表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚された  作者:
4/5

命名された

 今にして思えば俺が召喚された季節は春くらいだったのだろうか、今は初夏に差し掛かるくらい、日毎に気温が上がってきており本格的な夏の季節を思うと今から憂鬱になる、夏は嫌いだ、俺は毎日のように獲物を獲りに行き、首尾よく持ち帰った。集落では英雄扱いで迎えられている。

 俺のメンバーだけで干し肉の確保は充分になったので、手のすいたタヌキ達は畑の拡張、野草採集、干し肉作りとシフトしていった。それでも人手が足りないらしく、近くの集落から応援を頼んでいるらしい。


 獲物の多くはシカが多い、手槍で前脚の付け根を狙い行動力を奪ってから接近しとどめを差す、遇にイノシシも狙ったが思っていたとおり危険な相手であった、厚い毛皮を纏い、生命力も高くそうそう倒れない、何度も何本も手槍を当て、出血で体力を奪い力尽きるのを待つ、タヌキ達は以外にも連携と回避能力に優れている、口笛を鳴らし、離れた場所でもコミュニケーションが執れるようだった。


 沢の近くにはヤギもいた、これは捕獲対象だ、乳がとれるようになるのでタヌキの集落で冬になるまで飼う、冬の間に与える餌がないので瘦せ細る前に食肉にするか、人里からくる行商との物々交換にするらしい、貨幣のあるみたいだがこの集落では使われていないようだ。


 当面の課題だった言葉の壁も、世話役の子タヌキ、森で迷子だった子との共同生活のおかげですでになくなっている、タヌキの集落では人語を主に使っているので習得しやすい環境だったといえよう、獣人語もあるらしいが、俺には発音がしづらいので覚えても利用価値は薄そうだ。


 この集落のタヌキ族は一人立ちが早い、親の番は子が六歳を過ぎると親の住処から巣立ちさせるらしい、成人と云える十二歳まで兄弟、姉妹で寝床を共に生活するらしい、ロロに兄弟姉妹はいないので空いてる住処に俺が放りこまれた形だったわけだ、その子タヌキ、名前はロロと言った、当初は薄汚れた灰色のローブを着こんでいたが初夏にもなると着なれたローブを仕舞い、布でできた肌着のような服で過ごすようになった、メスだった。体毛は濃い茶色だろうか、しっぽも短いながらもあった、頭の上に少し垂れた耳がありふちは黒い、目も少し垂れ気味か、だがその目は澄んだ青色をしており、少し綺麗に感じる事もって目があうたび覗き込んでしまう。


 目が綺麗というのは美徳であろう、寝床が一緒で茶色いモコモコした存在に占拠されていてもその目を見ると腹も立たない、マーキングの習性もあるらしく毎朝体中ハムハムとしてくるのも慣れ切ってしまった。その後は櫛で背中をすいてやらないと拗ねるので大人しく言われたまま応じる、どちらが世話役なのかわからない。


 今では名前もある、ここで住むうちにロロに名付けてもらった、自分ではそう思わないが名前というのは無ければ無いで不便らしい、名付けてもらうまではそう思っていた、なぜだろうか召喚された際には自分にとって大事な事は覚えていて、記憶にないのは大事でない証拠だとそう思っていたが間違いだったようだ。


「じゃあ、だんなさまの名前は今日からカヌイです」


 今でもその場面は思い出せる、ロロのはにかんだ笑顔、向けられた小さな小さな指先、一晩考えたのよと小さくこぼすようにつぶやいた唇、その自分の胸から沸き上がった感動らしき衝動、召喚された身でありながらよいのかという葛藤、目のふちから涙が零れたのかもしれない、それをみて慌てたロロの姿に感謝の気持ちが沸き上がった、カヌイというのは獣人語で別の意味があるのよと言っていたがどうでもよかったので聞かなかった。


 言葉も覚え、集落の生活に慣れてくるといよいよ行動に移らなければと思うようになった、人里に向かい文明に触れるのもよいが気がかりはダンジョンの様子だ、黒の柱の眷属が溢れてくるならここの集落もいつか無事ではすまなくなるだろう、世話になったロロの生活は守りたいが俺にはその力がない。


 ロロは基本無口であった、なのに俺に言葉を教えるためあらゆる物を指さしては言葉を乗せて教えてくれた、あらゆる言葉をロロから聞いた、教えてもらってばかりでは申し訳ないので俺も日本語を教えた、この世界では召喚された一部の者しか使わない言葉、なのに俺がこの世界の言葉を覚えるよりロロが日本語を覚える方が早かった、この子は賢い、俺に言葉を教えるために覚えたのだ、そう思うといたたまれない気持ちが沸き起こり、習得に熱が入るようになったのだった。


 結局、ロロに名を貰い、言葉を教えて貰い、世話をして貰いと、貰ってばっかで申し訳なく、召喚された身であるのにおこがましいが、何か一つくらい返したい男の見栄があるのかもしれない、ロロだけならこの集落を捨てて連れて逃げる事は可能だろうか、それを望まなければ共に集落ごと見捨てられるだろうか、無理である、今出来る事はダンジョンの様子を斥候として探る事くらい、張れる見栄はそれくらいである。


 「というわけでダンジョンを見にいこうと思います」と俺はロロに伝える。

 「意味がわかりません」とロロの返答はこうだ。

 「俺が召喚された身であるからです」正面から目を合わせて答える。

 「召喚とやらで白のお柱様の役目で行くのですか?」


 確かに、役目もある、役目もあった。だが今は……


 「役目を果たさないと帰還させられるかもしれません……」

 これはどうだろう、ありえるかも知れないとふと思う。


 「なら、ロロはだんなさまに付いて、お役目を果たすのを見届けますから」

 ロロの決意は固いようだ、口を結びそれ以上言葉を交わす事はなかった。

 





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ