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水を打ったように静まり返るその空間。この場にいた少年を除いた全員が衝撃の事実に、驚きを隠せていない。
「い、いや、そういえばまだ名前聞いてなかったな…と。…この娘すらも」
その全員の反応に戸惑いを見せる少年。そして、少年は自分を助けてくれた少女の名前すら聞いていなかったと思い出す。
一連の流れで一切名前が出なかったのは奇跡と言ってもいいかもしれない。
唯一出た人を示す単語はリーダーのみだ。
「え、あんたまだ名前教えてなかったの!? 一緒にここまで来たんでしょ!?」
「…すっかり忘れてた。でも、私も名前、聞いてない」
ずっと表情を崩さなかった少女が少しだけ焦った表情になるのが見てとれた。
因みに少年は名乗るのを忘れていた訳ではない。ただ単にそんなことを考えている心の余裕が存在しなかっただけだった。
そしてこの場に来て、ようやく気付いた。そういえば、お互い名乗り合っていなかったなと。
「嘘だろ…。名前も素性も知らない相手としばらく一緒にいたのかよ…。すげぇな…」
「あんまり、気にしてなかった」
勿論、少女だけである。少年はずっと気まずい気持ちであったし、どう接すればいいのかは当然分かっていなかった。
つまり少年は、名前も知らない年齢も不明。おまけに口数の少ない謎の異性とずっといたということになる。
それは少女の立場に立ってみてもほぼ同じことなのであるが、少女は然程気にしてないとのことだった。
「…はぁ…。私としたことが大事なこと忘れてたわ…」
「無駄にカッコつけようとしてたのが悪いと思います。対面した時に名乗るべきでした」
「ぐ…。それを言われると辛いわね…」
無駄に威厳を保とうとして、醜態を晒す事件が無ければもしかしたら円滑に物事は進んでいたかもしれない。
それはまさにその通りなのであるが。今は冷静に分析をするのではなくて、早く自己紹介をするのが先決だろう。
「取り敢えず仕切り直しにゃ~。入るところから始める~?」
「二度手間じゃない、それ!! …もういいわ。さっさと済ましちゃいましょ」
幼女はコホン、と一つ咳払いをして少年を真っ直ぐに見据えた。




