20 イレギュラーボス
クロエに気を取られているうちに後ろからハンマーで殴りかかった梓。的確に背中にヒットすると、ビキッと全身にヒビが入ってすぐさまボロボロと崩れ去った。その余りの威力に自分が驚いてしまう。
「ほ、ほへえええええ⁉ なにこの威力!」
「そらまぁ腕輪もハンマーもええもんつこわさせてもろてるさかい、あたりまえやわぁ」
「なぜ急に京ことば!」
「ほらほら魔石を拾わんかい、そこに落ちとるやんけ」
「あっはい!」
いそいそと落ちている小ぶりな魔石を拾うと、まじまじと掌の中の輝きを見つけた。それは磨き抜かれた宝石ほどではないが、朴訥で純粋な魔力の輝きを放っていた。
「兄ちゃん、これっていくらくらいになるのかな」
「ん~日本だと五万くらいじゃないか?」
「げぇ! 一日分としたら十分だよ!」
「まぁそうだな、それはお前のものだけど売るのか?」
「ううん、売らない。二人に手伝ってもらって始めて手に入れた魔石だもん、記念にずっと取っておく」
それを聞いてクロエはガーンと驚愕した。思い出の記念に取っておくという概念を初めて知ったのだ。
「ぱ、パパぁ! あのね! クロエとね! パパとね! 最初にね! 行ったの……あの森のね!」
「ああ、クロエが倒したウルフの魔石だろ? 取ってあるよ」
そう言ってさっと収納から小さい魔石を取り出すと、クロエの前に出して見せた。
「あっ! これがそうなの?」
「そうだよ、そのうちペンダントにでもしてあげるからな」
「やったぁ! パパ大好き!」
「俺もだよ」
雄太に抱き着いてちゅっちゅするクロエ。それを見てわなわなとする梓。
「くわーー! なんじゃ貴様らイチャコラしやがって! こちとら引きこもっててチャンスのチャの字もないっつーの!」
「梓はまだ若いんだからこれからだろ」
「あずちゃん若いよ?」
「うう、慰められるとみじめだ……でもいいもん! あたしはここでレベルを上げまくってダイエットに成功してモテモテになるんだもん!」
「おー頑張れー」
「頑張って!」
「しゃーおらー! 次いこう次! ゴーレムでもなんでも持って来いやー!」
それからしばらくはクロエがゴーレムを引っ張って来て梓が一撃で粉砕していくサイクルが完成して、このゴーレムダンジョンの第一層めの敵はあらかた倒してしまった。それを梓に伝えると、彼女はノッて来たのか次に行こうと意欲満々だ。
「いやもうやめておいた方が良いだろ。今は腕輪の効果で元気だが、家に帰ってそれ外すと魔力成長痛が来るからな、お前も知ってるだろ」
「あ~ダンジョン物のドラマなんかでよく見る全身筋肉痛や高熱出すやつね。知ってるけどあれって意外とそうでもないって言うよ?」
「本来ストーンゴーレムは中級者パーティーが囲んで倒すようなレベルの敵だぞ。個体差はあるが、レベル差が大きいほどに痛みは激しいぞ」
「え! そうなの?」
「まあ痛みは抑えてやるが、しばらくまともに動けなくなるだろうな」
「じゃじゃじゃじゃあ、腕輪を付けたまま過ごせばいいの?」
「それだと纏った魔力が吸収されずに霧散するから頑張った意味ないな。楽をするにも限度があるってこった」
「そ、そんな~」
「あずちゃん、大丈夫。今度はクロエがあずちゃんのお世話をするからね!」
「あ~クロエちゃんありがとう、ほんとあたしの天使だわ~」
梓が感動してクロエにうりうりと頬ずりしていると、ゴゴゴゴと地鳴りがして魔素の濃度が急激に高まった。青い空が赤焼け色に染まって嵐が巻き起こり梓はまともに立っていられなくなった。
「えっなにこれは! どうなってんの!」
「あーイレギュラーボスだなこりゃ。最近来てなかったし予想以上に魔素も溜まってたんだなぁ」
雄太は顎に手をやってのんびりと解説するが、梓はすでに半泣きでクロエも緊張している。
「お兄ちゃん! これってヤバくない?」
「まあ普通に考えるとヤバいんだろうな」
「そんな落ち着いてていいの?」
岩が次から次へと飛来して轟音を立ててそれらが合体していき、やがて一体の大きな岩石の魔人となった。見上げるような巨体で、神話世界の伝説を追体験しているようだった。焼け付く空気に呼吸するだけで肺まで痛くなりそうだ。岩の怪物は全身をわななかせて吠える。その衝撃波で髪が逆立つ。
「ガアアアアアアアア!」
「おおお、お兄ちゃん! 早く逃げないと!」
「パパ! あれなんとかして!」
「まーそうだな~……ていっ」
雄太はその場で軽く右手を振った。しかしなにも起こらなかった。
「ちょっとちょっとちょっと! なにしてんのさこんな時に! 真面目にやってよ!」
「あっ。やっべやり過ぎた」
「はぁ? なに言って……」
梓がボスモンスターを振り返ると、いつの間にか動きを止めていた。怪訝に思ってさらに注意深く様子を伺っていると、ピシリと音がして縦真っ二つ、垂直にボスの体はズレ落ちていき、そのはるか後ろの壁や空に至るまで、真っすぐな亀裂が走って広がっていった。
「オ、オオオ、オォ……」
ボス自身も己の身になにが起こったかわからぬままに崩れ去り、儚く消滅していく。そして大ダメージを負ったダンジョン自体もまるで傷ついた己の体を癒すように明かりを消して休眠状態に入るのであった。




