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「…凄く、美味しいです」
目の前に出された料理を口にした彼のその感想はきっと本物なのだろう。表情と声色がそれをよく表している。
こんなに温かい食事をしたのは一体いつ以来だったか。そもそも人とこうして話ながら食べるのはもしかしたら初めてであったかもしれない。
「うん、飛鳥の料理は超美味い。これを毎日食べられるんだから幸せだよな」
春人のその台詞を聞いた敷島はうんうんと頷く。その言葉にも春人は例えようもない嬉しさを感じていた。
目の前に並べられた料理の数々は、恐らくただ単に腹を満たす為だけのものではない。
これは、きっと『心』だ。春人がここへ来たことに対する、彼等の心からの歓迎。
それがどういった意図のものであろうとも、それが春人にとって初めて経験するものであったのは明白だった。
「なんか、いいですねこういうの…。初めて、生きてるって感じがします…」
彼は一度死んでここにいるはずなのだから、それもおかしな話なのだが。少なくともその言葉に自嘲といった類いの感情は存在し得ない。
「あはは!! そうよ、その通りよハル。ここでは貴方はちゃんと生きてるわ」
「そう…かもですね」
こうして対話をし、食卓を囲み、笑い合う。それが生きていることなのだと感じるのは人それぞれだろう。だが、春人にはそう感じることが出来ている。恐らく、春人だからこそそれをきっと感じる。
ただ一人で、家族と話すこともなく、機械のように勉強をやり過ぎた彼にとっては。
だから、あの時も涙が出た。彼にとっての家族は同じ家に住んでいた人間に過ぎなかった。それが彼の家での、共通認識。
きっと、ここにはそんなものはない。血の繋がりこそないが、それが全てではない。ここの人達は確かに他のもっと大きなもので繋がっている。
そう確信に至った時、また春人の箸は進む。取り敢えずはこれを食べることが今の彼にとっての喜びなのだろう。
「…そうですね。これがずっと当たり前だと思っていましたが、私達も最初は戸惑ったものです」
「あー、確かに。今でこそ当たり前みたいになってますけど、俺もここ来るまではこんなのありませんでしたね」
「皆で食べれば飯が美味い」
「家で一人で食ってたのが懐かしいぜ…」
「ぼっち飯は辛かった思い出があるにゃ~…」
「…ね? 貴方だけじゃないのよ?ハル。だからこうしてると生きてるって思うの」
今思えば、ここは彼のいる世界とは別物なのだ。彼が一人であった世界とはまるでかけ離れているものだ。
そうして動き過ぎて、結果的に孤立していた人間がここには集う。事情は違えど、境遇は皆一緒だ。
「…全く、その通りですね」
恐らく、彼は今が一番生きていると感じている。一人ではないと気付かされたからだ。
もう目から涙は溢れてはこない。彼はここに確かに生きているのだから。




