足だから食べ終わったらちょっと寝るわ。雄太後よろしくね」
「それはいいけど、なんだかな」
「あなた達は遊んでらっしゃいな、あまり遠くには行かないでね。それとお父さんにあまり飲ませないでね」
「はーい」
「え~?」
直子がこれ見よがしにサングラスをしたので雄太はリラックスチェアとビーチパラソルを出してあげて、万が一のために結界を張って万全を期した。ここにはどんよりした霧も入ってこないし奇麗な空気が沢山ある森林の中なので自然と気も安らぎ、すとんと落ちるように直子は眠りに入るのだった。
「はやっ! お母さんもう寝ちゃった」
「昨日ずいぶん嬉しそうにはしゃいでたからな、無理もない」
「じゃーうちらはどうする?」
「せっかくだから湖でも見てみるか」
「パパ抱っこ!」
「あいよ」
流れるようにクロエを胸に抱くとすりすりと娘が頬を摺り寄せてくるので、そのムチムチさを楽しみつつも足を進めていく。
湖は青黒く、どこか不気味な雰囲気を醸し出している。雄太の力によって有害な霧は払われたが、やはり様子がおかしいようだ。雄太は湖面を覗き込んで首をひねる。
「う~んこれ、中になにかいそうだな」
「お兄ちゃん、なにかってなにが?」
「そうだなー」
雄太はおもむろにこれまたいつの間にか買っておいた釣竿を取り出す。クロエは器用に背中にまわってしがみついた。
「釣りでもするの?」
「ああ。餌はお父さんのつまみに買っておいたスルメをちぎって使います」
「ええー僕のスルメがー!」
「おじいちゃんよしよし」
「そんで投げて待つと……かかった!」
ぐんと一気に竿をしゃくって獲物を引き上げると、そこには特大のザリガニがかかっていた。
「うわーでかくてキモい! わしゃわしゃしておる! 猫ぐらいでかい!」
「梓、持ってみるか?」
「嫌だーーーーーーーーっ!」
「エビ好きなんじゃなかったのか?」
「エビって言うかザリガニでしょこれ! しかも異世界産でやたらでかいし! 鋏があぶないよ!」
「んじゃ冷却」
雄太の魔法によってカチンと固まったザリガニを見て父が言う。
「これ、この尻尾の真ん中のところを折ってな、ズルズルっと引き出すと、この通り背ワタが取れるんだ。こいつが臭みの元なんだ」
「さすが老人の知恵、お父さんは未開の地で育ったんだもんね!」
「山奥なのは確かだけど富山を馬鹿にするな。雄太、これは食べれるのか?」
「いけるよ、有害なのは魔法で消せるし」
「それじゃあ食材の確保とまいりますか」
「いいねぇ、梓ちゃんがんばっちゃうよ! 漫画だと脇役が大物を釣るのがセオリーなんだから!」
「知らんがな」
口だけは達者な梓や父にも釣竿を渡して、流れでザリガニ釣り大会を開催することになった。なぜかクロエはカチンと凍らせる役をやりたがったので、雄太は二人のフォローを任せることにした。
「うおーまた釣れたぜー! クロエちゃんかもーん!」
「はーい!」
「こっちも釣れたからお願いね」
「はいはーい!」
ちょこちょこと二人の間を行ったり来たりしているクロエだが、そこは血統的にフィジカルおばけなので少しの息も上がってはいない。嬉々としてザリガニを凍らせている。そして通りすがりに雄太に甘えている。
父の進はいつの間にか雄太にせがんで缶ビールを飲んでおり、餌のスルメをつまみにのんびり釣りをしていた。
「それにしても投げ入れればすぐ釣れるからこれは、駆け引きもなにもないなぁ」
「んーそだね」
ここで母親のことが気になった梓が遠くで横になっている直子に声をかけてみる。
「お母さーん」
「……なあにー?」
「お母さんもザリガニ釣らなーい?」
「釣らな~~~~い」
「お母さーん」
「……なあにー?」
「僕のスルメが減ってくよ~~~」
「知らな~~~~い」
宮本家の面々は思い思いに異世界での時間を楽しんでいた。




