19 ストーンゴーレム
玄関先で話し合うこと数分、ようやく行き先が決まったので雄太は妹と娘を連れて異世界に転移した。向かうのはゴーレムダンジョンだ。
雄太が梓にヒアリングしたところ、生き物系、特に亜人系には会いたくないとのことだった。人間に似ているゴブリンなんかを殺すのは忌避感があるとはダンジョン発生時からの日本でもよく話題にされているテーマなので、雄太も最初はそうだよなと納得した。
次に最も嫌なのが虫系とアンデット系だと言われた。確かに梓は昔からホラーが苦手だし、例のあの虫なんかも家に出るとキャーキャー言って両親に退治してもらっていたらしい。ニートのくせにこき使うんだからとは母の談である。
しかし全ての言い分を聞いていると行けるダンジョンがないことに気が付いた。初心者に人気があるスライム討伐は、それこそ初心者に人気があるので常に誰かしらの人がいるから、異世界とはいえあんまり人間と触れ合いたくない梓には辛いだろう。ではどうするか。
軽く悩んだ雄太が導き出した答えはこれだった。
「わ~すごい! これがダンジョンの中なんだね! と言っても外の景色とあまり変わらないけれど」
「そうだな、ここは鉱山ダンジョンの野外区画だから似ていて当然だ」
「あの空って地球のダンジョンと同じで壁に映っているの?」
「そう、だからここでは一日昼間だし時間の経過がわかりづらい。母さんが用意してくれる晩御飯までには帰らないとな」
「うん! わかった!」
「あいあい!」
二人の元気の良い返事を聞いて周囲を索敵すると、どうやら近くに冒険者はいないようだ。
このダンジョンは離島の外れにあり、鉱物系のモンスターが出没する難所である。ここに来るだけでも最寄りの港湾都市から五日かけて船に乗り、さらに険しい自然の中をかき分けて山に登った先にようやく辿り着けるのがここである。
しかも出てくる敵はゴーレム系が主なので初心者では太刀打ちできない。付近には集落もないので、きちんと計画を立てた冒険者達でないと攻略できず途方に暮れることになるだろう。
そんな不人気ダンジョンだが、逆に人がいないので雄太には都合のいい場所として活用されていた。過去にはクロエも連れてきたことがある所だ。
クロエは名残惜しそうに雄太に降ろしてもらうと、元気に飛び跳ねた。腕輪は外してあるので全力で動ける。
「それじゃあ武器なんだが、ひとまずハンマーを渡しておく」
「えー? そこは剣じゃないの?」
「剣術の心得なんかないだろお前、下手をすると怪我をするし相手は石の塊だぞ。鈍器が一番だ」
「じゃあクロエちゃんは?」
「クロエは素手で十分だ」
「ええ!」
「まあ見てればわかる。クロエ、梓に戦っているところを見せてあげてやってくれ」
「わかったー!」
元気にパンパンと拳を叩くと戦闘態勢をとったクロエは、現われた三体のストーンゴーレムに向かって猛然と進んで一体のゴーレムをそのまま殴って破壊し、二体目を回し蹴り、三体目を飛び上がりアッパーカットで粉砕した。その間十秒もかかってはいない。
雄太がパチパチと手を叩くとクロエはくるりと振り返って父が広げた両手の間に突撃し、雄太は慣れた様子で娘を抱き上げた。
「とまあこんな感じで、次やってみる?」
「できるかぁ!」
「あーじゃあ隠蔽の魔法かけてやるから、ゴーレムが気を取られている隙に攻撃しなよ」
「囮には誰がなってくれるの?」
「普通に俺でいいけど」
「はい! クロエやりたい!」
「じゃあどうぞ」
「やった!」
「え~それはそれでなんだかちょっと気が引けるんですけど……」
「あずちゃんわがままばっかり言ってるよ! もうちょっと頑張って!」
「うう~クロエちゃんに言われるとつらひ。でもうん、頑張ってみる! 目指せメリハリボディだ!」
「めりはいだ!」
「おー!」
「おおー!」
雄太に抱っこされたまま、梓と何度もぺちぺちハイタッチするクロエの様子を見て微笑ましくなったが、すぐさま敵の足音が聞こえてきたので段取りを話し合う。
「じゃあクロエが囮になって敵の攻撃をかわしているところに後ろからハンマーでドーン作戦でいこうか」
「すごいそのままだけど、うん、わかった! クロエちゃんよろしくね!」
「はーい!」
元気に手を上げたクロエがさっそうと飛び降りてストーンゴーレムに対峙する。おあつらえ向きに敵が一体で現れたので、くみしやすいだろう。
クロエはその辺の石を拾って投擲しストーンゴーレムを怒らせると、相手はズンズンと軽い地響きを起こしながら長い腕で攻撃してきた。
その攻撃は岩をも砕くほど重いが、いかんせん図体がでかくて石でできているので緩慢であり、隙は大きいと言える。軽快にかわし続けるクロエを見ながら、梓は緊張を隠しきれなくなって来た。手に汗握るとはこのことであるが、雄太は離れたところでボーっとしている。
ハンマーを構えてなかなか一歩を踏み出せない梓を心配そうにチラチラ見るクロエだが、いかんせん思い切りが悪い。そこでクロエはとっておきを使った。
「できるよあずちゃん! 頑張れ~!」
「うん!」
魔力が乗せられた声援は激しく梓の心を揺さぶり、奮い立たせた。これは一部の魔族に古くから伝えられている能力で、優秀なクロエは幼くして使いこなすことができていた。魔王クラスともなれば一軍全体を励まして無敵の軍団を作ることができる。
「なんとかなれー! おりゃー!」




