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over time  作者: 森坂 輝
『over workers』
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「あら、珍しいわね。『移動』系は扱い難いから結構嫌われるのだけど」


「こっちの方が理解しやすくていいですね。上手く使えば面白いと思いますよ」


心なしか、それについて語る春人はこれまでで一番生き生きとしている気がする。そうなるのも無理はない。彼はずっと勉強をしてきて、一番得意だったのは理数科目だったからだ。


物体と物体を入れ換える、位置を移動させるといった能力に重要となるのは緻密な計算と予測だ。ただ闇雲に能力を使ったところでその能力の力は十分に発揮されない。


「ふぅん…。じゃあ、ちょっと確かめてみましょうか」


そう言って白亜は、すぐ近くにあった野球ボールを手に取り春人に投げ渡す。


「それに『右手』で触れて意識を集中させてみなさい。きっと頭に能力が浮かぶはずだから」


それを受け取った春人は、白亜の言う通り右手でボールを強く握る。そして、意識をその触れているボールに集中させると…不意に頭の中には『自分に出来ること』が何なのかが浮かんでくる。


その頭に浮かんできた、彼だけの『over works』を瞬時に理解した春人は…無言のまま口元に楽しげな笑みを浮かべた。


「ちょ、ちょっと、ハル…。凄く怪しげな顔になってるけど…」


「え…あ、あぁ、すいません…。今、笑ってましたか?」


「とても楽しそうで悪そうな笑顔だった」


雨のその言葉は実に正しい。新しい玩具を与えられた子供のような笑みであり…、または新たな悪巧みを思い付いた悪人のような。今までの彼からは想像もつかない程の、そんな笑顔。


「…まぁ、いいわ。それで? どんな能力なのよ?」


白亜のその言葉に春人は無言で頷き、持っていたボールを常設してあったテーブルの下に置いた。


そして彼がテーブルの上に『左手』をかざすと、そのボールは瞬時に『春人の左手』に表れる。


否、これでは説明不足だ。彼が触れていたボールは、確かに一瞬の内に春人の左手に表れたのだが。


その前に、不可解な現象が起きているのだ。点と点の移動では有り得ない、不可思議な現象が。


「…驚いたわ。そういう能力なのね…」


「え、全然分からなかったにゃ! 『移動』系ってのは分かったけど…」


白亜は春人の能力が分かったようだが、桃乃は理解出来ていない。春人の能力は、ぱっと見ただけでは触れた物が左手に移動する能力なのだが、その実は少しだけ違っている。


「桃乃、テーブルの上見てみな」


レシウスも分かっているようで、桃乃にテーブルの上を見ることを促す。その隣では姫も感心したような目線で春人の事を見ていた。


レシウスの言葉を受け、テーブルへと近付く桃乃と雨。どうやら雨もまだその能力の全貌を理解出来ていないらしい。


「…!? なるほど、そういうことだったのかにゃー…」


「これは、確かにハルが笑う気持ちも分かる」


桃乃と雨の目線の先には、『ボールが丁度一つ通れそうな穴』があった。それは、春人の左手とボールが元々あった場所の直線上に位置する。


「『右手で触れた物体を左手に最短距離でくっつける』。…これが僕の能力みたいです」


桃乃のような点と点の移動ではなく、線での移動。それも、最短距離でくっつけるということは、間の障害物を無理矢理にでも通り抜ける性質があることになる。


雨のように肉弾戦を好むタイプには刀に変化させる能力は最適なものといえる。そして春人のように頭で戦略を考えるタイプには…またこれも最適だといえるだろう。


「まさか、こんな短い時間で能力の本質を理解するなんてね。思ってた以上よ、ハル」


素直に春人を褒め称える白亜。得た能力というのは使うのは簡単であっても、それを十分に理解することは難しい。


これで白亜と側近二人以外の能力ははっきりしたことになる。次に能力を見せるのは、果たしてその中の誰になるのか。


「…!! お嬢!!」


不意に扉の方から敷島が白亜を大声で呼ぶ。その声に反応した白亜は一瞬だけ思案顔になり、すぐに春人を見る。


「分かってるわ。なら、ハルも連れていきなさい」


用件を一切伝えてはいないが、白亜にはその意図が分かっているようで、春人も一緒に連れていくように二人に告げる。


「了解しました、お嬢様。さ、ハル君はこちらへ」


「え、何を…」


飛鳥に腕を掴まれて扉へと連行されている春人は全く状況を理解出来ていない。どうやら周りの仲間は理解出来ているらしい。入って間もなくでこの会話だけで意図を汲み取れ、というのも無茶なのであるが。


「丁度いいわ。しっかりと見てきなさい」


扉を出る直前に聞こえたのは、白亜のその言葉。そして二人の顔を見て春人はようやく理解した。


「なぁに、心配そうな顔をするな春人」


「サクッと片付けますので」


二人のその言葉は、敵襲を春人に知らせるには十分過ぎるものだった。

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