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over time  作者: 森坂 輝
『over workers』
13/40

1-12

敷島拓郎、清井飛鳥、桜庭桃乃、レシウス=リィン…。


自己紹介で教えてもらった名前が、少年の頭の中を回る。


人の名前を覚えるという行為は、人とあまり接することがなかった少年にとって新鮮なものだった。


暗記は得意だ。そればかりやってきたのだから。


しかし、目の前に人がいて。その人物に名前を教えてもらって。そうして覚える何かは、ただ暗記をすることよりもスッと頭の中に入ってくる。


「次、私の番」


そう呟く少女の名前は、きっと一番簡単に覚えられるはずだ。


少年のすぐ横にいた少女は、身体の向きを少年の方へと動かす。


少女の身体が完全に少年の方へ向くと、少年も少女に向き合った。


目と目が合う。少女の意志の強そうな目は、少年の目を捉えて離さない。


冬崎フユザキ アメ。私の、名前。気軽に名前で呼んで構わない」


冬崎雨。それが少年を助け、ここまで連れてきた少女の名前。


とても冷たそうで、それでいて美しい蒼い髪。その蒼い髪を後ろに束ねている。


細身の身体に、どこかの学校の制服のような服。身長は少年よりも僅かに高かった。


一見無表情に見えるが、その顔は確かに笑っている。小さな口には、ほんの少し笑みも浮かんでいた。


「よろしく」


そして少年の前に出されたのは、女性にしては少し大きめの手。


その差し出された手を、少年は躊躇いもなく握った。


「こちらこそ、よろしく。冬崎」


しっかりと挨拶を返す少年。しかし、雨の顔は少しだけ曇った。


その表情を見て少年は慌てる。自分は何か気分を害するような発言をしただろうかと、自分の発言を反芻する。


「冬崎、じゃなくて、雨って呼んで」


どうやら自分を名前で呼ばなかったことが不服だったらしい。


「あ、あぁ…。善処する…。」


だが、少年には幾分かハードルが高過ぎた。初対面の女の子を名前呼びするコミュ力は、少年にはまだ存在しなかった。


「ほー、随分積極的だな。自分から名前で呼べなんて」


「仲間なら、名前呼びは当然。でしょ、拓郎」


「…俺を名前呼びするのはお前くらいのもんだがな」


雨は名前呼びにこだわりがあるらしい。無感情そうに見えるが、実は一番仲間思いだったりするかもしれない。


自己紹介を終えた雨は、今度は幼女の方へと向き直る。


それに合わせて少年も同じ向きを向いた。


少年の目が捉えたのは、自信満々に少年を見据える幼女。


まだ名前を聞いていなかったのは、この幼女だけだった。



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