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それが隠されていた、その前の言葉とはうって変わって明確に怒気と敵意を剥き出しにした二人の言葉に圧される敵。
それを直に向けられていない春人でさえも、気を抜くと身体の震えが止まらなくなってしまう。場数を踏んでいない春人にとってこの二人の威圧感は、今まで触れたことのないものなのだから。
殺意の込められた言葉に圧されていた敵二人だったが、それを何とか振り切りゆっくり歩いてくる飛鳥と敷島に襲い掛かる。一人を二人で狙わずに、一人に対して一人で向かう。
実力差のはっきりしている相手には数で勝つというのは常套手段だ。だがしかし、今それをやるともう一人の化け物を放っておくことになる。そうすることによって彼等に待ち受けているのは無惨な死だけだ。
「非常に冷静でいい判断だ。だが…」
人海戦術を使わなかった敵に対して素直に誉める敷島。否、使えなかったことは敷島にも十分に分かっている為、皮肉でもあるかもしれない。
「サシで私達に勝てるとでもお思いで?」
飛鳥の言葉の次の瞬間に、敷島に槍が突き出され飛鳥に斧が降り下ろされる。
素人目から見れば、避ける事など不可能に見えるその一撃。だが、それを二人は軽く避けてみせた。しかも最小限の動きだけで。
そのすぐ後、敷島は槍を突き出してきた敵の左胸に右手の全ての指を突き付ける。そして、指先に全力の力を込めて右手を左胸へと押し込み、それを『引き抜いた』。
「がっ…!? あ…?」
敵の悲痛な言葉よりも先に飛び出てくるのは大量の真っ赤な鮮血。そして、普通の人間であれば見慣れないであろう、ある『臓物』。
「悪いな、さっさと終わらせたかったもんで」
そう何でもないように呟く敷島の右手に握られているのは真っ赤に染まった心臓…らしきもの。まだ脈を打っているのが逆に恐ろしい。
その一方で飛鳥も斧による一撃を避けた後、自らの右足の後足部を右手でそっと触れる。
そこに少し時間を掛けた為、斧による一撃がもう一度やってくる。横に薙ぎ払うような一撃が襲い掛かるが、その斧が飛鳥の体を捉えることはなかった。
「なっ!? 消えた!?」
完璧に捉えたと思っていた敵は、目の前から姿を消した標的に疑問を呈する。その『後ろ』で飛鳥は、敵の肩を優しく叩いて囁きかける。
「…後ろ、ですよ?」
「!! いつのまn」
飛鳥が後ろにいると分かった敵は彼女を視認しようと首を後ろに捻る。
その後ろに捻られた頭に飛鳥の右足による物凄い威力の蹴りが突き刺さる。そして、その頭と胴体は綺麗に『分離』した。
胴体から離れた頭が、その勢いのまま壁へとぶち当たり壁を赤く染め上げる。その少し後に胴体では血の噴水が出来上がっていた。
「…随分と骨の無い相手でしたね」
「あぁ、全くだ」
そう呟いた彼等を、春人はただただ呆然と見つめていた。




