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「…あちゃ~。ハルさんの理解が全く追い付いてないねぇ」
殺し合いをしている、といった事実以上にぶっ飛んだ発言をされた春人の頭はまだそれを理解しきれていない。
戦う為に一番重要なもの、『over works』。白亜が言うには、どうやら『異能力』に近いものらしい。
いくら別世界に来たとはいえ、そんな急に漫画のような話があるわけない、と春人の頭の中の大半を占める。しかし、彼は既に一度それを目の当たりにしていた。
「…! まさか、雨のあの『刀』って…」
「うん、あれが『over works』。私達の、力」
昨日の出来事、それも彼がこの世界に来てから間もなくの出来事を彼は唐突に思い出す。
首を鎌で真っ二つにされそうだったところを『刀』を持った雨に助けられ、この世界の漠然とした説明を受け…『over time』が終わったその後、彼の命を救った雨の『刀』は跡形もなく消えていた。
確かに、彼は雨が『刀』を使っていたのを見たし、それがなければ彼の首は胴体と別れを告げていただろう。
今の今まですっかり忘れていたが、あれが『異能力』で出したものであるならば…一応はその現象に納得出来る。春人を追ってきた男が持っていた鎌も、その能力で出したものであると考えるのが自然だ。
「つまり、『over works』は武器を創る能力なんですか?」
「まぁ、雨の見た後だとそう思うよな。実際はもっと複雑なモンだ」
春人が導き出した答えは、恐らく間違ってはいない。間違ってはいないが、当然大正解でもないのだろう。
春人が更に質問をしようとしたところで、周りの空気が一変する。いや、空気どころではない。『世界』が変わったような錯覚に陥るような変化を彼は肌で感じる。
この感覚を春人は知っている。そして周りの彼等はもっと深く知っているはずの、その感覚。
「あら、なんていいタイミングなのかしら。随分とご都合主義ね」
「お~。これなら、終わったらすぐ寝られるねぇ」
「油断し過ぎるなよ? この時間は危険なんだから」
「能力使うの久しぶりだな。誰からお披露目なんですか、会長」
「少し恥ずかしいですね、あれ使うのは…」
「んにゃー、桃乃ちゃんの力みせてあげるにゃー!!」
「私達の時間」
「…この感覚、慣れないですね…」
突如始まったその時間に和気藹々とし始める一同と、まだこの時間に慣れていない春人。
自ら止めた訳でもないのに、時計の針は午前1時12分からピクリとも動かない。
それは紛れもなく異常だが、この世界の『over worker』にとっては『日常』であろうこの時間。
彼等の時間、『over time』が始まった。




