1-34
春人を連れた側近二人はほぼ無言のまま地下から地上へと向かう階段を上がっていく。
既に春人の腕は掴まれてはおらず自由になっているが、もう引き返すといった選択肢は存在しない。戻った所で白亜にどやされるだけであり、見てこいと命じられているのだから。
階段を昇りきったところで、春人にもようやく本当に敵がいるのだと察せられた。『over time』の異様な雰囲気も相まって、何とも言い難い嫌な感じがそこにはあった。
「…あっちだな」
春人には感じられただけだが、この二人は格が違う。ここまで来てしまえば敵の正確な位置まで彼らにははっきりする。
敷島が指差した方向は、先程まで全員がいた白亜の部屋だった。すぐさま3人はそこへと向かい、大きな扉を開く。
「…お、まさかそっちから出向いてくれるなん…て…」
扉を開いた先には二人の男が。男の一人がこちらに気付いて言葉を発するが、その言葉はすぐに詰まる。
なんと表現したらいいのか分からないが、目の前の男二人は完全に面を食らっている。予想外の事態が起きた、といったそんな顔をしている。
「…まさか、いきなりこの二人と出会うとかツイてないですね…。雑魚を数人殺ってから逃げようと思ってたんですが」
男のもう一人、眼鏡の男が物憂げに呟く。どうやらこの口振りだと飛鳥と敷島の事を知っているらしい。
「お、俺達のこと知ってるのか。まぁ、俺はお前らのこと全く知らないけどな」
「恐らく仲間から聞いたのでしょう。運が悪かったですね」
その言葉を聞いて、飛鳥と敷島は言葉を返す。口調こそいつも通りであるのだが、その裏にあるものを実際に隠しきれてはいない。
それを敵も感じたようで、どちらも冷や汗を浮かべて少しだけ後退りする。もうこの時点で勝負は決まったといってもいいかもしれない。
「おい…どうすんだ。逃げるか?」
「…逃げられる訳ないでしょう? …やりますよ」
飛鳥と敷島のその威圧感に蹴落とされそうであった二人だが、何とか持ち直して各々『over works』を発現させる。どちらも変化の能力であるようで、手には槍と斧が現れていた。
その反面、飛鳥と敷島は丸腰だ。敷島に至ってはポケットに手を突っ込んだままである。
「だ、大丈夫なんですか…?」
流石に武器ありの相手に対しては分が悪いのではないか、と危惧した春人は二人に問いかける。しかし、その疑問は全くの愚問であったのは言うまでもない。
「まぁ、見てろ」
「久し振りに楽しませてくれるといいのですが」
飛鳥と敷島は、武器ありの相手に対して恐怖を抱くでも不安感を募らせるでもなく、ただ笑っていた。それは慢心や油断などの笑みではなく、高揚感からくるもの。
曰く、笑顔というのは元々威嚇に用いられたものであり、それを本当の強者が使えばその本来の意義を取り戻す。実際にその笑顔を見た敵二人は恐怖を隠し切れていない。
「なぁ…確か雑魚を何人か殺る、って言ったよな?」
「言ってましたね。私達に会ってツイてない、とも」
「それに関しては正解だ。お前達は本当にツイてない」
「私達に会った挙げ句、私達の地雷を踏んだのですから」
淡々と会話を重ねる飛鳥と敷島。二人の間で交わされている会話だが、その実は目の前にいる敵に向けての言葉。
そして、最後の言葉を告げる前に飛鳥と敷島は敵に向かってゆっくりと歩き出す。
「いいか、よーく頭に刻み込め。そして反芻しろ」
「ここに、『雑魚』など一人も存在しないということを」




