24 梓の大冒険2
梓は保谷駅に隣接している西有に到着すると、律儀に自転車を地下の自転車置き場に駐輪した。ここは二時間無料なので、買い物をする間はタダでとめられるだろう。別段その辺にとめても咎められない時間帯なのだろうが、万が一を考えると気になってしまう性格だった。
階段で一階に上がって二階へは店内エスカレーターで登りいざメインの惣菜エリアへ……行こうとしたのだが三階へのエスカレーターが動いており、気になって上に行ってみる。
西有保谷店の三階には雑貨が売られており、薬のコーナーは薬剤師がいない深夜帯なので閉まっている。別段なにも欲しいものはないが、新しく出たシャンプーなどを手にとっては棚に戻すのを繰り返す。三階には自分以外誰もいない。店員さんもいない。ほうほうと小さくフクロウのように鳴きながら二階へ戻って物欲を開放する。
これまでならば割引された品物から中心に欲しいものを考えて手に取っていたが、今は違う。菓子類やパンを中心に目につくカロリーの高そうなものを買い物かごに次々と入れていく。次々と入れては買えるけど持ってきたリュックに入りきらないことを考えて泣く泣く元の棚に戻していく。自転車の前かごにも荷物は入るけれど、それもたかが知れているというものだ。
そして梓には普段食べられないお菓子の他に買っておきたいものがあった。それらを求めて一階へ行くと次々と必要なものを選んでいく。やがて大入りの買い物かごを持って恐る恐るレジに行くが、誰もいない。
どうすればいいのかと思って辺りを見渡すと、押してくださいと書いてあるチャイムのボタンが置いてあった。ここまで順調に来ていたが、これに動揺してしまう。
(くっ……今まで引きこもりだったから、こう、なんていうか人をわざわざ呼んでしまうという行為そのものに抵抗を感じちゃう! 店員さんはあたしがいなければそのまま品出しのお仕事を続けていられたろうに、自分だけにお手間をとらせてしまうということに、ニートですんませんという気おくれが勝ってしまう……いや! それもこれまでだ! あたし自身は大したことないけど、あたしのお兄ちゃんは勇者なんだ! レベルも上がったし、これからは普通の生活に戻れる……はず! クロエちゃんのかっこいいお姉ちゃんになるためにも、こんなところで躓いていられるかぁ! ええい、ままよ!)
梓は意を決してボタンを押し、店内にピンポーンと呼び出し音が鳴った。しばらくすると中年の女性店員さんがお待たせしましたとレジに現れて会計をしてくれた。無言でぎこちない頷きを返した梓は大量の買い物が入ったかごの商品が順番にバーコードを読み取られていくのを緊張しながら見守っていた。
「ではお会計はこちらの一番精算機でお願いします」
「え? は、はい?」
手に財布を持ってスタンバっていた梓だが、引きこもっている間に会計システムが変わっていたので面食らってしまった。促されて精算機を見るも、初めての経験で混乱してしまう。
(これはどういうことなの? セルフレジだったら自分で全部やるのはわかるけど、商品の読み取りは店員さんがやってくれて、支払はセルフでってことなの?)
「お客様、お支払いは現金ですか?」
「え? あぁはい!」
「でしたらそちらの現金のところにタッチしてください」
「あ、あぁなるほど。ありがとうございます」
すっかり店員さんが全部やってくれるものだと思っていた梓は動揺して、この半セルフレジシステムに戸惑ってしまった。だがあとはお金を入れるだけなのでお札を入れて小銭もぴったり入れようと思ったら、盛大に床にぶちまけてしまった。これには店員さんも慌ててしまう。
「大丈夫ですか?」
「ああ大丈夫です! ちょっとぼうっとしてただけで、ははは」
急いで小銭をかき集めた梓は、それでも長年のニート根性で一円たりとも見逃さない覚悟で全ての小銭を拾い終え、ようやく会計を終わらせた。
ちょっと離れたところで心配そうに見守ってくれていた店員さんに軽く会釈をして、買い物をガンガン詰め込んだリュックと新たに購入したレジ袋を持って、そそくさと西有を後にした。店員さんが言ってくれたありがとうございましたという掛け声が、妙に誇らしく思えてしまう。手間取りはしたものの、梓は見事に買い物をやり遂げたのだ。
意気揚々と戦利品を引っ提げて帰宅した梓はクロエや寝ている両親を起こさないようにそっと家に帰って来た。するとそこには変わらない姿勢でクロエを抱えながらテレビを見ている雄太の姿があった。
「おかえり、欲しかったものは買えたのか?」
「うん、まぁね」
「なんだそれ、エナジードリンク? 痩せたいって言ってたのにそんなもの買ってきたのか」
「一本くらい別にいいでしょー! ずっと飲みたかったの! お母さん頼んでも買ってきてくれないんだから」
「母さんは調理師だからな、そういうのに否定的なんだろ」
「そうなんだよね。お父さんに頼むとこっそり買ってきてくれるんだけど、よく忘れるしバレるとお母さんに二人とも怒られちゃうの」
「そらそーだ」
「……あずにゃん?」
「あっごめんクロエちゃん、また起こしちゃったね」
「んーん、らいじょぶ。お買い物ちてきたの?」
「そうだよ! クロエちゃんにお土産があるんだ~、じゃーん! アイスの高いやつ!」
「わーアイスだ~!」
「ふふ、この間レベル上げるのに手伝ってもらったお礼だよ」
「ねぇパパ、食べていい?」
「ん? 寝る前に歯磨きしたろ」
「お礼だからいいじゃない」
「いじゃない」
「んーまぁなぁ、もう一回後で歯磨きするんだぞ」
「やった! みんなで一緒に食べよ!」
「そうだなって梓、お前なぜポテチを開けるんだ。それもパーティー開きで」
「やだな~アイスだけで済むわけがないじゃない。兄貴、今宵は宴だぜ!」
「キャラ変わっとるがな、それにもうすぐ朝だぞ」
「あっ寝ているお父さんとお母さんに悪いからこの部屋の音消してね!」
「とっくにもうやってる」
「そうなの? いえーい! じゃあネット配信映画見ようよ! みんなで見れるやつ!」
「1本だけだぞ」
「やったー!」
いつの間にか完全に起きたクロエはノリノリで踊り出し、楽しい映画鑑賞パーティーが始まったのだった。




