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「飛鳥、敷島は入り口付近で待機。有事に備えなさい。他は私から必要以上離れないこと!」
「了解した、お嬢」
「かしこまりました、お嬢様」
『over time』下での、迅速かつ的確な指示。飛鳥と敷島は、白亜の側近である為かこのメンツの中でも戦闘慣れ、もしくはずば抜けて強いのであろう。二人は100%起こらないとも限らない敵の奇襲に備えて自らの持ち場に立つ。
『over time』以外は攻撃禁止、ということは敵は必ず『over time』に自分達を狙ってくる。地下室とはいえ、用心に越したことはないという白亜の判断だろう。
「…それじゃあ、手早くやるわよ。『over works』に関しては実際に見るのが一番早いわ。はい、雨から」
そう言って白亜は地下室に常備してあった筆入れからボールペンを1本取り出し、雨へと投げ渡す。
回転しながら雨へと飛んでいくボールペンは、雨の右手に掴まれたその瞬間
「!? ペンが、刀に変わった…」
一瞬輝きを放ち、そのすぐ後には15cm弱程であったペンは…その10倍近くの長さはあるであろう『日本刀』へと変化していた。
その『刀』に春人は少しだけ見覚えがある。あの時雨が使っていたものだ。
「私の『over works』は『右手で触れた棒状の物を刀へと変える』」
『over works』はてっきり何かを『創り出す』ものだと思っていた春人には、その言葉は少々意外であった。
そういえば、雨はいつも服の胸ポケットには何本かペンを入れていた。いつ襲われても、すぐに刀へと変えられるように。
「雨の能力は『over works』の中でもとてもスタンダードなものよ。触れた何かを『変化』させる能力。当然『over time』が終われば元に戻るけどね」
「元剣道部の私には、最高の能力」
「変化って…質量保存の法則とか、そもそも物質そのものがまるで、違…」
「そんな細かいことはいいのよ! これは『異能力』なんだから!!」
勉強ばかりやってきた為か、理屈で物事を考えるタイプである春人には色々と突っ込みたいポイントがあるようだが、それは全て『異能力』だからで片付けられる。理屈や常識が通用しない故に、『異能力』であるからだ。
それに関しては、春人も白亜の勢いに負けたのかなんとか理解する。よくよく考えれば常識でここでの事象を考える方がよっぽど滑稽だ。
「んじゃ、次は俺が。俺のは分かりにくいから、あんまりやりたくないんだけど」
とか何とか言いながらも、レシウスはまたも地下室に常備してある鉄のインゴットを取り出す。何でそんなものがあるのかはもう突っ込まないのが賢明だろう。
鉄インゴットをテーブルの上へと置き、雨と同じように『右手』でその物体へと触れる。
雨の例から考えるに、また何かに変化するのかと思ったがその物体が他の何かに変わることはなかった。それどころか、触れた後に何も起きていないようにしか見えない。
触れた後レシウスはポケットに手を入れてあるものを取り出した。その取り出した物は、春人の思考を更に混乱させる。
「それは、マッチ箱…?」
「あぁ、うん。俺の能力は目に見えるものじゃないからさ。これ使わないと意味ないんだよね」
レシウスはマッチを1本取り、箱の側面に擦り付け火を着ける。そして、あろうことか…鉄インゴットにそれを雑に投げ付けた。
マッチの先に着いた火が、その『燃えるはずのない』物質に触れたその時。
そのマッチの火は大幅に増幅し、レシウスが『右手で触れた物体のみ』を燃やしていく。それが、マッチ程度の火では燃えるはずのない、鉄であろうと。
「…ご覧の通り、俺の『over works』は『触れた物体の可燃性を変える』…だ。地味だけどなかなか使えるもんだよ」
「雨と同じく『変化』の能力だけど、レシウスのは厳密に言えば『性質変化』ね。対火のエキスパートよ」
目の前で起きた事に対して、丁寧に説明していく二人を春人は見れていない。ただ春人の目には、現実では起こり得るはずもないその現象に釘付けになっていた。




