10 異世界の冒険者ギルド
「わぁぁぁぁぁぁ! 逃げろ逃げろ!」
「タリム、もっと速く走れ! やられるぞ!」
「そんなこと言ったって無理だよぉ! 僕は魔法職だぞ!」
「ウガァァァァ!」
のどかな山中に獣声が轟いて、三人の少年は懸命に走った。後ろには十数名のハイオークの群れがいる。愚かにもこの少年達は彼らの縄張りに脚を踏み入れてしまったのだ。そして残念なことに魔法使いの少年が派手にすっ転んでしまう。
「痛だぁ!」
「タリム! 畜生、こうなったら戦うしかねぇ! フィン、俺が引き付けるからお前達は逃げろ!」
「エド! お前こんな時にかっこつけてんじゃねーよ!」
「うるさい早く行け! うおおお!」
エドと呼ばれた少年が愛剣を引き抜くと、颯爽とハイオークを斬りつけた。剣の腕前はまだまだだが、剣自体は大層な業物であるらしく、バターのように胴体を薙いで先頭の一体を倒した。
このことによりハイオークの集団も若干慎重になるが、数がいるのでゆっくりとエド達を囲みだす。
「どうだ、見たかオークども!」
「ーー悠久なる時を超え燃え盛る炎よ! 汝が力を示し我が敵を退け給え! ファイヤーボール!」
「おりゃあ!」
「グワアアア!」
少年魔法使いタリムが放った紅蓮の炎魔法は二体のハイオークを戦闘不能にし、手斧を持ったフィンの攻撃は易々と敵の右足を斬り飛ばした。
「お前達、なんで逃げない!」
「お前一人に良いかっこをさせるかよ」
「そうそう、それに……逃げるのが遅すぎたみたいだよ」
エド達の周りにはハイオーク達が群れを成して取り囲んでおり、いつの間にか増援も来ているようだ。例えここで統率個体を倒しても見逃してくれそうにはない。
「グオオオ!」
リーダーの鶴の声で、じりじり間合いを詰めていたハイオーク達が一斉に襲い掛かり少年達が死を覚悟したその時、晴天の空から少年達の上だけ除いて辺り一面に青い稲妻が降り注いだ。
ただ一撃の雷でハイオークの群れを確殺したその魔法の威力に、少年達は身をすくませて地べたに座り込んだ。
そんな彼らの前に瞬間移動した雄太は腕を組んで腰が抜けた子供達を睥睨する。
「お前ら、そんな腕でなぜここにいる」
「あ、え? なんで……」
「話にならんな、近場のギルドはあそこだったか。ふん」
雄太が魔法を使うと少年達を巻き込んで一気に山の麓にある冒険者ギルド内まで転移した。少年達はカエルを潰したような声を出して這いつくばったが、雄太は悠々と腕を組んで宙に浮いている。不愉快そうな三白眼でギルドの面々を圧倒していると、職員が思わず悲鳴を上げた。
「ひっ! あなた様はもしや、ゆ、勇者様なのでは!」
「その通りだ、ギルド長を呼んでくれ」
「はい、今すぐに!」
先ほどまで討伐帰りの冒険者達で賑わっていたギルド内が、一転して水を打ったように静かになった。誰も意識して彼を見ないようにしていた中、冒険者になりたての少年が疑問を口にした。
「なあ、なんでみんなあいつを怖がってるんだ?」
「バカ! 静かにしろ! 死にたいのか! 勇者と言えば今この世界に一人しかいないんだよ! 二つ名を知らないのか! 敵も味方もまとめてぶっ飛ばすところから血まみれ勇者や狂乱なんて言われているんだぞ! わかったら大人しくしてろ! 見るな! 目を合わせるな!」
「ああわ、わかった……」
「いやいくらなんでも見られたぐらいでは殺さんぞ」
「ひいい! 勘弁してください!」
「脅してるんじゃない。もう戦争は終わったんだ、みんなも楽にしてくれ」
「は、はい。ありがとうございます!」
雄太が冒険者と心温まるやり取りをしていると、荒い息を弾ませてギルド長であるエルフの女性が駆け込んできた。
「勇者様、本日はお日柄も良く当ギルドにおでかけくださいまして、誠に……」
「免礼。今日はこいつらの話をしにきた。ホームギルドはここか?」
「失礼いたします……初めて見る顔です、所属はうちではないかと」
「ふん、お前らのリーダーは?」
「はい、ぼ、僕です!」
「名前は」
「エドです!」
「よしじゃあエド。なんでお前らは三人だけでシルバーホルンを登っていたのか説明しろ」
それを聞いてギルドの面々はひそひそ話を始めた。曰くなにも知らない素人が山を登るのは死にに行くようなものだ、あそこがどういう場所なのか知らないのかなど様々だ。少年達はそれらの声を聴いて益々顔を青くした。だがリーダーのエドは意を決して話し始めた。
「はい、僕達は王都の学院で学ぶ幼馴染で、夏季休暇を利用してこの地までやってきました。魔境と名高いシルバーホルンにどこまで僕達の実力が通用するのか試してみたかったんです」
「途中このギルドに顔を出したか?」
「……いえ、話をすれば無謀だと止められるのはわかっていたので」
「当たり前だ!」
「ガキがなに様のつもりだ!」
周囲がヒートアップしてきたので雄太が右手を上げた。すると潮が引くように静かになった。雄太は諭すように語り始める。
「いいかよく覚えておけ。学院でお前達は優秀なんだろうが、外の世界では通用しない。あの山は登れば登るほど厄介なモンスターが生息していて、たまにあのハイオークなんかが集落を築いて麓に攻めてくることもある。冒険の結果お前達が死ぬのは自由だと言えるが、その無駄に強力な武具はすぐにハイオークどもの武器として使われ、冒険者達を殺すのに使われただろうな。今まで似たようなケースを何度も見てきた。己の愚かさが後に味方を殺すのだと知れ」
「……はい、本当にすいませんでした」
少年達はみな涙を浮かべてうなだれていた。しかしギルド長はしっかりしたもので、慌てて質問する。
「勇者様、ハイオークの群れが集落って本当なんですか⁉ それならば急いで討伐隊を編成して……」
「ああ心配ない、俺がもう全て潰した。まだでき始めたところだったからしばらくは平気だろう」
「え? あっ……はい、そうですか。ありがとうございます」
「収納してあるんだがいるか?」
「はいぜひ!」
「じゃあ解体場へ行くか。と、その前にエド、お前達に言っておくが、これを教訓にしたら次は間違えないことだ。最初の間違いは誰でも犯すものだが、繰り返さなければいいんだ。励めよ」
「はい、ありがとうございました!」
「それと、騒がせて悪かったなみんな、これは詫びの酒と肴だ。適当に配って余れば職員や貢献者に分けてやってくれ」
雄太は収納からドンドンと二L入った大容量ウィスキーとビール、そしてチーズなどの乾きものを出してやった。どれも現代日本で買った値段の割に味がいいと評判の代物だ。冒険者達は見たこともない異国の酒だと盛り上がって騒いだ。ギルド長が血相を変えて叫ぶ。
「ちょっと! 私の分残しておいてよね!」




