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23 梓の大冒険




 その日の深夜、頭痛も収まり楽しい団欒を過ごして二十三時頃に眠りについた梓だったが、不意に午前三時前に目が覚めてしまった。


 このまま眠ろうとしても眠れないだろうし、ゲームのフレンドももう誰も起きてはいない時間帯だ。どうしたもんかと思いつつも階段を下ってトイレを済ませ、リビングに行くと、テレビの明かりがついている。そこにはクロエを胸に抱いた雄太が薄暗い部屋でぼんやり海外の探偵ドラマを見ているところだった。雄太はまどろんでいるクロエの背中をゆっくり叩きながら、振り向きもせずに聞いた。


「どうした梓、眠れないのか?」


「うん、ちょっと目が覚めちゃって……クロエちゃんもかな」


「半分寝てるような起きてるような状態だけどな。横になって寝ると嫌なことを思い出してしまうから、縦になっていたいらしい」


「なるほど、大変ですなぁお父さん」


「俺にしてみたら大したことじゃないよ、俺自身は寝なくてもいいんだし」


「それはちょっとうらやましい」


「……んっ、パパ?」


「ここにいるぞ」


「うん」


「あたしもいるよ~」


「ほんとだ、あずちゃんだ……ふみゅう」


 一度起きかけたが抱かれていることに安心したのか幼子は再び眠りについた。カーテンをよけて掃き出し窓の外を見てみると、降っていた雨が止んでおり、静かな夜が広がっていた。そこで梓は、なんとなく行けそうな気がして一人頷いた。


「お兄ちゃん、ちょっとあたし、出かけてくる」


「こんな時間にどこへだ?」


「保谷の駅の西有、あそこ二十四時間やってるから」


「なんていうか、もう平気なのか?」


「多分なんだけど、今夜は行けそうな気がするの。だから大丈夫」


「欲しいものあるなら金出すぞ」


「いいよ、ありがと。こないだ異世界であたしが稼いだお金を換金してくれたじゃない、あれがあるから大丈夫」


「でも二十万くらいじゃなかったか?」


「それだけあれば十分だっても~深夜のスーパーで大したものは買わないよ」


「それもそうか。お前の自転車はバフかけてあるから新品同様で頑丈だぞ、車に轢かれても大丈夫だ。自転車はな」


「あたしは怪我するよ!」


「はっはっは、まぁ気を付けてな。何かあればスマホに連絡するんだぞ、すぐに行くから」


「心配性だなーもう、でもこの感じも懐かしいよね。お兄ちゃん人の心配をする割には一人で異世界行っちゃうし、そっちこそ気を付けてよね」


「ああ今後はな、じゃあいってらっしゃい」


「いってきます」


 雄太が半分寝ているクロエの手を取ってバイバイとしてあげると、梓も小さく手を振り返して家を出た。玄関を鍵で閉めて自転車のキーを取り出し、またがる。大学に入った時にちょっと奮発して買った自転車なので、ライトは自動的につくタイプのものだ。


 湿度の高い夜の街並みをゆっくり自転車は進んで行く。帽子にマスクに眼鏡をしてリュックサックを背負っているので、梓が若い女性でなければ変質者のように思われるかもしれない。だが引きこもってから美容室にも行けてないし、バーバーお母さんに頼りきりなのでその意味でも人の目が気になってしまうのであった。


 田無は東京の端っことはいえ東京の内なので、夜でも割と人が歩いていたりする。案外そういった人達も自分のようになにかしら訳ありなのかもしれない。そう思うと妙な親近感を感じてしまう。


 本当は距離的に言えば関町店の方が近くて花小金井店も二十四時間営業しているのだけど、なんとなく保谷の方が人が少ないような気がしたので、こちらを選ぶことにしたのだ。


 久しぶりに進む夜の街並みは、記憶の中にあるものと大差はなかったが、道中に知らないスーパーができていたりと、目新しさに頭をきょろきょろと振りながらの走行になった。人目に付きにくいように普段付けている眼鏡はもちろんとして、帽子やマスクをしているので人から見るとやはり不審者のように思われるだろう。


 夜間は止まっている信号を渡るために、歩行者ボタンを押す感覚も久しぶりだ。子供の頃はこういったボタン系を両親や兄にねだって押させてもらっていたのを不意に思い出す。今度クロエと出かけることがあったら彼女に押させてあげると喜ぶだろうか、などと考えながらゆっくりとペダルを漕ぐ。


 でたらめな能力を身に付けて帰って来た兄の魔法だけあってか、それともレベルアップのかいあってか、久しぶりの深夜徘徊に興奮しているからなのか、すいすいと嘘のように軽く自転車は進んで行く。


 しんと静まり返る街並みの中で、それでも灯る数々の明かりがまるで自分が帰って来たことを祝福してくれているような気がして清々しい気分だ。


 あぁ自分はなんて小さな世界にこだわっていたんだろう。私が世界を嫌っていただけで、世界は私のことを嫌いになんてなってなかったんだ。この夜、そんなことを勝手に感じている。


 もうじき目的地の保谷駅前につく。かつて有名だった駅前極狭道路事情の悪さはそのままである。平日の朝は大勢通勤通学者がここを通るのだが、深夜の今はほとんどいない。


 目指すスーパーはもうすぐそこだ。

今日の夜もう一話投稿します

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