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「…どう? ハル。逃げ出したくなったかしら?」
1日に2度、それも無作為にやってくる『over time(殺し合いの時間)』と、相手陣営を殲滅させなければならないという事実。
春人が最初にここに来た時に経験した、あの死の恐怖よりも更に恐ろしいものがこの先にはきっと待っているのだろう。
自分が殺される危険性も存在し、なおかつ自分が殺さなければならないという異常性をも孕んでいる今現在のこの状況。
逃げ出したくならない訳がなかった。今すぐにでも夢から覚めて欲しいと願う余裕すらありはしない。
「…もし、これが嫌だと言うのなら…」
「分かってますよ…。もう僕に取れる選択肢は1つしかない…。…ですよね?」
白亜は言っていた。秘密を知った人間を、他所に出す訳にはいかない。そして、恐らくだが戦意の無い人間をここに置いておく義理も…勿論存在しない。
全員が全員この現実を分かってここで暮らして、今までもしてきたのだろう。
「…ごめんなさいね、こんな理不尽なこと…」
白亜はそっと春人から目をそらす。この組織の目的が、もし白亜の言ったことそのままならば、組織の長である彼女の責任は相当重い。
人の命を預り、時には自分の失態で命を落とす可能性も大いに存在する。そして、今ここで彼に決定を促すのも当然のこと彼女の仕事であった。
確かに理不尽だ。話を聞かせる前に決めさせ、その後に取れる選択肢は実質1つしかない。
春人の答えは決まっていた。雨に救われたこの命を、むざむざ捨てる訳には当然いくはずない。自分を孤独ではないと教えてくれた彼等に報いるならば、答えは1つだけだ。
「…戦うのは嫌です。勿論、殺すことも出来ればやりたくはないです。…でも、それ以上に…死なせたくない人達がいる」
いたたまれなくなり春人から目を逸らしていた白亜は、少しだけ驚いた顔をしてまた春人を見る。
「ハル…貴方…」
「自分に何が出来るのかは分かりません。もしかしたら、取るに足らないちっぽけな力かもしれない。…それでも、少しでもここの力になれるなら」
春人はニッコリと笑いながら、そう告げる。逃げ出したい気持ちも、死にたくない気持ちも、理不尽に抵抗したい気持ちも全てが偽物ではない。
だが、彼が言葉にしたのものはそれ以上に本物だ。言葉にした気持ちと思いは、本物になり彼等に伝わる。
「…ね、心配なかった」
「…!…ふん、私は最初から信じてたわ!!」
「バーカ。さっきまで今すぐにでも泣きそうだったじゃねぇか」
「う、うるさい!! 仕方ないでしょ!? 相当酷いこと言ってるんだから!!」
「…素晴らしかったですよ、お嬢様。きっとお嬢様でなければ、ハル君も納得しなかったと思います」
飛鳥の言ったことは、まさにその通りであっただろう。白亜が本気で春人に示したから、彼もそれに本物で答えた。
カリスマ性が溢れてる訳でも、全員をまとめあげる強烈なリーダーシップがある訳でもない。そんな彼女だからこそ、完璧ではないからこそ、その本気の言葉は春人に十分に伝わった。
「…べ、別に褒めても何も出ないわよ! もう!」
相も変わらず、可愛らしくも堂々たるリーダーを見ながら春人は少しだけ笑みを浮かべた。




