迷子をみつけた
人里に向かう途中、森の中で迷い子をみつけた、見つからないようにそっと様子を伺ってみる。
身長は60㎝くらいだろうか、キョロキョロと周りを伺い誰かを呼ぶように歩いていた、薬草のたぐいでも摘んでいたのか手は草まみれだ、灰色の薄汚れた長袖のローブを頭からかぶっており、その袖口まで草を摘んだ後が付着している、夢中になって摘んで帰り道に迷ったか、もしくは何かに襲われて逃げてきたのか……
どうする……突然目の前に現れても不審者か人攫い、最悪逃げ出すかもしれないなと思い少し離れた場所で呼び込む事にする。
少し開けた場所で枯草を集め焚火の準備をしているようにみせかける事にした、ガサゴソしていれば音を聞いて近寄ってくるかもしれないし、煙の臭いで気づいてくれるかもしれない。いや気づいてほしい。
人に自分から近づいていくのは難しい、言葉の壁もある、慎重に慎重を重ねなければ。
無害だ、無害を装え!いや無害なんだけども……少しでも繕わなければ!
枯草に火を付け、手持ちの兎肉を焼く準備を始める、気づいたか? いや気づいてるよな? 気配を探る、こっちに近づいてきているのに安心する、背を向けておこう、気づいていない振り、そう、こっちは気づいてなんかいないぞっと演技をし続けるのだ。
背中の気配を感じながら大きく伸びをし寝転んでみる、振り向いてはいけない、気づいてる雰囲気も出してはいけない、無害、無警戒を装うのだ……五メートル……三メートル……その時を待つ……
そして声を掛けられる、この時を待っていたぞ! ちょっとビックリした体で振り向く……そこにはタヌキがいた、ぱっと見た感じでは人の子供くらいに思っていたのだが、顔がタヌキだったとは本気でビビった、だがここで取り乱してはいけない、自制しなければ策は成らない。
寝転んだ体勢で半身を振りむかせ、下から顔を覗き込む……
やっぱりタヌキだ、獣人ってやつだろうか、ローブを頭から被っているので隠されてはいるがその中にはケモミミがついているのだろうか……
「ドウシタ?」
通じないであろう日本語で声を掛けてみる、喉は乾いていないか? 腹すかしてないか? 出来るだけ優しく囁く、焚火の反対側に座るよう手振りする、こちらから距離を縮めるような事はしない。
ピョコピョコと擬音をつけてもいいくらの足取りで俺の反対側に座る子タヌキ、ローブで隠れてるのだろうかしっぽは見えない、残念。地べたに腰を下ろし正座を崩した座り方でローブからあんよが二本飛び出している、焼いている兎肉に興味津々な様子である。
焼けつつある兎肉をスンスンと嗅いでいたので食べてもいいよと手振りする、手に取ってかぶりつきだしたらチャンスだ、人は食べたら……水を欲すのだから!
そう、ここで距離を最大限縮める! 水筒の手渡しだ、さあ手を伸ばしてこい……さあ……さあ……そして……
我が策は成り! 俺の手から水筒を受け取った! 言葉は通じないが警戒を解いた証だ!
俺の水筒に口を付けゴクゴクと水を飲む、口元から零れた水滴を汚れた袖口で拭いて俺に水筒を返す、細々と自分の状況を話し出したのだろうか、何を喋っているのかわからず俺は途方に暮れてしまう。
微妙な時間がどれだけ流れただろうか、暗くなる前にこの子を送り届けなければ、オーリから聞いた人里まではまだ距離がある、ならば近くにタヌキの巣でもあるのだろうか……
気配を探る、いつもより更に遠くまで範囲をひろげる、意識を空に飛ばす、上空から俯瞰したイメージで目の前にいる子タヌキに似た気配を、……あ、いたわ、三十くらいの気配、集落っぽいな、歩いて一~二時間くらいの距離だろうか、殺気だっているのか慌てているのかが気配で伝わってくる、多分ここで当たりだろう。
周辺を四人組のグループが三組ほど巡回している、この子タヌキを探している? 昨夜から迷子だったとしたら親タヌキはさぞかし心配しているかもしれない、タヌキだらけの集落に入るのは不安なので近い気配に引き渡すのが得策か、そう決断して子タヌキに声をかける。
「イエ、オクル」 「ダイジョウブ」 目を合わし、そう力強く、心配されないように伝える。
子タヌキはいつのまにやらどこから出したやらわからない木の実をほおばっていたらしく、俺の言葉に反応しこちらに振り向きぱあっと喜びを体全体で表し俺の背中に上りおんぶのような状態に収まると肩越しにあさっての方向を指さす、餌付けは成功したようであるがそっちじゃない。
こうして迷子の子タヌキを送るミッションが始まったのであった。




