1-10
「じゃ、あんたから自己紹介しなさい」
少年を数秒間だけ見据えた後、幼女は右にいた男の方に目線を移した。
てっきり幼女がまず初めに自己紹介をすると思っていた少年は少し呆気にとられる。
しかし考えてみれば当然の話かもしれない。組織の長であろう幼女は最後に自己紹介をするのが適切だ。
無茶ぶりに近い幼女の発言力だが、右の男は文句など一切言わずに自己紹介を始めた。
「俺は敷島拓郎だ。役職的にはこの幼女の側近って感じだな。よろしく頼む」
右の男の名前は、敷島拓郎というらしい。ごく普通の名前だが、その容貌は普通ではなかった。
燃え盛るような赤い髪に、右目には縦一筋の大きな傷痕。身長は180くらいだろうか。目付きはあまり良くなく、しかし顔立ちは整っていた。
自己紹介を終えると、少年に向けて笑顔を見せる。見た目は怖そうだがそういうとこを見る限り、人の良さそうな感じがする。
敷島はそのすぐ後に左の女をチラリと見る。その目線に気づいた女は、一度目を閉じて少年の方にきちんと向き直る。
「清井飛鳥と申します。敷島と同じく、この方の側近をしております。以後よろしくお願いいたします」
自己紹介を終えると、美しく一礼をする。その姿は非常に可憐で、思わず目を奪われてしまう。
清井飛鳥、と名乗ったその女性は品行方正を絵に書いたようなそんな女性だった。
黒髪の長髪で前髪には髪飾り。顔は美人以外に形容し難い、そんな美しい容姿。スレンダーな体型にはスーツ姿がよく似合っている。
幼女の側近、と自分を紹介したその二人はいずれも一癖も二癖もありそうな人物だった。
「因みに、飛鳥はキレると鬼のように怖いから気を付けろよ」
飛鳥が自己紹介を終えたすぐ後に、敷島が補足の説明をする。
その発言を聞いた飛鳥は、敷島の方にとびっきりの笑顔を向ける。
「敷島…? 余計なことは言わないと約束しましたよね…?」
笑顔なのに、怖いと思ったのは少年の生涯で初めての経験だった。
怒気を孕んだオーラが見える気がする。しかし、敷島はそれを全く気にしていない。
「本当のことだろ? 全部教えとかないとな、こういうのは」
あの恐ろしい笑顔を向けられて、悪びれもせずに悪態をつける敷島に逆に恐怖を覚える。
この人達の関係性は一体どうなっているのだろうか。
「ちょっと…私を挟んで喧嘩しないでっていつも言ってるじゃないの…」
幼女の発言から察するに、これは日常茶飯事らしい。その事実が一番怖いのは言うまでもなかった。
しかし、少年が少しだけ安心していたのもまた事実であった。
少なくとも、ここの人達は自分を拒絶してはいない。そう感じていた。




