26 異世界ピクニック
金曜日の夕飯時、テレビの天気予報が流れる。この週末の予報は雨だった。時期は六月、梅雨のシーズンなのでしょうがないが、ここのところは毎週末雨の予報が重なっており、出かけようにも都合が悪い。
徐々にクロエも町に慣れてきたし、梓も外出できるようになってきたのでそろそろ家族旅行に遠出してみるのもいいんじゃないかと話し合っていたところだけに、残念だ。
ここ最近の母は梓やクロエを巻き込んであれこれと旅行の計画を考えていたが、全国的に悪天候なので大人しくしているしかないのが現状だ。これに梓がぼやく。
「あ~つまんないな~、せっかくみんなでどっか行けると思っていたのに」
「お出かけできないのは世間様みんなそうなんだから、しょうがないでしょ。いつも家にいるあんたが文句言わないの」
「そんなこと言ったって~北海道とか沖縄とか行ってみたかったよー」
「線状降水帯だっけ? 日本をすっぽり包むくらいの雨雲があるからなぁ、飛行機なんかもまともに飛ばないんじゃないかなぁ」
「そうなのよねぇ、外で遊びたい盛りなのにクロエちゃんが可哀想だわ」
「お母さんあたしは!」
「あんたはちっとも可哀想じゃないわよ、ちょっとは外でいい人でも作ってきなさいよ」
「ちょまっ! あたしはそのレベルにはまだ早いって!」
「早いってなによ、あんたボケっとしてるとじきに三十よ? 今焦らないでどうするのよ」
「そ、それは……お兄ちゃんがなんとかしてくれるよ!」
「なんで俺やねん」
「雄太、異世界に梓に合うような良い人いないの?」
「母さん急にめちゃくちゃ言うよね」
「あぁもうこの際だから異世界人でも宇宙人でもまともな人なら誰でもいいわ、梓を貰ってくれるなら」
「誰でもって訳にもいかんでしょ、宮本家継いでもらわんといけないからさ」
「それなんだけどね、こっちはもうとっくに墓じまいしてこの家も畳んで、実家じまいすることまで考えてたのよ。だから今更若いあんた達が気にしなくてもいいのよ、好きに生きなさい」
「お母さんやお父さんはそう言うけどさ、普通にお兄ちゃんが継げばいいんじゃないの? 長男なんだし」
「だから俺はだめなんだって、もう生物学上も人間とは言い難いし」
「またそうやって難しいこと言ってごまかそうとするー」
「ほんとだって、今はこうして普通に話してるけど、例えばエビと人間くらいの差があるんだから」
「エビ? なんでエビ?」
「今一瞬テレビに映ったから」
「あーエビ、いいな~。お母さん、あたしエビ食べたい」
「だまらっしゃい、外買いに行くのも面倒だから週末は冷蔵庫にあるものを食べるのよ!」
「そうだぞ梓、我慢しなさい」
「ねぇねぇパパ、みんなでなんの話してるの?」
「んー? 特に内容のない話」
「そっかぁ」
「内容がないよう、ってか! がはははは!」
「お父さん、酔っぱらってるんならもう今日はお酒出さなくてもいいわよね。ビール代が助かるわ~」
「すいませんでした、おビールください」
「もう、あと一本だけよ?」
「ははー」
「そういや結局母さんは晴れてたらどこに行きたかったの?」
「私? そうねぇ。色々行きたいところはあるけど、あんまり歩いて疲れないところが良いわねぇ。あとはご飯の用意をしなくていいならどこでもいいわ」
「お母さん、それだったら別に都内でもいいじゃーん。お父さんは?」
「んー? そうだなぁ、強いて言えば久しぶりに釣りにでも行ってみたいが、この天気じゃなぁ」
「クロエちゃんは?」
「みんなと一緒ならどこでもいいよ!」
「あらかわいらしい、よしよし」
「あずちゃんはどんなとこ行きたいの?」
「あたし? あたしはねー、まず人が少なくて景色がきれいで食べ物がおいしくて温泉があってそれからエステがあってマッサージもして買い物もして……」
「いやどんだけ要望あんだよ」
「あんたクロエちゃんが健気なこと言ってるのにみっともない、欲の塊じゃない」
「だってこんな機会そうないんだから仕方ないじゃ~ん。そうだお兄ちゃん、こないだみたいに異世界行こうよ! みんなを連れて! 向こうなら天気関係ないでしょ?」
「関係なくはないだろうけど、晴れてるとこはあるだろうな」
「ほらー、行こうよ~」
「行くったって向こうのどこへ行きたいのさ」
「そこはお任せで!」
「んーそうだな……」
しれっと抱き着いてきたクロエを慣れた感じで片手で抱き上げると、顎に手をやり考える。
「じゃあ森の中の湖にでも行くか、人はいないし湖の水も青く透き通っていて奇麗なんだ。あそこならたぶん晴れてると思う」
「行く行くー! やったー!」
「でもお店とかないんでしょう? お弁当作らなきゃかしら」
「大丈夫だよ母さん、俺が用意するから。買いだめもあるしね」
「おビールは?」
「父さんの好きなやつ買ってあるよ、ビンのケースで」
「うわぁ~やったー!」
「やったー!」
「あらやだ、ほんとに便利になっちゃって」
父の進が喜んでいると、よくわかってないながらもクロエがハイタッチしてくれた。こうして宮本家総出で異世界の森へピクニックへ行くこととなったのだが、これが後々語り草になる、ちょっとした騒動の始まりだった。




