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少年を見つめる幼女の目には、何故か分からないがとても大きな自信の色が。
自己紹介程度でここまで意気込むのも珍しい。何かとっておきの隠し玉でもあるのだろうか。
「ふっふっふっ…。私は気付いてしまったわ…」
口元に指を当ててそんな発言をする幼女に少年はおろか、周りの人間も疑問の表情を浮かべる。
何か重要なことに気付いたららしい幼女は、少年を指差して高らかにこう告げた。
「あんたは私達の名前を聞いてない、って言ったけど…私達もあんたの名前を聞いてないわ!!」
当たり前のことを、さも自信たっぷりに宣言する幼女。
場は、先程少年が名前を聞いてないと言った時と同じように静まり返る。
一つだけ違うことは、その場にあった感情が呆れであったことだろう。
「…彼は得体の知れない場所に連れてこられて、名前も知らない人物達に囲まれていたんですよ? 私達の側から名乗るのは当然の話なのでは…?」
飛鳥はため息を少しだけ吐き、幼女に諭すようにとびっきりの正論をぶち当てた。
その反対側では敷島がこれまた爆笑している。声には出していないが、その笑いを隠しきれてはいない。
「…あっ。そういえばそうね…」
そして幼女も簡単に納得する。果たしてさっきの一連の流れは本当に必要だったのだろうか。
少年は、自己紹介をされる前にこの幼女のことが少しだけ分かってきた。
勿論あまりいい方向の理解ではないことは、言うまでもないだろう。
「いつもあんな感じ。気にしないで」
「…みたいだな。」
隣にいる雨が、これは日常だと教えてくれた。出来ればその事実はあまり知りたくなかったことではあった。
「まぁ、いいわ。私も自己紹介させてもらうわね」
今度こそ幼女は少年を見据え、足を組み、右手を前に差し出して自己紹介を始めた。
「私は六條院 白亜。この組織の長よ。呼び方は好きにしてくれて構わないわ」
その堂々たる自己紹介は、イメージが悪い方向へと固まっていた少年の認識を変えさせた。
六條院 白亜。まるでどこかのお嬢様のような…あるいはその通りなのか。どちらにせよ、目の前の人物にはぴったりの名前であるのは間違いない。
金髪ツインテールに、ゴスロリのような格好。幼さを残しながらも美しく整った顔立ち。
そして、先程の失態を忘れさせるような威厳たっぷりの態度と言葉。
少年の頭の中で、この人物がこの場所のトップなのだと自覚させるには十分な自己紹介であった。
「因みに俺はお嬢って呼んでるぞ」
「私はお嬢様、と」
「私はリーダーって呼んでるにゃー」
「俺は…会長って呼んでる」
「ボス」
上から、敷島、飛鳥、桃乃、レシウス、雨の順だ。
誰一人としてちゃんとした名前を呼んでいる者はいない。名前呼びが当たり前と言っていた雨でさえもだ。
レシウスに至っては『会長』と。もう訳がわからなくなっている。
「…あんたは、何て呼んでくれるのかしら…?」
その呼称をあまり気に入ってないらしく、白亜は少年に何と呼ぶのかの確認をとる。
実際少年も何と呼んでいいのか分からなかった。ここでどんな返答をすればベストなのか、少年の経験からは検索結果が出てこない。
「…考えておきます」
そして少年は保留を選んだ。非常に賢い選択と呼べるだろう。
こうして少年の知らない人物はこの場にはいなくなった。
次が少年の番であるのは、誰か言わなくても分かっていることだろう。




