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「…いやいやいやいや!! 明らかにおかしいですよ!! 瞬殺って!! しかも惨い!!」
しばらく二人を呆然と見つめていた春人だったが、ハッと我に返り今出来る限りの全力の突っ込みをする。
彼等と敵が会合してから、恐らく1分すら経っていない。それなのに、この部屋には無惨にも既に2つの死体が転がっている。1つは心臓の無い死体。そしてもう1つは頭と胴体が離れている死体だ。
明らかに人の出来る所業ではない。春人の目が捉えていたのは素手で心臓を抜き出した敷島の姿と、蹴りで敵の頭を吹き飛ばした飛鳥の姿。
「…? 何か不明な点がありますか?」
「今この場で起きた大半が不可解なんですけど…」
春人の全力の突っ込みに対して、何でもないように反応する飛鳥。さっき目の前で凄惨な殺人を犯した人間とはおよそ思えないその反応に春人は脱力する。
「あー…確かにちょっとやり過ぎたか? せっかくだし、派手な感じでいこうと思ってたんだが」
未だに手に相手の心臓を握っている敷島はそう告げる。派手なことには派手なのではあるが、派手と感じる前にグロさがまず先にやって来てしまう。
「…生身でここまで出来るもんなんですか…?」
ちら、と転がっている死体に目をやり質問する春人。どこをどう見ても、どう考えても武器を持たない人間に出来るような殺し方ではないのは明白だった。
「『over time』中の『over worker』は多少なりとも肉体強化されてるんだよ。当然個人差はあるけどな」
『over time』下では、どうやらそれ以外の時間よりも肉体の強化が為されているらしい。確かによくよく思い返してみれば、雨と初めて会った直後、彼女は生身の身体で20mは下らないであろうビルの上まで跳躍していた。
あれは今思えば肉体強化の賜物だったといえる。であれば、目の前で起きたこの所業の説明も…一応はつくだろう。
「敷島は馬鹿力なので生身で出来ますが、私は能力込みなので。私の右足をよく見てください」
「…? 穴が空いてますね…」
飛鳥の履いている靴かかとの部分には、わりと大きめの謎の穴が。ここは確か飛鳥が戦闘中に右手で触れていた部分だ。
「はい。これは簡単に言えばジェット噴射口のようなもの。私の能力は『右手で触れた物体に射出口を付与する』になっています」
飛鳥の靴の踵から物凄い出力の風が噴射される。これを利用して、飛鳥は頭を吹き飛ばした威力の蹴りを実現させた、ということになる。
「…なるほど。これならあの蹴りにも納得ですね…」
女性である飛鳥は肉体強化をされてるとはいえ、頭を吹き飛ばす威力の蹴りが出来るとは考えにくい。しかし、能力を使えば話は別だ。
そしてそれよりも、春人が気になっていたのは…
「え、てことは敷島さんは能力使用無しなんですか!?」
「私は能力込み」、ということは必然敷島は能力を使っていないことになる。能力を使わないで、彼は心臓を引き抜いてみせたというのか。
「ははは! 俺のはまた今度な!」
そう言って豪快に笑う敷島は、どうやら規格外の強さであるようだ。




