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「さて、私達の名前は全て明かしたわ。…でも、ここであなたに選択肢をあげる」
どう自己紹介をしようか、と少年が考えていると白亜は少年を指差してそう言った。
その、少年を見る目は至って真剣だった。そして少年を試すような視線だった。
「…選択肢…?」
「そ。あなたは選ぶことが出来るわ。自己紹介をする前にね」
何を言われているのか少年は理解に苦しむ。そんな少年を見て白亜は微笑を浮かべる。
あんなに騒がしかった周囲の人間も、全員が白亜の話を黙って聞いている。その顔は多種多様であったが、根幹は同じように思えた。
「あなたが自己紹介をすれば、もう私達の仲間になるのは決定よ。でも逆に言えば、自己紹介をしなければあなたは私達の仲間ではないことになるわ」
白亜は淡々と、その『選択肢』について語る。察しのいい人間ならこの時点で白亜の意図が分かるだろう。
そして、少年はその察しのいい人間の部類であった。
「…つまり、ここで属するか属さないかを決めろ、ってことですか…?」
「あら、なかなか頭回るのね。なら、ここがある『組織』っていうのも理解出来てるかしら?」
「それは、…見れば大体…」
こんなところに、大人数が集まっているのだからそれ以外には考えにくい。それに、先程の自己紹介でも組織だと言っていた。
少年の言葉を聞いて、白亜は満足そうな笑みを浮かべる。
「そこまで分かってるなら、もう分かるでしょ?組織の秘密を知った人間はもう逃がす訳にはいかないの。だから、ここで選んでいいわ。仲間になるか、否かを…ね」
自己紹介をしてしまえば、もうここの一員となってしまう。そして組織に属するということは、その組織を全て知ることとなる。
それを知ってしまえば、もう抜けることは出来ない。それが嫌ならここで決めろ。
白亜の話を要約するとこうなるだろうか。至極分かりやすく、そしてまた冷酷な話でもあった。
「強制するつもりはない。お前が決めることだ」
「あくまで私達は選択肢を与えただけ…。どちらを選んでも、あなたに非はありません」
そしてこれは強制ではない。あくまで少年の意思に委ねられている。
別にここに属さなくても、他に行くところはあるかもしれない。そういう選択肢だってたくさんあるはずだろう。
しかし、少年はもう決めていた。
「…春人」
「え?」
少年は小さな声で、誰かの名前を呟く。それは、自己紹介をされたここにいる誰かの名前ではなく。
「…三樹 春人、です。…これから、よろしくお願いします」
今度は、ちゃんと聞こえるように。白亜を真っ直ぐに見定めて、言った。
選べ、と言った白亜は少しだけ驚いた表情を浮かべる。そしてすぐに笑った。
「…驚いたわ。まさか、問答無用で自己紹介をするなんてね。普通は結構迷うところなのに」
「…命を、拾ってもらいましたから。それ以外の選択肢は、ありません…」
少年、改め春人の命があるのは紛れもなく隣にいる雨のおかげなのは言うまでもない。
「ふーん…。なかなかいい人間拾ってきたじゃない、雨」
「私の見る目は、間違いない」
春人の隣で胸を張って満足げに言う雨。それを見て春人は嬉しくなる。
今まで、自分の為だけに生きてきて。ただ一つ出来ることは勉強のみ。
異世界でそんな自分を助けてくれた雨に、感謝してもしきれない。
春人の目は、そう語りかけているようだった。




