14 東京都道253号保谷狭山自然公園自転車道線
明くる日、出勤前に雄太が両親と話していると、クロエが三歳だから七五三の参拝がしたいと母が言い出した。そこでスマホで調べてみると、田無神社では通年参拝を受け付けているそうなので気軽に出かけようとしたら、両親がやれクロエの晴着を用意しなきゃだのカメラマンを呼んで撮影したいだの、雄太の背広を新調しなきゃだの、これを機に写真屋で家族写真を撮りたいだと言い出してとんとまとまりが付かなくなった。とりあえず雄太の背広はそのうち新宿でオーダーすることにして、今日は天気もいいので公園へと散歩に出た。
出かけるのに乗るのは新調した自転車だ。前乗せチャイルドシートの付いたもので、着用が義務付けられているため、クロエ用のヘルメットも購入した。色は赤色で現代的でかっこよく、クロエのお気に入りだ。これを付けたいがためにわざわざ遠くにある小金井公園へと向かうことになったのだ。
まだ寝ている梓のためにクロエの可愛い落書き付きの書置きを残して雄太は颯爽と自転車にまたがった。娘を乗せて大きめのリュックを背負ったら慣れないサングラスのズレを直していざ出発だ。
雄太がサングラスをしているのには訳があって、素顔のまま人前に出ると顔面が良すぎると梓に言われたからだった。
引き締まった体とあいまって、海外の映画スターのようにも見えてしまい、そこに明るい髪色の日本人離れした美少女クロエを連れていると否が応でも目立ってしまうので、じゃあせめてサングラスでもかけるかということになり、今に至る。そしてその姿も妙に似合っており、梓曰くボディガード、母曰くその筋の人に見えるとのことだ。だが見た目がよりいかつくなったことで人も目をあわせなくなるだろうとのことなので、いいのではないかと家族は言う。クロエにも割と好評なことから雄太はいいのか? と思いながらもアプタの専門店一階で買ったサングラスを装着して外出することにした。
「じゃあ行くぞ」
「あい!」
雄太自身久しぶりにちゃんと乗る自転車だが、なんの違和感もなく滑るように走り出した。自転車には雄太が付与魔法をかけており、たとえトラックにぶつかっても折れず曲がらず、風雨にさらされてもサビずに釘を踏んでもパンクせず、常に新品状態以上を保ってタイヤの空気入れも必要ないといった魔術的ハイスペック車体であるわけだが、当然街行く普通の人にはただの自転車にしか見えない。
「パパ早い、早ーい!」
「風が気持ちいいな」
「うん!」
西東京市にある田無付近は駅前にショッピングモールであるアプタがあるし、市役所も近い。暮らしていくには不便のない土地柄であるが、道路事情は悪いと言える。
道幅が狭く、所により車道と歩道が一体になっている場所もあり、過密な住宅地にトラックなどの大型車両も通るので子供が往来するには危険が伴う場合がある。
雄太はなるべく大通りを通り、時間に余裕もあることから迂回をして東京都道253号保谷狭山自然公園自転車道線、通称多摩湖自転車歩行者道に入ってゆっくりと周りの景色を楽しみながらペダルを踏んでいく。
車の通行を禁じて歩行者または自転車専用にした空間を一般的に緑道と呼び、この道もそれにあたる。所により桜が植樹され、花の盛りには非常に多くの人で賑わうのだが、今の季節はすっかり青々とした枝葉が日の光の下に映えている。だがそんな様子も生命力に溢れているようで好ましいと思う雄太だった。
この道の両側は緑化されており、自動車やバイクなどの侵入がないことから子供から大人まで安心して自転車の走行や歩行、ジョギングなどを楽しむことができる。
田無は東京の外れとはいえ緑化されている場所が少ないので、こういったロケーションは貴重だ。雄太は前ではしゃぐクロエに声をかけながら、ゆるゆると自転車を走らせる。すると保育園の裏側を通ることになったので、少しスピードを落としてクロエに聞いてみる。
「ほらクロエ、見てごらん。あれが保育園だよ。友達が沢山いて楽しそうだな」
「そうだね!」
「クロエも通ってみたいだろ?」
「全然! パパと一緒がいい!」
「ああそう……」
笑顔で拒否されて嬉しいやら悲しいやらで再び雄太はペダルをこぎ出した。雄太自身小金井公園へ行くのは随分久しぶりであり、この道を通るのも同様だ。平日の昼間だがお年寄りから子連れ親子まで実に様々な人々が新緑の道行を満喫している。
途中こびとのおうちという畑の一角に作られたミニチュア細工を一緒に眺めてから再び自転車を走らせると、駄菓子と大きく書かれたのぼりが目立つ駄菓子屋が見えた。クロエが入りたいと言うので自転車を止め、店内に入っていくつか菓子を買ってあげるが、それでも二千円もいかなかった。ここでシャボン玉おもちゃを買ったので、公園に行ったら吹いてあげる予定だ。
その後も意気揚々とペダルを漕ぎ進めると、いつの間にか花小金井駅南口まで来てしまっていた。そして気が付く、いつの間にか小金井公園を過ぎてしまっていたことを。
ざざざっと自転車を止めて一言。
「うん、通り過ぎたなこれ」
「ええ~? パパ、おっきい公園行くんじゃないの?」
「ごめんごめん、もうすぐ着くから」
仕方なくスマホで位置を確認すると、ほぼ直線で南進すると公園へと辿り着くようだ。気を取り直して雄太は再び自転車を進めた。




