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飛鳥が部屋を出た時間とほぼ同じ頃―
「ちょ、一回離してくれ…。自分で歩けるから…」
春人は雨に腕を捕まれて先導されるような形で、広い洋館の中を散策させられていた。
「…逃げられたら、困る」
「逃げないから安心しろ…」
別に捕まれていなくても逃げやしない、と雨に伝えると渋々ながら腕を離してくれた。
白亜達がいた部屋から出てまだそこまで時間が経っていないため、まだまだ行くべき場所はたくさんあるらしい。
「…ここは、見た目よりも広いから。きっとハルを飽きさせない」
「…確かにそうかもな…。部屋とかも多そうだし」
今度は、雨が少し前を歩く形で洋館の中を歩き回る。
外から見る分にも大きな洋館ではあるのだが。
どうやら体感ではもっと広く感じるらしい。曰く、特別な造りをしているとか。
中に入って初めて気付くのは、その奥行き。無限にも感じられるような奥行きがこの洋館には存在していた。
ここまで大規模なものが、どうしてこんなに人気の無いところに存在しているのか。そして、彼らは何故ここに本拠地を構えているのか。
疑問は尽きないが、夜には全てが判明するだろうと思い、今は雨の案内に意識を傾ける。
「ここが、メンバーの部屋。一人一人に個室が用意されてる」
少しして、雨に連れてこられた先はいくつもの扉が並ぶ廊下だった。
ホテルや旅館でしか見たことのないような扉の羅列に春人は少しだけ面を食らう。当然ながらこんな光景は一般家庭ではお目にかかれない。
「え、一人一室あるのか…?どんだけ広いんだよ、ここ…」
「使ってない部屋が大半。因みに二階にもある」
雨の補足を聞いて、春人は頭が痛くなる。今日は規格外のことが目の前に現れ過ぎであるのは否めない。
扉一つ一つをよく見ると、プレートがかかっており各々の名前が刻まれていた。
「…ハルのは、もう少し待ってほしい。すぐに準備するから」
「いや、別に羨ましいとかじゃなくてな…」
その美しい筆記体のネームプレートに少しだけ目を奪われていると、雨が羨ましがってると勘違いをしていた。
春人がここに来たのはほんの数時間前であり、存在しないのは至極当然のことであるので春人は別段気にしてはいなかったのだが。
雨は、クールで口調が冷たいわりにはとても仲間思いで優しい女の子らしい。春人は数時間前に会ったその少女に少しだけ惹かれていた。
「ハルの部屋は、私の隣。いつでも遊びにきて構わない」
「お、おう…。分かった…」
その目の前の少女のギャップに慣れるのには少し時間がかかりそうではあったのは仕方ないことだろう。
因みに、部屋順は右から
レシウス
桃乃
雨
春人
の順であった。敷島と飛鳥は白亜の側近であるため、二階に部屋をかまえてるらしい。
「…? 何で中途半端に部屋が空いてるんだ?」
レシウスと桃乃の部屋の間に二つほど空いてる部屋があるのが春人の目に留まり、雨に尋ねる。
その部屋にもネームプレートらしきものがかかっていたが、裏返しになっているため名前の判別は出来なかった。
「…気にしないでいい。いずれ分かるから」
「…???」
少しだけ沈んだ顔をした雨だが、すぐに曖昧な返答をする。
これぐらいは教えてもらってもいいことのように思えるが、お預けに慣れてしまっていた春人は気にしないことにした。




