11 すき焼き
「すまん遅くなった」
雄太が梓やクロエと別れてから二時間ほどが経過していた。謝りながらリビングへ入ると二人はなにやらスマホで動画を見ているようだ。
「あっお帰りー」
「ただいま。なに見てるんだ?」
「ダンジョンの攻略動画だよ。有名な人を順番に見てるけど、クロエちゃんが辛辣でラブなの」
「は?」
「見てるとわかるよ」
「ああ全然ダメ、相手の動きがまるでわかってない。こんなんじゃこの先進めないんじゃないかな。魔力の練り方も雑だなぁ」
「……ね?」
「おっ、おう。まぁ楽しんでくれてるならなによりだけど、もっと他に良さそうな動画なかったのか」
「こっちのダンジョンが気になるんだって。そういやお兄ちゃんさ、唯さんに連絡しなくていいの?」
「あー……いいよ別に。今更顔を出したところで反応に困るだろ。なんだか有名になっているみたいだし」
「かつて一緒に戦った幼馴染が国内最高峰のAランク冒険者になったのは鼻が高いんじゃないの?」
「それを言うなら俺は異世界を救った勇者様だぞ、頭が高い、ひかえおろう」
「はっ、はは~おみそれしました。アイス下さい」
「なんだそりゃ、モナカアイスでいいか?」
「やったー!」
「あーパパ、クロエも~」
「ん、どんなのがいい?」
「丸くて並んでるやつ!」
「パノアイスね。はいはい」
パノは箱に入っているアイスで、開けると六つのチョココーティングされたアイスが入っており、刺し棒であるピックが入っていて、最近クロエはこれを洗って集めている。変なものを集めたくなるのは子供あるあるだ。
「あっ! これなんか形が違う!」
「おっ、星が出たな。それあんまり出ないやつだからラッキーだぞクロエ」
「やったー!」
それは俗に言う星パノというやつで、四・八%の割合で当たるものらしい。するとなにを思ったのかクロエは星パノを刺して雄太の前に出した。
「はい、パパにあげる」
「自分で食べていいんだぞ」
「いいの、クロエパパが大好きだから!」
「……じゃあいただきます。美味しいよ、ありがとう」
「えへへへ♡」
ニコニコと笑う娘の頭を撫でながら、雄太は目を細めた。
「はっ! こ、これは一体なにを見せられているんだ!」
「パパこれもしまっといて」
「はいよ」
「ただいまー」
「おかえりー」
その時両親が連れ立って帰宅してきた。手にはエコバッグに入らなかったのか追加で購入したであろうレジ袋が握られている。
「待たせたね、ご飯にしましょ。お腹空いたでしょ」
「おばあちゃん、今アイス食べてたのー」
「あら、いいわねー。でもご飯食べたくなくなっちゃわない?」
「ちゃわないよー!」
「ふふふ、もうちょっと待っててね」
「なにか手伝う?」
「いいから雄太は座ってなさい。梓は来なさい」
「ええ! なんで!」
「自炊に慣れないと将来お嫁に行く時に困るでしょ」
「お兄ちゃんに養ってもらうからいいもん」
「バカなこと言ってないで早くしなさい。パンチするわよ、シュツシュツ!」
「わーパンチやめてー!」
するわよと言いながらもうすでに軽めのワンツーパンチを繰り出してくる母に根負けして、梓はしぶしぶキッチンに赴いた。
後に残された男二人とクロエはテレビを見ながらまったりと時間が過ぎるのを待った。
「父さんニュース見る?」
「いや、好きなの見て良いよ」
「クロエ、じゃあなにがいい?」
「動物さんのがいい!」
「そうか、じゃあこれかな?」
ケーブルテレビの番組の中で良さそうなのを見つけてアフリカの水場に来る動物の特集番組をみんなで見る。鳥やガゼル、ワニ、ゾウやシマウマなど多種多様な動物達に幼子は釘付けになった。
「わぁ、地球にも色んな生き物がいるね!」
「そうだね」
「このおっきいのは近くにいるの?」
「あ~野生のゾウは日本にはいないな。でも動物園に行けば会えるよ」
「動物園行きたい!」
「じゃあそのうちな」
「やったー! 背中に乗りたい!」
「いや、それはちょっと難しいな……」
「ははは、乗れるならおじいちゃんも乗りたいな」
クロエはゾウが気に入ったようで熱心にテレビを見ていた。そのうち徐々にテーブルの上に皿やら箸やらが並べられて雄太親子と家族も全員席に着いた。すき焼きの始まりだ。
テーブルの真ん中に置かれた鍋の中にはすでに熱々であり、牛脂でネギを焼いてから牛肉と砂糖を入れてさらに炒める。そして割り下を鍋に注ぎ入れると具材の配置を整えながら、しいたけ、豆腐、しらたき、春菊の茎を半量加えてぐつぐつと煮込む。後は煮えたところから卵を付けて召し上がれ。
雄太が自分の小皿に片手で卵を割り入れてかき混ぜるのを見て目を輝かせたクロエが、自分もやりたいと言うのでやり方を教えてあげた。
クロエは慎重に卵を両手で持って軽く机の端にコンコンとぶつけた。気が付けばクロエの一挙手一投足にみなが注目していた。
ゆっくりゆっくり卵の殻を持って左右に割ると、なんとか卵は小皿の窪みに落ちた。
「わぁ凄いねクロエちゃん、よくできました!」
「おおやったねぇ!」
「えへへ」
雄太は喜ぶクロエの小皿を覗いて念動魔法で少しだけ入ってしまった殻を取り除いてあげた。それを見て少ししょんぼりするクロエを雄太は励ました。
「なに、最初にしちゃ上出来だ。才能あるよ」
「そうなの?」
「ああ、何事も完璧にはいかないさ、繰り返して覚えるもんだからな」
「ねね、じゃああたしのもやってみる?」
「いいの? あずちゃん」
「うんうん、どうぞ!」
「よーしいくぞー! ……どうだ! やったー! 殻入ってないよパパ!」
「おーうまいもんだ」
「にひひひ」
のけぞって笑う子の頭を落ち着くまで撫でて、ようやく座らせると、雄太は改めてすき焼きに向かい合った。




